公益財団法人日本自転車競技連盟(JCF)が、日本代表の松本整総監督の解任決議を理事会で行っていた件で、1日、松本氏はJCFと、JCFの佐久間重光副会長を相手取り、総監督としての地位確認と損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。同地裁内で会見した松本氏は「今回の行動は、私益のためではありません。自転車競技連盟の不当で違法なやり方に屈することは、自転車競技の世界だけではなく、スポーツに関わるすべての人々に重大な悪影響があると思った」と法的手段に訴えた理由を説明した。
(写真:JCFの解任理由は「でっちあげ」と主張する代理人の郷原弁護士、松本氏、下弁護士)
 松本氏は45歳で史上最年長G?制覇を達成するなど、競輪界のトップ選手として活躍。長い現役生活を支えた科学トレーニングを他競技のアスリートにも伝授し、指導を行ってきた。11年からは自転車競技の日本代表総監督に就き、2年後のリオデジャネイロ五輪に向けて強化を進めているところだった。

 しかし、JCFは3月、松本氏が強化指定選手にパワーハラスメント行為(本人は否定)を働いたとして厳重注意処分を下した。さらに6月4日の理事会では「成績不振」を理由に松本総監督の解任を多数決で決議した。松本氏は総監督をJCFから委嘱された際の覚書に、任期はリオ五輪の開催される2016年度までと定められ、途中解任はないことが明記されているとして、6月6日に解任差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てていた。

 両者の主張を同地裁が聞く第1回目の審尋(6月11日)では、JCFが「答弁書をもって解任を通知する」と法廷の場で総監督の職を解く旨を改めて表明。これに松本氏は強く反発し、解任通知の撤回を求める催告書をJCFに送っていた。そして、6月30日に開かれた第2回目の審尋で、JCFは成績不振や、連盟と松本氏の信頼関係が損なわれた点などを掲げ、解任を撤回する考えがないことを示した。このJCFの態度に松本氏サイドは「仮の手続きでは解決しない」(代理人の小松正和弁護士)と訴訟に踏み切ることになった。

 訴えでは、JCFに自らが総監督の地位にあることを確認するとともに、解任の情報を本人への通告前にマスコミへ流すなどした不法行為に対して、最大3,410万円(1,100万円+判決確定までの総監督としての報酬相当額)の損害賠償を求めた。また、今回の解任決議を強く働きかけたJCFの佐久間副会長には、総監督の委嘱契約に違反する違法行為を阻止する義務を怠ったとして2,310万円(リオ五輪までの総監督としての報酬相当額)の損害賠償を請求している。

 松本氏は裁判で賠償請求が認められた場合も、「その利益を私個人が得るつもりは全くありません。損害賠償金は全額をスポーツ振興に寄付したい」と語る。その上で「今後もナショナルチームの強化に貢献したいという思いは変わっていませんが、総監督の地位にしがみつく気持ちは全くありません」と単に自身のポストを守るためではなく、JCFの組織運営を健全化すべく法廷で争う姿勢を強調した。