ラグビーの「リポビタンDチャレンジカップ2013」が2日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、日本代表(IRBランキング15位)はニュージーランド代表(同1位)に6−54で敗れた。立ち上がりに先制トライを許した日本は2本のPGで、一時は6−7と1点差に迫る。しかし、以降はオールブラックスに圧倒され、リードを広げられた。6月には強豪・ウェールズ代表から金星をあげたジャパンだが、世界一の固いディフェンスの前にノートライに終わった。
 完敗である。だが、過去の対戦のような惨敗ではない。2011年のW杯では76点差をつけられ、翌年にエディー・ジャパンがスタートして1年半、確かな成長と今後への課題がみえた一戦だった。

「最初の20分はよかった」
 脳梗塞で入院中のエディー・ジョーンズHCに代わって指揮を執ったスコット・ワイズマンテルHC代行が評価したように、立ち上がりの日本はオールブラックスに主導権を握らせなかった。

 スクラムで引けをとらず、3分には世界的なスーパースター、No.8リッチー・マコウの突破を若いWTB福岡堅樹がラインの外へ押し出す。自陣のラインアウトでもしっかりボールを奪い、オールブラックスの攻撃をしのいでいく。

 9分には、ハイパントのキャッチミスを突かれて先制トライを許したものの、キックでエリアを確保し、速いパス回しから反撃を試みた。13分、22分には敵陣内での相手の反則に乗じ、FB五郎丸歩のPGで6−7と1点差に迫った。

「プレーの質が上がって、プレッシャーを感じた。クイックボールは危険だった」とマコウは語る。ここまでは日本の可能性を感じさせる内容だった。
(写真:マコウは日本について「プレッシャーがかかるとボールを失う。もっと保持できれば良くなる」と問題点も指摘した)

 しかし、残りの約60分間は世界一のの強さを思い知らされた。オールブラックスのスタメンはマコウやSOダン・カーターといった主力に、初キャップのメンバー2人を含む若手が加わった陣容。それでも流れるようなパスワークでミスを逃さず、日本陣内に“黒い波”となって押し寄せる。

 26分、28分、31分と続けざまにトライを重ねられ、あっという間に6−28。「ターンオーバーや、キックのキャッチミスに対するリアクションの速さが違う」とキャプテンのWTB廣瀬俊朗はオールブラックスとの差を痛感した。

 後半も人数をかけての正面突破あり、裏をついたキックから一気に走りこんでのトライあり、とオールブラックスのパワーとスピード、そして巧みな試合運びに圧倒される。10分、17分、26分、33分とポイントポイントでトライを決められ、日本は相手陣内にさえ、なかなか入りこめない。

 6−54。大差をつけられた試合で、超満員の秩父宮が一番の盛り上がりをみせたのは終了間際だ。ベテランLO大野均の激しいタックルからカウンターで相手ゴール前に迫り、日本は何度もアタックをしかける。

 だが、オールブラックスは素早く陣形を立て直し、“黒い壁”となって立ちふさがった。それでもボールをキープし、攻め続ける日本。左から中央、中央から右へ展開するも、残り1メートルのところで食い止められる。

 40分を過ぎ、相手のシンビンで数的優位に立った日本は左へつなぎ、最後は福岡が隅に飛び込む。トライ成功かと思われたが、マコウも意地のタックルをみせ、ビデオ判定に。惜しくも福岡の足が先にラインを割っており、一矢を報いることはかなわなかった。

「ニュージーランドはペナルティになってからも、しっかり動いて戻りが速い。日本はそれがまだ全員できていない。そこはニュージーランドに学ぶ部分」
 スーパーラグビー・ハイランダーの一員として、ニュージーランドで戦っているSH田中史朗は、オールブラックスの守備意識の高さを語る。一方で「ペナルティをとられても、ペナルティを取り返して守りきった。今までならトライされて終わりだった。今までの日本にはなかったこと」とジャパンの進化を口にした。

 試合後、日本代表の岩渕健輔GMは「今日をきっかけにニュージーランドは憧れではなく、倒さなくてはいけない相手に変わった」と話した。廣瀬キャプテンも「勝てるポジションに行けたとの思いもある」と明かす。
(写真:「スクラムはベリー・グッド。非常に向上している」と語るワイズマンテルHC代行)

 トライはならなかった福岡も「ディフェンスやブレイクダウンでのスピードを上げ、体を低く持っていけば戦える」と前を向く。途中出場の大学生WTB藤田慶和は「前に出た時は攻められた。戦えるという気持ちが強くなった」と手応えを感じていた。2015年のイングランドW杯、そして日本開催の19年W杯で主力となるであろう若手が世界最強チームに挑んだ経験はさらなる飛躍につながるはずだ。

「世界のトップ10に勝つには同じことを50分間続けなくてはいけない」
 病床のジョーンズHCはコメントを発表し、これからの課題を指摘した。ジャパンは3日から欧州に渡り、世界ランク9位のスコットランド代表戦(9日)を皮切りに4試合をこなす。世界王者から肌で学んだことをピッチで生かすチャンスはすぐにやってくる。