二宮: 久保さんには複数のメダル獲得が期待されていますが、久保さん自身はなかでもバイアスロンのミドルでの金メダルを狙っていると聞きました。バイアスロンはクロスカントリーとライフル射撃を組み合わせた競技です。射撃では、安定した姿勢をキープすることが重要ですが、クロスカントリーで走ったうえで、瞬時に静止するのは至難の業です。"動"と"静"の切り替えはどうしているのでしょう?

久保: 各選手それぞれにスタイルがありますが、僕は常に心拍数が 170くらいのまま撃っています。というのも、目でピントを合わせて撃っているというよりも、ほとんど感覚で撃っているので、心拍数が高いままでも大丈夫なんです。それが僕の強みでもあります。

 

二宮: それだけのテクニックが備わっているということなんでしょうね。

久保: 命中率の高さには自信を持っています。昨シーズンで言えば、合計 180発中175 発を命中させています。これが、僕の最大の武器です。

 

二宮: 視力がずば抜けていると?

久保: いえ、実は僕はどちらかというと、あまり視力がいい方ではないんです。射撃の専門家に聞いたことがあるのですが、見えすぎるよりも、若干ぼやけている方がいいそうなんです。

 

伊藤: 自分のリズムで撃つことが大事になってくるのでしょうか?

久保: そうですね。リズムはとても大事だと思います。

 

二宮: バイアスロンはショート、ミドル、ロングとありますが、いくつのメダルを狙っているのでしょう?

久保: 全3種目での表彰台を狙っています。そして、何度も言いますが、ミドルでは一番いい色のメダルを獲りにいきます。4年前のバンクーバーパラリンピックの時は、初出場ということもあって、自分の実力を出し切れば満足だと思っていました。でも、いざ出てみると、メダルを獲れなかったことが本当に悔しかったんです。それからは勝負に対するこだわりが出てきました。あの時の悔しい思いを忘れずに、この4年間やってきましたので、今回は一番高い所に上がるという強い気持ちを持って臨みます。

 

 社員からの応援が力に

 

伊藤: 久保さんが所属している日立ソリューションズのバックアップ体制は、選手たちにとって大きな力となっているのではないでしょうか?

久保: はい。練習環境はもちろんですが、社員の人たちの温かい応援が、僕たちにとっては何よりの力になっています。

 

伊藤: 応援ツアーで社員の人たちが、北海道での大会やパラリンピックに駆けつけて、旗を振りながら応援してくれるというのが、嬉しいですよね。

久保: はい。寒い中、わざわざ会場に足を運んでくれて応援してくれる姿を見ると、俄然、やる気が出ます。

 

二宮: 前回のバンクーバーパラリンピックでは、同じ日立ソリューションズスキー部の新田佳浩選手が金メダルを獲得しましたが、彼もそういう会社からの応援が励みになっていると言っていました。

久保: 今回もソチの会場に、たくさんの人たちが応援に駆けつけてくれるそうですから、気合いを入れないわけにはいきません。自分の力を出し切って、ひとつでも多くのメダル獲得を目指していきます。

 

(第4回につづく)

 

久保恒造(くぼ・こうぞう)プロフィール>
1981年5月27日、北海道生まれ。高校3年時に交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。入院中に知った車椅子マラソンでパラリンピックを目指し、2001年から本格的に活動を始める。07年からはシットスキーでクロスカントリーを始め、翌年夏に日立システムアンドサービス(現日立ソリューションズ)スキー部に入る。10年バンクーバーパラリンピックに出場。昨季はバイアスロンで日本人初の年間総合ランキング1位を獲得した。ソチパラリンピックではクロスカントリー、バイアスロンで計7種目に出場する。


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