大亀スポーツ振興財団では、スポーツで優秀な成績を収めた愛媛県出身選手や、スポーツ界に貢献した県内の個人、団体を毎年、表彰している。8回目を迎えた今年度も5名の指導者と3つのスポーツクラブの受賞が決まり、20日に表彰式が行われた。受賞者の中から、選手育成などで地道な活動を行った功労者に送られる「菜の花賞」に輝いた聖カタリナ女子高校バスケットボール部・一色建志監督に、自身の指導哲学と今後の目標を訊いた。
 大半が地元出身者

 全国高校総体ベスト4が2回、全国高校選抜ベスト4が5回――。
 聖カタリナ女子高はいまや、愛媛はもちろん全国的にも有名なバスケットボールの強豪校だ。各地から優秀な選手を集めてくる他校とは異なり、部員の7割以上は愛媛県出身者が占める。
「170センチ以上の長身選手も3、4人くらい。でも、手抜きをせずにしっかり練習すれば、全国でベスト8に入るチームはできるんですよ」
 長年の指導者経験で培った一色監督の指導力は誰もが認めるところだ。昨年からはU-18日本女子代表チームのヘッドコーチも兼務。愛媛のみならず日本のバスケットボールのレベルアップに尽力している。

 大学を卒業後、聖カタリナに赴任したのは1984年。それから25年間、バスケットボールの指導一筋でやってきた。「最初は男子と女子のレベル差に戸惑いました。ショルダーパスやチェストパスが全然飛ばない。指の広げ方、手の使い方、足の使い方、ひとつひとつ基礎を丁寧に教えるところから始めました」

 まだ若かったこともあり、毎日のように選手を叱り飛ばした。「まさに“オレに黙ってついて来い”というタイプでしたね」。一色監督は苦笑いして当時を振り返る。しかし、監督に“やらされる”練習では選手たちは伸びてこない。

 選手への指示は明確に

「ある時、“何でこんなにオレは腹立ててばかりなんやろうな”とむなしさを感じたんです。“どうしたら、腹を立てずに済むんやろう”と……」
 選手に対するアプローチが変わったのは、それからだった。
たとえば返事が悪い選手がいるとしよう。それまでは「何や、それ!」とすぐに怒っていた。だが、「オクターブ上げて返事したらどうや?」「語尾を上げて返事したらどうや?」。すると、いい返事が返ってくるようになった。

「シュートにしても、“何で打たんのや”と言っても仕方ない。“こうやって、こう打ちなさい”と明確に指示を出してあげるほうが選手は動きやすい」
 できないことを咎めるのではなく、できるには何をすべきかを教えるようにした。やることがはっきりすれば、選手も進んで練習に励むようになる。「やらされる」練習から「やる」練習への転換。聖カタリナが全国で好成績を残すようになったのは、この頃からだ。

 現在は長期的な視点に立った指導を心がけている。「“今日やったことは、今日できないとダメ”と思うと腹が立ってくる。1年間のスケジュールを考え、計画性を持って教えています」。25年間の指導者生活の中で、どのタイミングで何をすべきかは把握できている。「“あの時に手抜きしていたな”とか“あそこでちゃんとやっていれば”と後悔することは少なくなりましたね」。選手が毎年入れ替わる中、安定した成績を残せている要因がここにある。

 日頃から選手には、「人を裏切るな」と言っている。「先生が来たら一生懸命やる、いなかったらやらないではダメなんです。自分が今、バスケットをできているのは親やいろんな方の協力のおかげ。そういった人の気持ちを裏切ってはいけない」。やれば勝てる、やらなきゃ負ける。単純明快かつ合理的な指導が選手たちをひきつけている。

 楽しみなU-18世代

 U-18の代表チームに関わるようになったのは、6年前。アシスタントコーチを務めたのち、昨年、ヘッドコーチの打診を受けた。「“僕でいいんですか?”というのが正直な気持ちでした。でも、辞めるのは簡単。機会をいただけるのであればやってみようと引き受けることにしました。選手、スタッフに恵まれましたね」

 指揮官として臨んだ08年11月のアジア選手権(インドネシア)で、日本は快挙を達成する。上位3カ国が手にする世界選手権の切符を獲得しただけでなく、決勝で7連覇を狙った中国と対戦。前半のビハインドをはね返し、90−87で逆転勝利をおさめた。19回目の大会で日本は初めてアジアの頂点に立った。

 代表を率いる立場になって、高校生のレベルは世界と戦える位置に上がっていると実感している。「日本はスピードや器用さが持ち味。でも、体格差で劣る外国勢にことごとくリバウンドを奪われて負けてきた。今の代表には身長191センチの渡嘉敷来夢(愛知・桜花学園2年)、184センチの間宮佑圭(東京成徳大高3年)など、強さも兼ね備えた選手が出てきています。彼女たちが主力になった2012年のロンドン五輪や、東京で開催されるかもしれない2016年の五輪は楽しみですよ」

 今年7月に行われる世界選手権(タイ)はインターハイの時期と重なる。残念ながら聖カタリナの監督と兼務している現状では指揮を執ることは難しい。「うまくいけば、世界のベスト8に入れる実力は持っていますよ」。日本女子は最終予選で敗れ、昨年の北京五輪に出られなかった。若い世代の頑張りで、まずはロンドン五輪出場の足がかりをつくってほしい。一色監督は大きな期待を寄せている。

 日本一への挑戦

 聖カタリナにとって、残された最大の目標は悲願の日本一だ。「勝てないということは何かが足りない。それが分かれば苦労しないんでしょうけど……」。一度は頂点に立ちたい。その思いが指導への情熱を支えている。

 4月からの新チームはどうか。
「去年のレギュラーが3人残りますから、そこへ2、3人新たな力が加われば、いいチームができると思います。でも、ウチがいい時は他もいいんですよね(苦笑)」
 春休みの遠征で強豪校の手の内を探るつもりだ。「言葉は悪いけど、愛媛のど田舎のチームでもやれるところをみせたいんです」。その機会を秘かに狙っている。

 その他の受賞者は以下の通り。
<菜の花賞>
 豊田厚志(柔道指導)
 木田多賀子(なぎなた指導)
 桝田憲蔵(剣道指導)
 尾後秀樹(ソフトテニス指導)
<ふるさとスポーツ賞>
 浮穴ゴルフクラブ
 ママさんバレーボール三瓶クラブ
<特別賞>
 八幡浜MTBクラブ

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(石田洋之)
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