伊藤: 昨シーズンは、年間総合ランキング1位に輝きました。これはバイアスロンでは日本人初の快挙です。実は久保選手は、昨シーズンから本格的に科学トレーニングを取り入れています。ランキング1位は、その成果ということなんでしょうか?

久保: はい、科学トレーニングの効果は非常に大きかったですね。

 

伊藤: 科学トレーニングを取り入れようと思ったきっかけは何だったのでしょう?

久保: バンクーバーパラリンピックの時、自分の力をすべて出し切ったものの、ロシアの強豪選手たちにはまったく歯が立たなかったんです。バンクーバー以降もさらにトレーニングを積みましたが、なかなか成績が上がらずに、2年間ほどは思い悩んでいました。そんな時、縁あって地元北海道の大学の先生と知り合ったんです。東京農業大学生物産業学部の准教授で、スポーツ科学・生理学を専門分野とされている桜井智野風先生です。

 

二宮: 桜井先生からは、どういう指導を受けたのでしょうか?

久保: まずは定期的に体力測定をして、自分の持っている能力を数値化してもらったんです。そこで自分に不足している部分はどこなのかを出してもらって、それを元にシーズンに向けてのトレーニングメニューを作ってもらいました。そして、シーズンにピークにもっていけるように、どの時期にどういうトレーニングをしなければいけないのか、ということを指導してもらいました。

 

二宮: クロスカントリーという競技は、スタミナはもちろん、瞬発力など、さまざまな要素が必要です。今回、久保さんはどの部分を強化されたのでしょう?

久保: 僕はもともと持久系には強かったんです。だから最初から最後まで一定のペースを保って滑り続けることは得意でした。でも、ここぞという時の瞬発力には欠けていました。一方、ロシアの選手はオールマイティですべての力が揃っているんです。持久力もあるし、それでいてラスト1周、「ここが勝負だ」という時に、ポーンとギアをもう一段上げることができる。そのために、僕はいつも最後の"勝負どころ"でロシアの選手と勝負できていませんでした。

 

二宮: メダルに届くには、最後の爆発力が必要だと。

久保: はい、そうなんです。実際、ロシアの選手を分析してみると、やっぱり自分との違いは最後にギアチェンジできるかどうかでした。それができるか否かで、大きな差になっていたんです。

 

 勝利に不可欠なバックアップ体制

 

二宮: クロスカントリーは、駆け引きの勝負でもありますよね。

久保: はい、その通りです。ライバルの選手たちと今、自分が何秒差かということを把握しながら走っているので、そこでいろいろと戦略を練るんです。例えば、自分が先に仕掛けて、1度ライバルの選手との差を引き離すこともあります。そうすると、必ずライバルの選手には「久保が仕掛けたぞ」という情報が入りますから、そこでプレッシャーを与えることもできるんです。

 

伊藤: お互いに今、何秒差だということは、どうやってわかるのでしょう?

久保: コースの各ポイントには、それぞれチームのスタッフたちが張り付いていて、トランシーバーで情報を入れながら、僕たち選手に伝えてくれているんです。

 

伊藤: クロスカントリーやバイアスロンは、個人競技とはいえ、チーム力が不可欠なんですね。

久保: はい。チームみんなでひとつのレースをつくりあげているという感じです。昨年、僕が世界ランキング1位になれたのも、桜井先生に指導してもらった科学トレーニングのおかげでもありますが、レース中、僕に細かく情報を伝えてくれるスタッフがいるからこそ。そういうスタッフたちの存在が、僕の力になっているんです。

 

二宮: 今はどの競技でもバックアップ体制が勝敗の重要なポイントとなっています。チームの総力が問われる時代になったんでしょうね。

久保: 僕もレースを重ねるごとに、世界に勝つにはいかに周囲の支えが大事かということを感じています。


(第3回につづく)

 

久保恒造(くぼ・こうぞう)プロフィール>
1981年5月27日、北海道生まれ。高校3年時に交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。入院中に知った車椅子マラソンでパラリンピックを目指し、2001年から本格的に活動を始める。07年からはシットスキーでクロスカントリーを始め、翌年夏に日立システムアンドサービス(現日立ソリューションズ)スキー部に入る。10年バンクーバーパラリンピックに出場。昨季はバイアスロンで日本人初の年間総合ランキング1位を獲得した。ソチパラリンピックではクロスカントリー、バイアスロンで計7種目に出場する。


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