前代未聞の挑戦から道を切り拓いた。
 ラグビートップリーグ、パナソニック・ワイルドナイツのWTB山田章仁は、この5月からアメリカンフットボールのノジマ相模原ライズにも所属し、Xリーグでもプレーしている。それぞれの国内最高峰リーグをかけ持ちして試合に出る選手は、もちろん彼が初めてだ。「両立できずに、どっちつかずになるのでは」との厳しい意見もあったが、山田は結果を残している。ラグビーでは開幕から7試合連続トライを決め、リーグ記録を更新。12トライはランキングトップだ。その活躍が認められ、エディー・ジョーンズ監督率いる日本代表に初選出されて欧州遠征に参加している。ラグビーとアメフト、“二刀流”の相乗効果はどこにあったのか。二宮清純が遠征前の本人に訊ねた。
(写真:21日の親善試合(対バスク選抜)ではスタメンが決定。“代表デビュー”を果たす)
二宮: ラグビーは5歳から始めたそうですが、アメフトに興味を抱いたのは?
山田: 大学(慶應大)の最後の頃ですね。当時、一緒にトレーニングする中に、この春までNFLに挑戦していた井上友綱選手や、Xリーグで活躍している選手もいたので興味が沸きました。

二宮: 小さい頃からアメフトを経験しているならまだしも、大人になってトップレベルで競技を始めるのは大変だったでしょう。そこを敢えて今、挑戦するのはなぜ?
山田: 僕がラグビーを小さい頃からやってきたように、アメフトの選手も昔から競技をやっています。365日、アメフトのことを考えて一生懸命やっているはずです。そんな中に入るのにピークを過ぎたり、引退してから転向するのは失礼じゃないかと思いました。どうせやるなら僕自身もラグビー選手としてピークの時期に挑戦したい。それがアメフトに対する最大限のリスペクトだと考えています。

二宮: 実際にやってみてどうでしたか?
山田: よくボールの形状が一緒なので、同じようなスポーツだと思われますけど、全くジャンルの違う競技です。ここは声を大にして言っておきたいところです。自分自身がすごいと言いたいわけではないのですが、普通は両立できないのではないでしょうか。

二宮: 経験して分かるラグビーとアメフトの大きな違いとは?
山田: 僕はアメフトでもリターナーのポジションだけなので、その観点でしか語れる資格はありません。ひとつ言えることは、アメフトではボールを持って走る際に一斉に相手が自分に向かってくる。怖いと感じるようなプレッシャーの中、相手の守りの穴を見つけて走らないといけません。一方、ラグビーでは地域も守らなくてはいけないので、ボールを持っている選手だけにプレッシャーはかからない。アメフトを経験したことで、今までより視野を広げて走れるようになったと感じます。

二宮: なるほど。それが今季の好調の要因だったわけですね。他にもラグビーは前にボールを投げてはいけませんが、アメフトは投げられます、その点の違和感はありませんでしたか?
山田: 僕はアメフトでは試合中、ボールを投げることはないので、あまり感じてはいません。ただ、練習では自分の後方から飛んでくる球を捕ることがあります。ラグビーでは基本的に前から来るかたちなので、後方からのボールをいかに捕るかは勉強になりますね。

二宮: アメフトは戦術が細かいから、理解するのも一苦労でしょう?
山田: 確かにミーティングが思ったより長くて戸惑いました(笑)。最初はゼロからで何も分からず、ノートをとらないと頭の中に入りませんでしたね。

二宮: 日本では、“小さい頃から、この道一筋”という生き方が成功の近道と捉えられがちですが、海外では複数の競技をかけ持ちしている選手も少なくない。山田さんがアメフトからラグビーに生かせた部分があったように、それぞれの競技のいいところを吸収するやり方がもっと一般的になったほうがいいですね。
山田: 僕の他にも、いろんな競技に挑戦したいと思っている選手は日本にもいるはずです。ただ、現実問題として環境が整わない面もあるでしょう。今回はパナソニックも、ノジマも素晴らしいチームだったからこそ、実現できたことだと思っています。その点は本当に感謝してもしきれません。せっかくのチャレンジで僕が成功すれば、ラグビーとアメフトに限らず、後に続く選手も出てくるかもしれない。逆に失敗すれば、こうやって違うスポーツに挑戦する道を閉ざしてしまう危険性もある。だからこそ、ラグビーもアメフトもしっかりやって結果を残したいという強い気持ちを持っています。
(写真:「石橋は叩く前に渡り切る」が信条。思い切りの良さが今回の挑戦につながった)

二宮: アメフトでは防具をつけてプレーします。この点もラグビーとは勝手が違うのでは?
山田: まだ慣れませんね。コンタクトプレーに関しては大丈夫なように思えて、実際は防具が当たると、とても痛いんです。防具のないところに相手のヘルメットがまともに当たると経験したことのない痛みが来ますよ。「イタッ!!」ってなりますから(笑)。

二宮: その分、ラグビーでは防具をつけませんから、体が軽く感じませんか(笑)。
山田: 確かにアメフトで防具をつけて、その後、ラグビーをやると軽く感じます。もしかしたら、これが一番の好調の要因かもしれませんね。そう信じて(笑)、これからも1試合1試合、ベストパフォーマンスを心がけたいと思っています。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(2012年12月5日号)に山田選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>