9日、バドミントンの全日本総合選手権最終日は東京・代々木第二体育館で、各種目の決勝が行われた。女子ダブルスは橋礼華、松友美佐紀組(日本ユニシス)が藤井瑞希、垣岩令佳組(ルネサス)の途中棄権により2連覇を達成した。同シングルスは今別府香里(パナソニック)がストレート勝ちで、5年ぶりに優勝。一方の男子は、シングルスでは田児賢一(NTT東日本)が佐々木翔(トナミ運輸)を破り、史上3人目の5連覇。男子ダブルスでは早川賢一、遠藤大由組(日本ユニシス)が4連覇を狙う平田典靖、橋本博且組(トナミ運輸)を下し、混合ダブルスでは嘉村健士(トナミ運輸)、米元小春(パナソニック)組が佐藤翔治、西山夕美子組(NTT東日本)に勝って、それぞれ初優勝した。
(写真:女子ダブルス表彰式、左から橋、松友、垣岩、藤井)
 “フジカキ”ペア、まさかの結末

 ロンドン五輪で日本バドミントン史上初の銀メダルを獲得した“フジカキ”こと藤井、垣岩ペア。前日の準決勝では、公式戦で勝っていなかった所属先の先輩・末綱聡子、前田美順組にストレート勝ちし、全日本総合初優勝まで目前と迫った。

 序盤から、ロンドンでも見られた藤井と垣岩の息の合ったコンビプレーが冴え、主導権を握った。競った展開から、8−10とリードを許したが、藤井の安定したレシーブと垣岩の強打で5連続ポイントを奪い逆転に成功する。第1ゲーム終盤には、相手のミスも誘い、最後は垣岩がスマッシュをコートに叩き込み、21−13で第1ゲームを先取した。

 第2ゲームになっても、“フジカキ”の勢いは止まらない。3ポイントを先取して、序盤からリードを奪う。対する昨年の覇者・橋、松友ペアも黙ってはいない。橋が巧みなショットで連続ポイントを奪い、2点差まで迫る。それでも“フジカキ”は、垣岩が3ポイント連続で決め、突き放す。

 しかし、試合は思わぬかたちで終わりを告げる。藤井がネット際でスマッシュを決め、11−7と、このゲーム最多のリードを得る。試合の流れを決めかねない1点かと思われたが、藤井は顔をしかめて、その場に倒れ込む。藤井は右ヒザを痛め、立ち上がれない。
(写真:第2ゲーム途中、コートに倒れこむ藤井)

 8分間の中断を挟み、藤井の右ヒザにはぐるぐる巻きのテーピング。コートに還ってきた彼女に、代々木第二体育館の観衆からは大きな拍手が送られた。痛みをこらえ、プレーを再開した藤井だったが、ケガは軽いものではなかった。直後、自ら×サインを出し、途中棄権した。試合後の彼女は「申し訳ないけど、これはこれでしょうがない」とすっきりした表情だった。対照的にペアの垣岩は涙を見せたが、表彰式では銀メダルをかけて、2人笑顔でしめくくった。

 一方、相手の途中棄権により、橋、松友組は2連覇を手にした。松友は「ああいうふうな形で終わってしまって、最後までやりたかった」と複雑な胸中を口にした。決勝戦では押し込まれ、終始相手のペースだった。とはいえ、それで優勝が色あせることはない。松友の相手のスキを突くような巧みなショットと、高橋のパワフルな強打は、今大会光っていた。前年の王者という立場で、決勝までオールストレートで勝ってきた実力に疑問はない。

 橋は試合後「今後は私たちが引っ張っていけるように頑張りたい」と、次世代の旗頭としての自負も覗かせた。今季限りで藤井が第一線から退くことを表明しているため、“フジカキ”ペアにとって、最後の公式戦と言われている。“オグシオ”“スエマエ”“フジカキ”ときた女子ダブルスの系譜は“タカマツ”が引き継ぐ。

 勝利にも不満顔の絶対王者

「今まで一番納得いかない優勝」と、小島一平、舛田圭太につづく史上3人目の5連覇を果たしたものの、田児に笑顔はなかった。決勝で合いまみえたのは、ロンドン五輪でともに日の丸を背負い戦った佐々木だった。
(写真:険しい表情でインタビューに答える田児)

 4年連続で同じ相手との頂上決戦、過去3回の試合展開から、第1ゲームは主導権を握れると思っていた。しかし、どちらに転ぶかわからないシーソーゲーム。それでも21−17で第1ゲームをモノにする。結果として、苦しみながらも機先を制したことが、第2ゲームを優位に運べた。

 第2ゲームはネットプレー、スマッシュともに長短のショットで、コートを支配した。中盤に強烈なスマッシュなどで連続ポイントを奪われて、2点差に迫られるが、着実にポイントを重ね、21−15で、このゲームもとる。ゲームカウント2−0で王者の座は動かなかった。

 豪快なジャンピングスマッシュ、巧みなヘアピンショットなど、コートで田児は躍動した。前日の会見で「僕のプレーを見に来たお客さんに楽しんでもらいたい」と語っていた。勝敗以上に内容にもこだわった田児だったが、「勝ちを優先してしまって、もっと色んなプレーを見せたかった」と、決勝の出来には不満の様子。「力は均衡している」と相手の実力を認めつつも、思い通りのプレーができなかった心のモヤモヤをはっきりと口にした。

 現在、BWF世界ランキングは5位。見据える先は、世界のトップだ。田児も硬さの見えた第1ゲームについて、決勝の相手が中国のトップレベルの選手だとしたら、「結果は違っていた」と言う。「何かを変えないと厳しい」と自己評価を下していた。5連覇にも満足はない。国際大会で確実にシードを得られる4位以内に入ることが、目標だ。12日から中国ではじまるスーパーシリーズファイナルで、その覚悟を証明したい。

 敗れた30歳のレフティーは、「体力勝負に持ち込みたかった」と、今季のリーグ戦で勝った時のパターンから、長丁場の戦いに持ち込みたかった。しかし、「エンジンのかかる前に勝負を決められてしまった。相手の巧さを感じた」と、佐々木は王者の戦いについていけなかったことを悔やんだ。ロンドン五輪で金メダリストの林丹(中国)に接戦を演じるなど確実に力はついてきている。武器の強烈なスマッシュなだけじゃなく、世界に通用する選手になるためショットの精度の向上を目指す。

(杉浦泰介)