ナイトタイムエコノミーというビジネス用語がある。読んで字の如く「夜の経済」である。先進都市のロンドンでは夜の経済規模が4兆円にまで膨らんでいるというデータもある。2012年夏に開催されたロンドン五輪・パラリンピックが起爆剤になったというのだ。


 これを参考に、日本でも観光庁を中心にして観光や娯楽、飲食が夜遅くまで楽しめるよう交通機関の24時間運行や施設利用の延長などが検討されている。


 この波はスポーツの現場にも押し寄せている。たとえばBリーグ1部サンロッカーズ渋谷(SR渋谷)はホームの青山学院記念館で行う日曜日の試合を14時台に組むことが多い。通常Bリーグは土曜日がナイター、日曜日は15時スタートが相場だが、SR渋谷は独自に“都会時間”を設定した。


「15時開始という選択肢もあるのですが、近くでランチを食べ、慌てずに来られる時間がだいたい14時頃。16時に試合が終われば、表参道に寄って食事をしたり、近所のスーパーで買い物をして帰ることもできる」(SR渋谷事業統括部・宮野陣部長)。その結果、まちとクラブのウィンウィンの関係が構築されつつある。


 開幕したばかりのプロ野球に目を移してみよう。3日間の平均試合時間は3時間13分(9回まで)。昨季の3時間8分より5分も延びている。


 数年来、NPBは「試合時間3時間以内」を目標に掲げてきた。前コミッショナーの熊崎勝彦は「6時に試合が始まり、9時くらいには終わって家に帰れるのが理想。野球は終盤の7、8、9回がおもしろい。それを見ずして(家路につく)ファンは気の毒。9時までに終われば地上波の放送枠にも収まる。(試合時間短縮に)私は本気で取り組む」とまで言い切った。その背景には「ファンのプロ野球離れを食い止めたい」との思いがあった。ニフティが過去に行ったアンケートでは「プロ野球人気低迷の理由」に「試合時間の長さ」をあげた人が全体の3割を占めた。


 野球は間のスポーツである。“間延び”のスポーツではない。それを体現しているのが10年ぶりに巨人に復帰した上原浩治である。テンポよし、リズムよし、制球よし。復帰後初登板となった3月31日の阪神戦、ストップウォッチで投球間隔を計ると10秒前後でリリースしていた。ボールは「遅っ」でも投球間隔は「速っ」の上原。試合時間短縮の良き手本である。

 

<この原稿は18年4月4日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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