開幕から西地区の首位をキープしていましたが、5日の信濃グランセローズ戦は0-7で敗れました。この結果、福井ミラクルエレファンツに首位の座を明け渡してしまいました。ここ数試合は負けられない状況が続いており、選手たちはプレッシャーに感じて本来の力を発揮できなかったことが敗因でしょう。

 

 その2日前に行われた福井との首位攻防戦は5-5の引き分けに終わりました。先発はエースの安江嘉純。彼は変化球でストライクを取れることが特長です。最速151キロのストレートも素晴らしいですが、スライダー、フォーク、ツーシーム、チェンジアップなど多彩な変化球も操れる安定感のあるピッチャーです。

 

 福井戦は初回から148~149キロを出すほど、気合いが入っていました。彼も大事な試合だという意識はあったと思う。しかし、序盤から飛ばしすぎたことで、中盤以降にバテてピンチの場面で踏ん張れずに2点を献上してしまいました。この日は5回3分の2を投げて降板。後続のピッチャーが打たれ、序盤に奪ったリードを守り切れませんでした。本音を言えば、安江には6回を投げ切って欲しかったです。

 

 前期のこれまでのチームデータを見ると、8球団の中で三振の数が「203」と一番多いです。選手たちには「1イニング3球で終わってもいいから、初球から積極的に振ろう」と指導しています。そういう方針の中、三振の数が多いのは、甘い球を捉えきれずにファウルでカウントを悪くしている。相手バッテリーに追い込まれて“三振”を取られているのでしょう。積極的に振る分、しっかりと準備をしてきちんとボールを捉えられるようにしなければなりませんね。

 

 今季の投打の中心を担ってくれている選手は、投手は先発の安江をはじめ、リリーフの矢部佑歩、守護神の寺田光輝です。野手は1番・ショートの坂本一将、4番の宮澤和希、キャッチャーの大村孟です。

 

 その中でもチームの“起爆剤”になっているのは1年目の坂本です。やはり、先頭の坂本が出塁すると、チームに“絶対に得点を挙げるぞ”という雰囲気が生まれます。彼が出塁するとしないでは、チームのムードがガラリと変わるので、彼は打のキーマンですよ。

 

 守護神の寺田はこれまで16試合投げて防御率0.00でリーグ最多の9セーブを挙げています。実はシーズン始まる前、寺田を8回か9回のどちらで使うか迷っていたんです。僕のクローザーの条件は「コントロールが良い」「三振が取れる」の2つです。彼はフォアボールで崩れることなく、三振が取れるピッチャーです。クローザーの条件に彼が一致したので、今季の守護神に抜擢しました。寺田は身長175センチと小柄ですが、真っすぐのスピードとボールのキレが素晴らしい。特に右バッターに対するスライダーのキレは一級品です。

 

 安江と寺田の球のキレは巨人・長谷川以上

 昨年、石川からドラフトで巨人の育成に指名された長谷川潤は、3月に支配下登録を勝ち取り、5月6日の中日戦で一軍初登板しました。彼に続くNPB入りする選手の輩出をチームで目指しています。今季の石川は個々の能力の高い選手が集まっているので、その可能性は十分にあると思います。

 

 野手の坂本は、守備と走塁に関してはすぐにでもNPBで通用するレベルです。課題は打撃レベルを向上させることでしょう。140キロ後半のボールに対して思うようなスイングができていないので、速いボールに対応できる自分のスイングを模索して欲しいです。現段階でもNPB入りの可能性は高いですが、弱点を克服できればより一層、坂本の評価は高まるでしょう。

 

 先述した安江と寺田を去年の長谷川と比べてみると、ボールのキレと安定感では長谷川を上回っています。長谷川はサイドスローで安江はオーバースローなので、タイプが異なるため比較しにくいですが、球威は安江の方があります。長谷川と同じタイプの寺田は、ボールのキレで勝っている。今季はNPB入りの可能性が高い選手がたくさんいるので、秋のドラフトが楽しみです。

 

 現在、チームは2位です。再び首位に返り咲くためには「先制点を取ること」をさらに徹底していこうと思います。ゲームの終盤を締めるリリーフ陣は寺田や矢部などがいて盤石なので、先手を取って後ろに繋ぐ。そして、リリーフ陣が0点で抑える間にさらに追加点を挙げるスタイルで戦います。

 

 選手たちからは“NPBに行くんや”“絶対優勝するんや”という強い意志がひしひしと伝わってきます。チームを勝たせることが監督の役割なので、なんとか選手たちを勝利に導いてあげたいです。

 

渡辺正人(わたなべ・まさと)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督

1979年4月3日、大阪府出身。上宮高から98年ドラフト1位で千葉ロッテに入団。4年目の01年に一軍初出場、初安打を記録。翌年から一軍に定着すると、自身最多の106試合に出場した。03年は主に守備固めとして、2年連続100試合(104)に出場。05年の日本シリーズでは、第1戦で先発起用されると攻守にわたって活躍し、チームの31年ぶりの日本一に貢献した。13年からはBCリーグの信濃グランセローズに守備・走塁コーチ兼任選手として入団。14年のシーズン中にコーチ専任になる。15年にヘッドコーチとして石川に入団。15年10月、監督に就任した。NPBでの通算成績は492試合140安打、打率.207、11本塁打、71打点。


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