北京五輪女子マラソン代表選考の最終レースとなる名古屋国際女子マラソンが3月9日、愛知・瑞穂陸上競技場を発着点に行われる。
 同五輪女子マラソン代表には、大阪世界選手権で銅メダルを獲得した土佐礼子(三井住友海上)が内定、昨年11月に行われた東京国際女子マラソンを大会新記録で制したアテネ五輪金メダリストの野口みずき(シスメックス)も代表入りが確実視され、残された切符は実質「1枚」。北京五輪へのラストチャンスとなる名古屋には、この大会の歴代優勝者4人を含む実力派ランナーが集結した。
 当初、出場が予定されていた大崎千聖(三井住友海上)、昨年の名古屋を制した橋本康子(セガサミー)の欠場が発表されたが、今大会には、シドニー五輪金メダリストの高橋尚子(ファイテン)、アテネ五輪代表の坂本直子(天満屋)、39歳のベテラン弘山晴美(資生堂)、ヘルシンキ・大阪世界選手権代表の原裕美子(京セラ)、03年の名古屋を制した大南敬美(トヨタ車体)ら錚々たる顔ぶれが集う。

 中でも注目を集めているのが、06年11月の東京国際女子マラソン以来、1年4ヵ月ぶりのレースとなる高橋だ。名古屋は過去「2戦2勝」と相性抜群。98年大会では、後半に驚異的な追い上げを見せ、2時間25分48秒(当時の日本最高)でマラソン初優勝を果たした。シドニーへの道をつくったのも名古屋だった。故障から明け1年3ヵ月ぶりのマラソンだったが、中間点を過ぎてペースアップ、2時間22分19秒の大会新記録で優勝した。
 金メダルを獲得したシドニー五輪から8年近くが経つ。全盛期の力には及ばないとしても、「記録より勝負」が求められる名古屋で、ハイペースの展開になることは考えにくく、勝ち方を知っている彼女の「経験」は強みとなるだろう。
 今回は初めて中国・昆明で高地トレーニングに取り組んだという。1年4ヵ月、実戦の舞台から遠ざかっているという不安要素はあるが、名古屋には地の利がある。「柔軟性を持って、しっかりレースを把握しながら落ち着いていきたい」との言葉からも、集団の中でレースの流れを見ながらの走りとなりそうだ。勝負どころでどのくらい余裕を持っていられるかが勝負のカギを握るだろう。
「あきらめなければ、夢は叶うんだということを伝えたい」
 自身が「最後の挑戦」と位置づける今回の名古屋で、どんな走りを見せてくれるのか注目だ。
 
 シドニー、アテネとマラソン代表に届かなかった弘山は、39歳での五輪代表に挑む。「どうしてもマラソンで五輪に出たいと思っていたのは8年前。今回は気負いがない」と、自然体だ。
 マラソンでの自己最高記録は、00年大阪で出した2時間22分56秒。今も、練習タイムからは力の衰えは全く見られないという。トラックでは3度五輪に出場。一昨年の名古屋ではマラソン優勝も果たした。五輪代表入りとなれば、陸上での最年長記録となる。日本の女子長距離界を支えてきたベテランは、「勝負というより、最高のものを出したい」と静かに意気込む。

 マラソンで2度の世界選手権を経験している原は、1月の大阪への出場を予定していたが、急性胃腸炎で回避した。足の故障のため万全ではなかった昨夏の大阪世界選手権は18位に終わったが、準備さえできれば、持ち前の積極性と粘り、勝負強さが発揮されるはずだ。
 怪我の回復が間に合わず大阪を回避したアテネ五輪7位の坂本直子も、名古屋のスタートラインに立つ。初マラソン日本最高記録の2時間21分51秒(自己記録)で3位に入った03年の大阪、アテネへの道をつくった04年の大阪あたりのコンディションに戻せているかがカギとなりそうだ。

 今大会、一般参加で挑むスピードランナーの大島めぐみ(しまむら)も有力候補の一人。過去の惜しいレースでの悔しさを糧にマラソン初勝利に挑む。
 1月の大阪では足の故障で途中棄権した加納由理(セカンドウィンドAC)も北京五輪への強い意気込みを見せる。
 2時間25分前後の争いとなれば、安定感のある大阪世界選手権で6位に入った嶋原清子(セカンドウィンド)も上位に食い込んでくるだろう。 
 03年大会を制している大南敬美(トヨタ車体)は今回が8度目の名古屋。故障に苦しむ時期もあったが、今大会は万全の状態で臨む。昨年の名古屋では、序盤に転倒するアクシデントに見舞われた。その後、守りに入った走りをした反省から「自分のペースで走る」ことを今大会のテーマにあげる。名古屋のコースには地の利がある。勝負を仕掛けるのは彼女かもしれない。

 初マラソンで注目されるのが、中村友梨香(天満屋)と尾崎好美(第一生命)だ。21歳の中村は、昨年12月の全日本実業団女子駅伝で、エース区間の3区(10キロ)で渋井陽子(三井住友海上)を抑えての日本人トップの区間2位、同月の山陽女子ロード(ハーフマラソン)でも1時間10分23秒で日本人トップの3位に入るなど、好調だ。今大会へ向けて2度の40キロ走などでスタミナを養った。チームの先輩である坂本が持つ初マラソン日本最高記録(2時間21分51秒)を出す力もあると言われているだけに、楽しみな存在だ。
 一般参加で挑む尾崎も、2月3日に行われた丸亀ハーフマラソンで日本人最高の2位に食い込むなど好調だ。
 昨年の名古屋で一時は独走態勢を築いたもののガス欠で34キロ地点で棄権した高仲未来恵(セガサミー)は、40キロ走を3回こなし、リベンジの舞台に挑む。

 1月に行われた大阪国際女子マラソンで日本人トップの2位に入った森本友(天満屋)の2時間25分34秒を上回るタイムで日本人トップになれば、代表入りは確実と見られる。今大会、海外招待選手では、ジョイス・キルイ(ケニア)の2時間26分52秒が最高であることからも、優勝争いは日本人中心となりそうだ。
 名古屋のコースは風が強く年によって気温の差が激しいことから、コンディションによって記録が大きく左右される。レースが動くのは、追い風となることが多い折り返しの30キロ以降となりそうだ。ゴールの瑞穂競技場へと続く長い直線道路は過去に数々の逆転劇が生まれているだけに、最後まで目が離せない。
 大混戦が予想される名古屋を制し、北京の切符を手にするのは果たして誰か――。

★出場予定の主な有力選手(※自己最高記録)
高橋尚子(ファイテン) ※2時間19分46秒
坂本直子(天満屋) ※2時間21分51秒
弘山晴美(資生堂) ※2時間22分56秒
大南敬美(トヨタ車体)  ※2時間23分43秒
原裕美子(京セラ) ※2時間23分48秒
加納由理(セカンドウィンドAC) ※2時間24分43秒
堀江知佳(アルゼアスリートクラブ) ※2時間26分11秒
嶋原清子(セカンドウィンドAC) ※2時間26分14秒
平良茜(パナソニック) ※ハーフマラソン1時間9分17秒
中村友梨香(天満屋) ※ハーフマラソン1時間10分3秒
ジョイス・キルイ(ケニア) ※2時間26分52秒
大島めぐみ(しまむら) ※2時間24分25秒
高仲未来恵(セガサミー) ※ハーフマラソン1時間8分32秒
尾崎好美(第一生命) ※ハーフマラソン1時間9分26秒

2008年名古屋国際女子マラソン大会
2008年3月9日(日)12時15分スタート
名古屋市瑞穂公園陸上競技場付属マラソンコース
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