大相撲力士の時天空は先月の初場所で9勝5敗をあげ、10場所ぶりに幕内で勝ち越した。2004年の名古屋場所で新入幕を果たして以降、4度も幕下に陥落するが、その度に這い上がってきた。時天空は3月の春場所を西前頭8枚目で迎え、この先の結果次第では小結昇進もあり得る。13年名古屋場所以来の三役返り咲きを狙うベテラン力士に、二宮清純が訊いた。


二宮: 2002年名古屋場所の初土俵から所要12場所で新入幕を果たし、当時の史上最速タイのスピード出世でした。
時天空: 自分でもびっくりするほどです。毎場所、番付がどんどん上がっていくのが一番の楽しみでした。“来場所は、どのぐらい上がるかな”とか。本当に相撲を楽しめていたなと思います。

二宮: なるほど。逆に相撲がきつくなってきたのは、いつぐらいからですか?
時天空: 最近ですね。それは体力的にじゃなくて、精神的に。幕下までの若い衆の時は7日間なんですが、関取になると約2週間をもう楽しみながら、やっていましたね。しかし、今はメンタル的を15日間続けて保ち続けるのは、大変ですね。

二宮: 現在、年齢は35歳。体力的な衰えは感じない?
時天空: そこまではないですね。20代よりは体重も、筋肉の張りも多少落ちているでしょうけど、毎日稽古をやっていれば、カバーできるので。やはり一番大きいのはメンタル的な部分ですね。

二宮: とはいえ、これから先、10年も20年も現役を続けられるわけではありません。それまでに、これだけはやり遂げたいということはありますか?
時天空: 1場所でも長く幕内で相撲を取れたらいいなと思いますね。それにはケガをしないように気をつけています。

二宮: 2007年の春場所には小結に昇進しました。もう一度、三役に返り咲きたいという思いは?
時天空: 昨年、豪風が35歳で関脇になったことで、そう思うようになりましたね。あれが戦後で最年長の関脇。実は彼とは同い年なんですよ。だから自分も、チャンスがあれば記録を更新したいなという気持ちはあります。

二宮: そのためにトレーニング方法を見直したりはしましたか?
時天空: 今はとにかく準備運動に長く時間をかけています。昔のように申し合いを何番もできない。申し合いよりは準備運動をしっかりやること。そうすると、筋肉、体も驚かないので、ケガしにくいですよね。

二宮: 同じモンゴル出身のベテラン力士には、旭天鵬関がいます。現役最年長の40歳。昨年の九州場所では三賞も受賞しました。息が長い秘訣は体のバランスがいいんですかね。
時天空: そうですね。背が大きくて、懐が深い。あとは大きいケガがなくて、持病がないっていうのが一番ですね。あの人がいるから、自分もある意味、目標が持てる。もし天鵬関がいなかったら、“35歳なんで、もうダメだな”と思っちゃうかもしれない。まだあの人が40歳でも頑張っているから、“まだまだいけるな”って自分にムチを入れています。

二宮: モンゴル出身力士としては最古参です。日本国籍を取得した先輩でもあります。相談をすることもあるのでしょうか?
時天空: 巡業中などで話しますね。「とにかく準備運動をしっかりして、毎日稽古場に下りることが大事」とアドバイスをくれました。

二宮: 5歳上の先輩力士は12年の夏場所に史上最年長の37歳8カ月で優勝しました。それを考えたら、35歳の時天空関も幕内優勝の可能性は十分あるんじゃないですか。
時天空: ハハハ。みんなにそういうふうに言われますね。「あの人があれだけ頑張って、37歳でも優勝しているんだから、オマエもまだまだいける」と。そう意味ではありがた迷惑ですよね(笑)。

<現在発売中の小学館『ビッグコミックオリジナル』(3月5日号)に時天空関のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>