前期は最終戦で愛媛に敗れ、徳島と並んで同率で全日程を終了。徳島との直接対決で負け越していたため、3年連続の前期Vを逃してしまいました。どこかで1勝、もしくは1分けでもしていれば優勝していただけに非常に悔しい結果です。
 前期の投手陣を振り返ると、渡邊靖彬酒井大介が故障離脱した中、5月中旬までは各選手が頑張って結果、内容ともいいものをみせてくれました。しかし、5月下旬以降は、やや疲れも見え、複数点を取られるイニングが目立ちました。毎試合0点に抑えることは難しくても、最少失点で防げるかどうかはピッチャーとしては重要な要素。余計な点を与えたがために勝てなかった試合がいくつもありました。

 この課題はチーム成績によく表れています。香川は被安打(331本)、与四球(112個)ともにリーグ最少。奪三振(311個)はリーグ最多です。しかし、なぜか失点は172点とリーグ3位。優勝した徳島とは20点の差をつけられました。これはピンチで失点をしている確率、複数点を奪われている確率が高いことを示しています。要するに勝負弱い。結果的には、これが1勝に泣いた原因と言えるでしょう。

 では、勝負弱さを改善するにはどうすればいいか。ひとつにはピンチの時のマウンドでの考え方を変えることが重要です。ランナーを背負い、特に外国人バッターなどを迎えると、ピッチャーは初球から慎重に入ろうと考えます。そのため、ボールが先行し、余計にピッチングを苦しくしてしまうのです。

 もちろん、初球から不用意にカウントを取りに行くのは論外ですが、いかに勇気を持ってファーストストライクをとるか。カウントの稼ぎ方を一工夫すると、自分で自分の首を締める必要がなくなります。たとえば、コントロールに自信のあるボールでコーナーにきちんと決める。もしくはカットボールやツーシームといった少し変化するボールでバットの芯を外し、ファールを打たせる。こういったテクニックを磨いてほしいと感じています。

 これは秋のドラフト指名を狙う寺田哲也も例外ではありません。前期は4勝4敗、防御率3.49。先発にロングリリーフとフル回転し、疲れもあったにせよ、成績的には決して良いとは言えないでしょう。彼の真っすぐは素晴らしいものがあります。しかし、変化球の精度はまだまだ。したがって苦しい時にストライクをとれる球種が限られてしまっています。

 スライダーはまずまずなだけに、この夏はもうひとつ武器になるボールを身につけてほしいものです。一番、習得しやすいのはカットボールやツーシームでしょう。ストレートから少し握りや手首の角度を変えれば投げられますから、感覚さえつかめばコントロールできるはずです。

 バッターの手元で動かす変化球を覚えれば、ピンチでも1球でゲッツーに仕留めたり、ファールを打たせることができます。これを意識させれば、得意のストレートも、より効果的に使えるでしょう。寺田には7月中に球種を増やし、秋にスカウトにしっかりアピールしてほしいと願っています。

 変化球をうまく使って開幕からワンステップ上がったと感じるのは抑えの篠原慎平です。ここまでリーグ最多の30試合に登板し、4勝1敗9セーブ。防御率1.40はリーグナンバーワンです。投げることで痛めていた肩の筋力も戻り、球速はMAX153キロまで上がってきました。

 開幕当初は、ほぼストレート一本槍だったものの、5月に入って連打や一発を浴びるケースもあり、本人も考えたのでしょう。ストレートを生かす変化球の活用法を理解するようになってきました。相手がストレート待ちしているところをスライダーやフォークで外したり、また、その逆をみせてストライクをとる。本人もピッチングの幅が広がったと手応えをつかんだのではないでしょうか。

 今後、NPBのスカウトに自身を売り込むにあたってはストレートの伸びを改善することでしょう。現状、篠原のストレートは初速と終速の差が大きく、バッターはスピードガンほどの速さを感じていません。彼はコントロールに不安があるため、どうしてもリリースの瞬間、スナップを使わず、置きに行くようなかたちになっています。

 手首だけ振れと言っても、これは直りません。そこで5月後半からは、下半身でしっかりタメをつくるように取り組んでいます。1、2、3のリズムで投げるのではなく、1、2の3と間をつくる。その分、トップの位置が上がり、腕が先に出てきますから、自ずとむちのようにスナップもきかせることができるのです。NPBでも短いイニングなら十分通用するレベルになりつつありますから、より高みを目指してドラフト指名を勝ちとってほしいと思います。

 後期は寺田とルーカス・アーバインを先発の軸にし、抑えの篠原へつなぐかたちを改めて構築したいと考えています。戦線を離れていた酒井が復帰し、渡邊も8月には戻ってこられる予定です。投手陣の頭数が揃えば、暑い夏場も乗り切れます。優勝と、個々人のNPB入りを目指し、1試合1試合、1日1日を今まで以上に大切に過ごしていきたいものです。

 6月15日にはリーグ10周年を記念して、香川と徳島でOB戦が開催されました。僕も先発と中継ぎで2回登板。引退後、マウンドから投げるのは初めてでしたが、なんとか2イニングを0点に抑えられました。日頃の練習でバッティングピッチャーを務めており、コントロールは良かったものの、ストレートの球速は120キロ台。途中からお尻の筋肉がつりそうで、下半身を鍛えておかないと、まともなピッチングはできないと身をもって痛感しました(苦笑)。

 また8月2日にも香川でOB戦が開催されますから、選手とともにトレーニングもして、前回以上のピッチングをお見せしたいと思っています。もちろん、コーチとして、その時点でチームがいい滑り出しができているよう、週末の後期開幕へ準備を進めていきます。

 チームとしても選手ひとりひとりにとっても勝負の後期シーズンです。前期以上に多くの皆さんの応援をよろしくお願いします。 

伊藤秀範(いとう・ひでのり)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1982年8月22日、神奈川県出身。駒場学園高、ホンダを経て、05年、初年度のアイランドリーグ・香川に入団。140キロ台のストレートにスライダーなどの多彩な変化球を交えた投球を武器に、同年、12勝をマークして最多勝に輝く。翌年も11勝をあげてリーグを代表する右腕として活躍し、06年の育成ドラフトで東京ヤクルトから指名を受ける。ルーキーイヤーの07年には開幕前に支配下登録されると開幕1軍入りも果たした。08年限りで退団し、翌年はBCリーグの新潟アルビレックスBCで12勝をマーク。10年からは香川に復帰し、11年後期より、現役を引退して投手コーチに就任した。NPBでの通算成績は5試合、0勝1敗、防御率12.86。

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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