これが4度目となったマニー・パッキャオ対ファン・マヌエル・マルケスのライバル対決を映画「スターウォーズ」に例えている記者がいたが、言い得て妙かもしれない。馴染みのキャラクターたちの最新作だけに、ファンなら結局は誰もが見たいとは思う。しかし、新鮮味自体は乏しい。
(写真:ビッグネーム同士の対戦は今回も興行的には成功が約束されている)
 取材するメディアからも、「パッキャオ、マルケスについて、これ以上何を取り上げればよいのか」と嘆く声が聞こえてきていた。ファイトウィークにラスベガスを訪れても、かつてのパッキャオ戦のようなビッグファイト独特の高揚感が、もうひとつ感じられなかったのは気のせいではなかったのだろう。

 2009年にリッキー・ハットンを2ラウンドで葬り去って以降、パッキャオの相手はすべてトップランク社傘下の顔なじみ選手たち。特にマルケスとは昨年11月に3度目の対戦をこなしたばかりで、“何が起こるのか?”といったスリリングな期待感は、もはやそこにはない。

 もっとも、標準以上の品質、面白さは保証されるという意味でも、「パッキャオvs. マルケス」シリーズは「スターウォーズ」シリーズによく似ている。
 04年5月の初対戦以来、この2人は36ラウンドに渡って常にハイレベルな激戦を繰り広げて来た。結果はパッキャオの2勝1分だが、見方によってはマルケスの3連勝であってもおかしくはない。この8日に行なわれる第4戦でも、またしても息のつかせない接戦が展開されることになるだろう。

 ただ、過去3戦と1つだけ違いがあるとすれば、試合前に“パッキャオ危うし”の見方がこれまで以上に増えていることである。
 代表的なところでは、「ESPN.com」の3人のライターが今週に入っての直前予想で揃って“マルケス勝利”を支持。ブックメーカーの賭け率こそ依然としてパッキャオ有利と出ているが、「今度こそマルケスが明白な形で勝つのではないか」と語る関係者は筆者の周囲にも少なくない。
(写真:パッキャオにはモチベーションの低下がささやかれているが……)

 散々喧伝されているマルケスとの相性の悪さに加え、ここ数戦のパッキャオの動きはもうひとつ。破竹の勢いで快進撃を続けて来たフィリピンの英雄も、33歳を迎えてさすがに衰えは隠せず、6月のティモシー・ブラッドリー戦では“疑惑の判定”ながら7年ぶりの敗北を喫した。

 そんな姿を目の当たりにしてきて、他ならぬ筆者もマルケスの判定勝利を予想している。マルケスにしてももう39歳の老雄だけに、これ以上の伸びしろがないのは事実。ただ、身体能力に依存したパッキャオのようなタイプより、テクニックが自慢のマルケスのほうが衰えのスピードは緩いはずだ。

「これが最後の対戦だよ。彼をKOして、すべて終わりだ」とフレディ・ローチ・トレーナーは息巻いているが、KOでの完全決着を目論むパッキャオ側の意気込みも、むしろマルケスには幸いに働きかねない。
(写真:パッキャオと名デュオを組むローチ・トレーナーも白黒をはっきりつけようと意欲をみせる)

 ここ数年で瞬発力が鈍っているように見えるパッキャオが、踏み込みの鋭さを失い始めているのは確かだろう。それでも強引に飛び込みを続ければ、マルケスの鋭角カウンターの格好のエジキになる。序盤からマルケスがペースを掴み、随所に有効打を打ち込み続けるシーンを想像するのはそれほど難しくない。

 パッキャオの手数の多さを考えればワンサイドゲームにはならないはずだが、前回の対決では判定問題で紛糾しただけに、ここでついにマルケスに好意的な判定が下されても驚くべきではないだろう。

 もちろん、パッキャオに勝機がないと考えているわけではない。かつての野性味と思い切りの良さを取り戻し、相手との距離を詰めるスピードさえ蘇れば、マルケスとの第1、2戦でダウンを奪ったような強烈な左をどこかで打ち込めるかもしれない。その後は相手に息もつかせぬほどの手数を出し、今度こそ誰もが納得する形でパッキャオの手が上がる展開も十分にあり得る。

「マルケスは何かを証明したいと考えていて、僕にもそれに対抗する準備はできている。アクション豊富な良い試合になるだろう。ファンが何の疑いも持たないような形で決着をつけてみせるよ」
 そう意気込むパッキャオにとって、勝負のカギは「踏み込みのスピード」だろう。マルケスとの間の距離を一瞬にしてゼロにできるか、それとも第3戦のように中途半端な位置にとどまるか。言い換えれば、近年は「ボクシングに集中できていない」と囁かれ続けたフィリピンの雄のコンディションが、ここで改めて試されることになる。序盤のパッキャオの動きで、ある程度は結末が読めるようなファイトになる気がしてならない。

「マニーと対戦するのはこれが最後だ。もちろんリングで何が起こるかは分からないけど、僕と彼の戦いはこれで終わりだよ」
 マルケスが語っている通り、フィリピン、メキシコの人気王者対決シリーズもさすがに今回で打ち止めになることが濃厚だ。
(写真:第3戦で不本意な判定で敗れた直後には引退も示唆したマルケスだが、結局は”もう一度”を決意した)

 今回の“4作目”には少なからずうんざりした声も出てきているだけに、たとえ再び大接戦となったとしても、パート5を望むファンはもういないはず。それぞれの形でスターダムにたどり着き、運命に導かれたように出逢った2人のボクサーの大河ドラマは、ここでついに大円団を迎える。

「スターウォーズ」でルーク・スカイウォーカーが父であるダース・ベイダーを打ち破ったように、戦乱に終止符を打ち、新たな方向に足を踏み出すのはどちらか。原点回帰を宣言するパッキャオか、それとも宿敵撃破に執念を燃やすマルケスか――。2人のライバルにとっての“ラストゴング”が、現地8日の夜に打ち鳴らされることになる。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。
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