いよいよソチ五輪開幕が目前と迫ってきた。各国の代表選手団が続々と発表され、その陣営が明らかになっている。日本は男子48人、女子65人の計113人で挑むことが決まった。今大会は冬季五輪史上初めて女子選手の人数が男子選手を上回った。団体種目アイスホッケー、カーリングで女子チームが出場するためだ。役員を含めての選手団248人は、冬季五輪の海外派遣としては2006年トリノ五輪を超え過去最多となる。今大会での目標は「金メダル5個、合計10個」と、これまでの冬季五輪で最もメダルを獲得した長野五輪(金5、銀1、銅4)に並ぶことだ。そのカギを握るのは“女子力”と“団結力”だ。
(写真:五輪の経験豊富な日本選手団の葛西主将、田畑副将、小笠原旗手)
 高梨&浅田、宿命のライバルと争う金メダル

 12年夏のロンドン五輪で、日本は過去最多38個のメダルを獲得した。特に3個の金メダルを獲得した女子レスリングや、銀メダルを手にした女子サッカーのなでしこジャパンをはじめとした女子選手たちの活躍が際立った大会だった。そのロンドンに続き、ソチでも女子が男子をリードする可能性は否めない。

 中でも最もメダルが期待される種目はジャンプとフィギュアスケートだろう。新種目女子ジャンプの高梨沙羅は、金メダルの大本命とされている。昨シーズンのワールドカップ(W杯)総合女王は、今シーズンに入っても、W杯13戦10勝で、勝率はなんと7割をゆうに超える。全大会で表彰台に上る圧倒的な強さを見せ、総合連覇をほぼ手中に収めている。一方、最大のライバルと目されていたサラ・ヘンドリクソン(米国)はケガから復帰したものの、直前のW杯には出場しておらず、ぶっつけ本番で臨むかたちとなる。ゆえに高梨有利の声も上がっているが、予断は許さない。1月の世界ジュニア選手権を含め、連戦が続く高梨に比べ、ヘンドリクソンは五輪一本に照準を絞れたともとれる。初代女王の座を巡る争いは、今シーズンW杯2勝のダニエラ・イラシュコ(オーストリア)を絡めた三つ巴の戦いとなりそうだ。

 18年間のスケート人生の集大成としてソチ五輪に臨むのは、女子フィギュアスケートの浅田真央だ。4年前のバンクーバー五輪ではライバルのキム・ヨナ(韓国)に敗れ、銀メダルに終わった。翌10-11シーズンは1勝もできず苦しんだが、徐々に調子を取り戻していった。今シーズンは全日本選手権で3位だったが、GPシリーズでは2勝し、GPファイナルで2連覇を達成した。浅田の代名詞“トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)”を決め、ミスなく滑り切ることができれば、悲願の金メダルが見えてくる。一方のキムは、技の完成度や表現力で勝負する。バンクーバー後は2年の休養をはさんだ。復帰した12-13シーズンの世界選手権を制し、その実力の高さを改めて証明した。今シーズンはケガのためGPシリーズ全戦欠場しており、どんな仕上がり具合なのかは未知数とも言える。それだけに不気味な怖さがある。ジュニア時代から天才少女として、常に比較されてきた両者。最後の直接対決で雌雄を決する。

 他競技に目を向けると、スノーボードのアルペンにもメダル獲得が期待されている。4度目の五輪となる竹内智香はパラレル大回転とパラレル回転の2種目に出場予定だが、彼女の武器であるスピードが生きるのはコース上の旗門の間隔が大きいパラレル大回転だ。実際、昨シーズンはパラレル大回転でW杯初制覇を果たすなど、種目別総合3位となった。今シーズンも2位に3度入った。種目別総合2位と好調を維持している。同種目初のW杯総合女王もわずかに届かなかったが、五輪でメダルを手にした日本人はいない。競技の第一人者として、栄光の道を切り拓きたい。

 女子種目で最初に決勝を迎えるのが、フリースタイルスキーのモーグルだ。開会式前の6日に予選が始まり、8日に決勝が行われる。連覇を狙うハナ・カーニー(カナダ)が頭ひとつ抜けている状況だが、5大会連続出場の上村愛子にも表彰台に上る力は十分にある。これまで初出場の長野から7、6、5、4位と順位をひとつずつ上げてきた。上村は現在33歳、おそらく現役最後の五輪となると見られている。大技「コークスクリュー720」(斜めに2回転)を決め、チームジャパンの火付け役となれるか。

 チームジャパンで新たな歴史を紡ぐ

“長野超え”のもうひとつのカギが日本の強みとされる団結力だ。日本での注目度では女子カーリングや女子アイスホッケーに押されがちではあるが、メダルへの可能性は新種目のフィギュアスケート団体が非常に高い。シングルは男女ともに個人戦でメダル争いに加わるレベルにあるだけに、ペアとアイスダンス次第では頂点も狙える。

 また、個人種目では外国勢に歯が立たなくても、総合力で勝負できる種目もある。その代表例がスピードスケートの女子パシュート、ショートトラックの3000メートルリレーだ。女子パシュートは、初採用となったトリノ五輪で4位、続くバンクーバー五輪では銀メダルを獲得した。昨年からナショナルチームとして合同合宿を行うなど、特に強化を図ってきた種目でもある。今シーズンのW杯では、ソチ五輪代表に選ばれた田畑真紀、菊池彩花、高木菜那の3人で銀メダルを手にした。最年長で唯一バンクーバー五輪を経験している田畑は、「日本の強みは、ひとつにまとまれること」と語っており、チームワークを武器に世界の強豪に挑む。

 ショートトラックの3000メートルリレーは、バンクーバー五輪でメダルを目標にしていたものの、7位入賞にとどまった。4年前のメンバーである酒井裕唯、伊藤亜由子、桜井美馬に清水小百合が加わった4人が中心となって出場した昨シーズンのW杯では総合3位、さらに世界選手権で銅メダルを獲得した。個人で圧倒的な力を誇る韓国、中国がリレーでもメダルを争う相手となる。“氷上の競輪”と呼ばれるショートトラックは、接触や転倒などが頻繁に起こる種目のため、大逆転は十分に有り得る。日本は個人では突出した選手はいないものの、チームとして穴の少ないバランスのとれた陣営である。バンクーバーでは上がることのできなかった表彰台。五輪でのリベンジは五輪で果たすしかない。
(写真:継走の際には混戦となり接触のリスクも高まる)

 前回、5位だった男子ジャンプ団体も個人戦以上にメダル獲得の可能性は高い。“レジェンド”と呼ばれる葛西紀明は7回連続の出場。エース格の伊東大貴、今シーズン前半好調だった竹内拓もバンクーバーに続いて団体戦のメンバー入りが濃厚だ。残りの1枠を清水礼瑠飛、渡瀬雄太が争う。感動を呼んだ長野以来、ここ3大会、メダルに届いていない日の丸飛行隊。ソチの空でV字回復するジャンプを期待したい。

 男子の個人種目にも有力選手はいる。男子フィギュアスケート(シングル)では、羽生結弦、高橋大輔、町田樹に日本の2大会連続のメダルのみならず、同種目史上初の複数で表彰台に上る期待が寄せられている。そのほか、スピードスケートの男子500メートルの加藤条治、長島圭一郎、男子スノーボードハーフパイプの平野歩夢、平岡卓、ノルディックスキー複合の今シーズンW杯総合2位・渡部暁斗もメダル候補だ。

 日本選手団の橋本聖子団長は「選手の力を信じて、全力で目標に向かっていけるようなサポート体制を敷く。それができれば長野を超えることは間違いない」と断言した。皮算用ではあるが、金メダル5個は難しくとも10個以上のメダルは計算できるのではないか。

 橋本団長はソチ五輪を「2020年に東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定した後の最初のオリンピック。ソチの熱い想いをリオデジャネイロから平昌、そして東京へと、つながっていくための大事なスタート」と位置付けている。チームジャパンとして、ロンドン五輪の勢いをさらに加速させ、2年後のリオへとバトンを渡したい。17日間におよぶ祭典は、6日から競技が始まる。

(第14回は2月10日に更新します)
(文・写真/杉浦泰介)