6年後に日本で開催されるラグビーワールドカップ2019の組織委員会が27日、都内ホテルで会見を開き、大会ビジョンと試合開催会場決定プロセスを発表した。試合会場は10〜12カ所となる予定で、14年10月を開催希望自治体による受け入れ書類の提出期限とし、15年3月までには会場を決定する。会見に臨んだ組織委の御手洗冨士夫会長(日本経団連名誉会長)は「大会ビジョンを発表し、試合開催会場の選定という大きなプロジェクトを開始します。ラグビーW杯成功に向かって大きな一歩を踏み出すことに喜びと責任を感じている」と語った。
(写真:会見に出席した(左から)御手洗会長、IRBのホーイW杯開催国協会担当マネジャー、日本ラグビー協会・森会長)
 日本はもちろん、アジアで初となるラグビーの祭典へ本格的な活動がスタートする。この日、発表された大会ビジョンは「成功に導くための4つの柱」と題された以下の4つ。
1.「強いニッポン」で世界の人々をおもてなししよう。
2.すべての人が楽しめる大会にしよう。
3.ラグビーの精神を世の中に伝えよう。
4.アジアにおけるグローバルスポーツの発展に貢献しよう。

 今回のビジョン策定には今年の1月からラグビーファンや関係者にインターネット上でアンケートを実施。3553名から寄せられたラグビーやW杯に対する思いに基づき、組織委や日本ラグビー協会内でのヒアリングと検討を重ね、4つの柱にまとめられた。組織が作成した大会ビジョンのPR映像には、大会成功に向けて「ニッポン全体でスクラムを組もう。Scrum Japan for 2019」が合言葉として添えられており、御手洗会長は「このビジョンを組織委の指針として、試合会場選定やプロモーションなどのさまざまな活動に反映させていく」と開催準備を加速させる考えを示した。

 大会を成功させる上で、組織委が「最も重要なプロセス」が位置づけるのが、試合会場の選定だ。発表された選定までの流れは、会見に同席した国際ラグビーボード(IRB)のリンダ・ホーイW杯開催国協会担当マネジャーが「会場候補地と連携し、検討する十分な時間を確保できるように」と、いくつかの段階を踏まえている。

 まず、開催希望自治体は、この日より組織委から配布される19年の大会概要に加え、98年の長野冬季五輪や02年のサッカー日韓W杯といった過去の国際スポーツイベントによる地域社会への波及効果などをまとめた約130ページに渡る資料を受け取り、プロセス参加への意思表明を書面で行う。7月頃までに希望自治体にはIRBから試合開催に関する全般的な情報が送られ、8月にはワークショップを開催して対話の機会を設ける。

 その上で10月には19年の大会に合わせた試合会場選定のガイドラインを発表。ワークショップ、個別対話などを重ねて、希望自治体は1年後の14年10月までに受け入れ書類を提出する。書類に基づいて14年11月から15年2月にかけて候補地の視察が実施され、開催会場が決まる。この日は早速、13の自治体が資料の受け取りに訪れ、送付を希望しているところも合わせると30カ所が立候補に興味をみせている。

 今月、決定した15年のイングランドW杯の大会会場は10都市の13スタジアムだ。9万人が収容できるロンドンのウェンブリー・スタジアムなど大規模会場がある一方で、イングランドの南西部にある地方都市エクセターのサンディー・パーク(12300人)も開催地に選ばれた。また13スタジアムのうち、7つがサッカースタジアムでIRBもフィールドやインゴールの広さなど会場規格の条件を緩和している。

 日本協会では大会招致の段階から「開催には3〜4万人規模のスタジアムが必要」(森喜朗会長)と考えていたが、ホーイマネジャーは「最低収容人数はIRBとしては明確な数は設けない」との見解を示した。これにより、席数の問題から実施が難しいと見られていた大阪の花園ラグビー場(約3万人収容)や、埼玉県営熊谷ラグビー場(約2万4千人収容)など国内のラグビーを支えてきたスタジアムも候補地として浮上しそうだ。

 もちろんIRBが会場の収容人員にこだわっていないのは、大会のテレビ放映権料やスポンサー料を握っている事情がある。開催国にとってはチケット収入が大会を運営する上での唯一の財源だけに、収容人員の少ない会場を選定すれば、その分、チケット代を高くして対応せざるを得ない。チケット代が高くなれば購入者が減り、かえって売上が落ち込んで大会の盛り上がりが欠けるリスクもある。

 組織委では開幕戦や準決勝、決勝を行うメインスタジアムを8万人収容予定の新国立競技場と想定し、48試合で160万人の観客を見込んでいる。ただ、イングランド大会では260万人の動員を計画しており、組織委の徳増浩司事務局長は「イングランドの場合、小さなスタジアムを選定できたのは、ウェンブリーのようなメガスタジアムがいくつもあるから。日本にはそこまで大きなスタジアムがたくさんない。ガイドラインの作成までに数字は見直すが、どこで線を引くかは難しい」と話した。

 こうした状況を踏まえて、組織委ではガイドラインの作成を10月まで遅らせた(当初は5月に発表)一方で、開催地決定は15年3月頃(当初は同年5月頃)に前倒しした。徳増事務局長は「イングランド大会が15年9月にあることを考えれば、選ばれた自治体が大会を視察するアクションをとりやすいようにしたい」と時期を早めた理由を説明。その分、候補地の視察期間は約4カ月と短くなるが、IRBの理解も得られたという。

 ホーイマネジャーは「新しい環境で大会をホストすることがラグビーW杯とラグビーに新しい一面を与える」と日本開催に期待を寄せる。大会を国内全体でスクラムを組んで成功させるためにも各地で試合が実施され、多くの観客を集めることが重要だ。W杯の行方を左右する大事な作業がいよいよ始まる。