7年目を迎える東京マラソンは今季からワールドマラソンメジャーズ(WMM)に加わり、ボストン、ロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークが並ぶ最高峰のマラソン大会の仲間入りを果たした。今大会は世界約70カ国・地域で放送されることが決まっており、昨年の28から比較しても注目度は格段にアップした。大会2日前の22日には、主催の東京マラソン財団が会見を開き、今井正人(トヨタ自動車九州)、初マラソンに挑戦する日本陸上トラック界のエース・佐藤悠基(日清食品グループ)や昨年の優勝者マイケル・キピエゴ(ケニア)ら国内外の招待選手が出席し、大会への抱負などを語った。
(写真:健闘を誓う前田<左>今井<右から3番目>佐藤<右から2番目>ら招待選手)
 男子の部は、モスクワで行なわれる世界選手権の選考会を兼ねている。出場を予定していた昨年の東京マラソンで2位に入ったロンドン五輪代表の藤原新(ミキハウス)はケガで欠場。東京マラソン財団の早野忠昭事務局長は「ニューヒーローが生まれることを期待しております」と語った。そこで日本人では、学生時代に箱根を沸かせた2人のランナーに注目が集まる。

 1人目は東海大で3年連続で区間新記録を樹立した佐藤悠基だ。ロンドン五輪では5千メートル、1万メートルに出場した日本トラック界のトップランナーが、ついにマラソンデビューを果たす。1万メートルでは日本歴代3位の記録を持つ佐藤に期待は高まるが、「順位とタイムなど目標とするものを考えていません。マラソンがどんなものかを知るための経験だと思っています」と本人はいたって冷静だ。

 佐藤には「リオデジャネイロ五輪で勝負したい」という思いがあり、まずは自分がどこまでできるか、どこが足りないかをレースで感じ取ろうとしている。「来年以降につながるように、走り切れたらいい」と、今大会の無欲を強調する。アフリカ勢が引っ張るハイペースが予想されるが、佐藤は「ついていきたい気持ちはあるが、自分の状態を見て、冷静に判断したい」と語る。だが「こういった高速レースについていかないと、今後、世界とも勝負できないと思う」との考えもあり、アフリカ勢の独走を指をくわえて見ているつもりはないようだ。日本トラック界のエースが、見据える先はあくまでリオ五輪――。そのための第一歩がスタートする。
(写真:「距離に関しては不安はない」と、初マラソンに臨む佐藤)

 もう1人は、順天堂大時代に山上りの5区で3年連続区間賞を獲得した今井正人。現在も“元祖・山の神”などと紹介を受けるが、「もういいんじゃないかなと」と今井は苦笑する。「そういうふうに覚えてもらえることは、ありがたいことなんでしょうけど。それを払拭できていない自分がいることが嫌ですね。取り払えるような走りを見せたい」と語った。

 マラソンは6度目の挑戦。昨年はロンドン五輪国内選考会のびわ湖毎日マラソンで42位と惨敗した。それから時間をかけて、自身と向き合った。そこで“自分のスタイルとは何か?”と自問し、“しっかりと粘って、後半上げていく”という答えを出した。今までは理想に近付けようという思いが強過ぎていた。「等身大ではなく考え過ぎていた。僕は本能で走るタイプ。野性的な感覚を大事にして走るべきだなと感じました」と、今井は振り返る。世界選手権については「(今大会を)走るからには選ばれたいけど、まずは自分の走りをして、いい勝負をしたい。そうすれば、結果はついてくると思う」と話した。自然体となった今井が“山の神”という看板を下ろせるのか。
(写真:実業団での駅伝も「マラソンのつもりで」調整した今井)

 女子の部では、第一線から退くことを発表した尾崎好美(第一生命)が「ロンドンの結果に満足したわけではないのですが、大きな目標のひとつだった。気持ちが定まらない状況でモヤモヤしていた。自分が求める、そして周囲が期待する走りが今はできない」と、その理由を明かした。ただ、「一度離れてみて、見つめ直してみたい」と復帰の可能性も匂わせた。今大会に対しては「(オリンピックや世界選手権、そしてその選考会)以外のレースを走ってみたいという少し気楽な気持ちで出場を決めましたが、調子が上がってきていて、ひと勝負できたらいいなという気持ちに変わりました」と、プレッシャーからも解放された中で、「序盤から攻めの走りをしたいと思っています」と語った。
(写真:2時間20分台を誇る外国勢にも「できる限り挑戦したい」と話す尾崎)

 車いすマラソンの部では、ロンドン五輪で5位入賞を果たした土田和歌子(サノフィ)が大会6連覇を目指す。ロンドンでは「思う結果が残せなかった」と言う土田は7月にフランスで開催される世界選手権を見据えている。今大会は選考レースではないが、夏に向けてのステップにしたいところだろう。また、東京出身の土田は「地元なので思い入れは強い。(東京マラソンが)国際的なレースになることで、その先のオリンピック・パラリンピックに結びついていくことを選手として願っています」と、競技の第一人者としての気概を見せた。
(写真:車いす男子で初優勝を狙う洞ノ上<左>女子で連覇がかかる土田)

 早野事務局長は「男女ともにコースレコードが期待できるのではないかと思います。男子は国内レース史上でもかつてないレベルの選手が集まりました」と、WMMとなった今大会に期待を寄せる。特に男子は2時間4分台の自己ベストを持つアフリカ勢4人が出場するなど、高速レースが予想される。佐藤、今井ら日本勢には、食らいついていけば好タイムも望めるだろう。レースのレベルアップが日本人ランナーの向上につながれば、日本の陸上界にとって大きなプラスだ。早野事務局長は大会の今後については「世界のベストな選手を招聘し、グローバルスタンダードなレースを展開していきたい」と、名実ともに世界最高峰のレースにしていくことを誓った。成長を続ける東京マラソンは明後日24日、号砲が鳴る。