3年ぶりの決勝進出をかけて挑んだ日本リーグ。伊予銀行男子テニス部はファーストステージこそ1勝3敗だったが、セカンドステージでは3戦全勝とすべての力を出し切り、最後まで食い下がった。だが、結果はブロック4位で3位までが進出する決勝トーナメントにはあと一歩及ばなかった。それでも第1、2戦はシングルス2本とダブルスを全て制覇し、3−0と完勝するなど、各選手が役割を十分に果たした。そのセカンドステージを振り返り、成長した点、そして来シーズンに向けての構想を秀島達哉監督に訊いた。

 目指した最終戦での逆転勝利

「意識を高くもって、やっていこう。それぞれの仕事をきっちりと果たせば、最終戦で何かが起こるはずだ!」
 セカンドステージを前にして、秀島監督はそう言って選手たちを鼓舞した。
 ファーストステージを1勝3敗で終えた伊予銀行にとって、セカンドステージはひとつも落とすことのできない状況にあった。しかも、第1、2戦は3−0で勝たなければ、勝敗数で並んだとしても、3位を争うリコーを上回ることはできない。伊予銀行にとっては、プレッシャーのかかる試合が続いた。

 第1、2戦ともに、シングルスNo.2の飯野翔太選手が接戦の末にストレート勝ちを収めると、それに続けとばかりにエースの佐野紘一選手がシングルスNo1対決で快勝。そして、ダブルスでは第1戦で萩森友寛・坂野俊ペア、第2戦では坂野・廣一義ペアが相手に付け入るすきを与えず、勝利。想定通り、3−0の完勝で連勝を飾った。
「全員、気迫あふれたプレーをしてくれました。この2試合に勝てば、必ず最終戦で何かが起きる、と信じて戦っていましたから、相手を圧倒していましたね」

 迎えた第3戦、伊予銀行は九州電力と対戦した。No.2シングルスの飯野選手が6−1、6−0と圧勝し、伊予銀行がリードを奪った。だが、No.1シングルスで植木竜太郎選手が相手エースに善戦はしたものの、あと一歩及ばずに敗れた。これで1−1。勝負の行く末はダブルスに持ち込まれた。

 この時、隣のコートでは、3位争いをしていたリコーのNo.1シングルスの試合が行なわれていた。この試合に勝てば3位が確定するリコーは、既にNo.2シングルスに勝利し、決勝トーナメント進出に王手をかけていた。だが、伊予銀行にできることは自分たちが勝つことのみ。ダブルスに起用された佐野選手と廣選手は、目の前の試合に集中し切っていた。

 プラスの力に変えたプレッシャー

 秀島監督は、セカンドステージを迎えるにあたり、キーマンのひとりは廣選手だと考えていた。実は、ファーストステージ終了後、廣選手は持病の腰痛が悪化し、セカンドステージの出場が危ぶまれていたのだ。なんとか間に合ったものの、秀島監督はオーダーを悩んでいた。廣瀬選手のモチベーションの状態を見極めようとしていたのだ。

「ファーストステージでも、ポイントは佐野と廣のダブルスだと考えていたんです。ところが、初戦の朝に廣が体調を崩してしまい、急遽オーダーを替えざるを得ませんでした。そのことでチームに迷惑をかけたという気持ちがあったうえに、今度は腰を痛めてしまった。廣には、明らかに焦りがありました。ここでやらなければ、自分の存在価値が否定されるのではないかというくらいの危機感があったと思います」

 そのプレッシャーが、果たしてプラスに働くのか、それとも押しつぶされてしまうのか……。練習などで廣選手から「自分がやらなければいけない!」という気持ちがひしひしと伝わってきた秀島監督は、チームにとって大一番となった最終戦のダブルスに起用することを決めた。すると、廣選手は見事、指揮官の期待に応えてみせた。

「佐野と廣は、このリーグで一番いいプレーを見せてくれました。つまらないミスもなく、リターンもよく入っていました。サーブもファーストの確率が良かったですね。試合のポイント、ポイントをきっちりとモノにしていましたから、危なげない試合展開でした。もう、途中で勝利を確信することができていました」
6−1、6−4でストレート勝ち。秀島監督の計算通り、伊予銀行は3連勝とセカンドステージは完璧な結果を残してみせた。

 光っていたルーキーの活躍

 しかし、ダブルスが終わる前に、シングルス2本目も勝利したリコーの3位が確定し、決勝トーナメント進出が決まっていた。
「すべてはファーストステージの初戦、リコー戦でした。あそこで予定通りのオーダーで勝っていれば、という気持ちは少なからずあります」
 そう悔しさを口にした秀島監督だが、選手の成長も見てとれ、プラス材料もあったようだ。

 なかでも予想以上の活躍を見せたのが、1年目の飯野選手だった。飯野選手はファーストステージも含めて全7試合に出場し、そのうち6試合に出場したシングルスでは5勝している。このことが、チームにとって非常に大きかったという。
「1本目のシングルスNo.2で勝って、リードできるかどうかで、チーム内の気持ちはまったく違うものになるんです。今回は飯野が確実に取ってくれましたので、他の選手たちもモチベーションよくゲームに入ることができました」

 早稲田大学時代、ダブルスではインカレで準優勝するなど、ポテンシャルの高い飯野選手だが、入行したての春先には3カ月間、体調不良でまともに練習することができなかった。そのため、高校生にも負けるほどの大スランプに陥ったという。しかし、そこからトレーニングで追いこみ、フィジカル面での遅れを取り戻した。今では、入行時以上に強化されているという。そして、課題とされてきたメンタルの部分においても、日本リーグでは非常にいい状態をキープしていた。それが安定感につながったのだ。

「飯野が調子を落としている時には、すぐにイライラして、ゲーム展開が速くなるんです。焦りから攻め急いでしまって、自らのエラーで自滅してしまう。しかし、いい時は非常に落ち着いて伸び伸びとプレーします。じっくりと後ろで構えながら、ここぞという時に強打に出る。今回の日本リーグでは、そういうプレーが目立っていましたね」

 ポテンシャルの高さは、エースの佐野選手と遜色ないと指揮官は見ている。あとは自らをコントロールできる対応能力を身につければ、さらにレベルアップするとにらんでいる。「荒削りだからこそ、伸びしろがある」。秀島監督は今後の成長に期待している。

 競争激化でレベルアップへ

 今回の日本リーグでキャプテンの萩森選手が現役を引退した。代わって、新キャプテンに任命されたのは最年長の植木選手だ。練習にも熱心で、根が明るい植木選手に対して秀島監督はキャプテンとしても買っている。

「もともと周りとうまくコミュニケーションがとれる性格ですし、言うことはきちんと言いますから、あまり心配はしていません。自分の色を出してくれさえすれば、いいかなと思っています。プレーでは若手の中に割って入るくらいの気概を示して欲しいですね。一プレーヤーとしては譲ることなく、キャプテンとしてはチームを引っ張っていってほしいなと思っています」

 秀島監督は、佐野、飯野の両選手の2本柱が、来シーズンのカギを握ると見ている。ここにベテラン勢が割って入り、チーム内競争が激化することによって活性化し、チームのレベルアップにつながると期待しているのだ。

 伊予銀行の使命のひとつである愛媛国体まで、あと4年。今年、東京で行なわれる国体では入賞を目指す。そして日本リーグでは決勝トーナメントに進出する上位6チームに常に入ること。そのためには、ライバルのリコーに勝てる戦力を整えることが不可欠となる。
「選手層も戦力も揃いつつある」と手応えをつかんでいる秀島監督。就任4年目となる来シーズンはどんなチームをつくりあげるのか、注目したい。


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