「未完の大器」とは、まことに罪作りな言葉である。期待が大きい分、花開かなかった時の落胆も、またひとしおだ。

 

 

 巨人の「未完の大器」大田泰示が北海道日本ハムに移籍することが決まった。大田と公文克彦、吉川光夫と石川慎吾との2対2のトレードだ。

 

 今季は7勝(6敗)3セーブに終わったとはいえ、吉川は2012年の防御率1位(1.71)投手だ。14勝(5敗)をあげ、栗山英樹監督就任1年目でのリーグ優勝に貢献した。

 

 その吉川を放出してまで獲りたかったのだから、日本ハムの大田への評価は相当なものだ。

 

 栗山は「花が開く瞬間が見てみたい。とにかく思い切りプレーしてほしい」と語っていた。

 

 大田獲りの背景には外野手として4度のゴールンデングラブ賞に輝いたことのある陽岱鋼のFA権行使があると思われる。

 

 プロ入り3年目で内野手から外野手に転向した大田は足が速く、守備にも定評がある。同じドームでも札幌ドームは東京ドームよりワンサイズ大きい。大田の守備力がより生きてくる、と球団は判断したようだ。

 

 大田は09年にドラフト1位で東海大相模高から巨人に入団した。原辰徳監督(当時)の後輩ということもあり、入団時からエリート視されていた。

 

 身長188センチ、体重95キロの偉丈夫。高校通算65本塁打は、松井秀喜の60本を5本上回っていた。

 

 球団の期待の大きさは、「55」という背番号にも表れていた。これは松井が02年まで背負っていたものだった。

 

 余談だが、このニュースを受け、当時、ヤンキースでプレーしていた松井は「もう僕には戻る場所がなくなった」と寂しげに語ったという。背番号は野球選手にとっては分身のようなものなのだろう。

 

 ポスト松井を期待された大田だったが、巨人では「未完」のままだった。

 

 今季は自己最高の62試合に出場し、打率2割2厘、4本塁打、13打点。プロ8年間での通算成績は打率2割2分9厘、9本塁打、40打点、11盗塁。これでは期待はずれもいいところだ。

 

 188センチの長身を折るように構えるフォームは随分、窮屈そうに映る。大柄な体をもて余しているような印象がある。

 

 巨人を出てから開花した大砲と言えば、プロ通算131本塁打の吉岡雄二の名前が思い浮かぶ。

 90年に帝京高からドラフト3位で巨人に入団。夏の甲子園の優勝投手として注目を集めた。

 

 92年のオフに内野手に転向したが、1軍と2軍を行ったり来たり。96年のオフ、近鉄にトレードされた。

 これが吉岡には吉と出た。新天地で素質は開花し、01年、02年と2年連続で26本塁打をマーク、“いてまえ打線”の一角を担った。

 

 吉岡が移籍した近鉄には中村紀洋という右の大砲がいた。2歳年下の彼の存在が励みになったと吉岡は語っていた。

 

 日本ハムには中田翔という侍ジャパンの4番がいる。大田の1学年先輩だ。飛躍のための良き手本としたい。

 

 

<この原稿は『サンデー毎日』2016年12月4日号に掲載された原稿です>


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