軽量級ダブルスカルで13位に終わった昨夏の北京五輪から半年が過ぎた。武田大作選手(ダイキ)は、再びオールを漕ぐ日常に戻っている。今だから語れる五輪のこと、日本ボート界に対する思い、そして次なる目標――。「毎年、毎年が勝負」と語る35歳の今を直撃した。
――昨年は五輪前でお正月もオフはほとんどなかったとか。このオフは少しは休めましたか?
武田: そうですね。秋の大会が終わって体を休ませることができました。やはり五輪は最大の目標。これまでもそうでしたが、終わると燃え尽きてしまうんです。トレーニングを再開してもなかなかモチベーションが上がってこない。

――今も燃え尽き状態が続いていると?
武田: いえ。逆に今は意欲が高まっています。心の整理もつきましたから。昨年末からは、完全に今後を見据えて練習ができています。

――冷静に振り返って感じた北京五輪の反省点を聞かせてください。
武田: トレーニングの成果で間違いなく運動能力はアテネよりアップしていました。でも、力任せになって動きが硬くなったところが反省点です。100ある力を60、70しかスピードに乗せられなかった。体力と、それを生かすための技術がマッチしていなかったんです。
 それと最終のコンディションづくりに失敗しました。4月から国内の合宿では本当にいい状態だったのに、北京に入って体調をベストにもっていけなかった。詰めが甘かったと思っています。

――その反省点を改善することが当面の課題だと?
武田: 今は力任せではなく、なめらかに船を進めることを目指しています。具体的にはワンストロークで進む距離を長くすること。これは本来は力がいるし、しんどいことなのですが、力だけに頼らないで船を動かせるストロークを追求しています。難しいテーマではありますが、チャレンジしなければ成長しませんから。

――向上心が武田選手をここまで支えてきたわけですね。
武田: 練習にしても量は落としたくないんです。年齢を重ねれば質が高くなるのは当然。世界のトップは質も量も高い練習をしています。僕は器用なタイプではないですから、なおさら練習量でカバーするしかありません。

――北京ではパートナーを組んだ浦和重選手が代表引退を表明しました。ダブルスカルでは新しいペアをつくらなくてはいけません。先日の合宿ではいろいろな選手と組んで練習されていました。
武田: 浦選手は本当にいいパートナーでした。北京では彼とでなければダメだったとあらためて感じています。今年からヘッドコーチが変わったこともあって、今はいろいろテストしている段階です。個人的には若手に出てきてほしいんですけどね。

――昨年9月の全日本選手権ではシングルスカルで大会最多の10度目の優勝。まだまだ日本のボート界は武田選手の存在が大きい。
武田: 正直、そろそろ僕を追い越す人間が出てきてほしいですよ。今回も浦選手が引退して、新しい人間が代わりを務めることになるのですが、本来なら実力で現役の間にその地位を奪い取るのが普通でしょう。そういう元気な若手が少ないのは気になりますね。

――ベテランとしては若手を叱咤激励する役割も求められていると?
武田: 練習量を落とさないのは、若い選手たちに自分の姿を見て感じてほしいとの思いもあります。先日、選手ミーティングで五輪経験者として話をする機会があったので、「僕たちは弱い」とはっきり伝えました。彼らの取り組みを見ていると、世界選手権を経験している選手でさえ、「とりあえず日本代表になればいい」という意識があるような気がします。

――それは寂しいですね。
武田: もう「参加することに意義がある」時代ではないんですよ。選手である以上、勝負して勝たなくてはいけない。日本で勝つという小さな目標ではダメです。代表選手なら日本でいい成績を残すのは当然ですから、もうワンステップ上を狙わなくてはいけない。「世界では勝てない」。この現実から逃げていては強くなりません。

――意識が変われば世界との差は縮まりますか?
武田: 大きく変わると思います。まず練習量が増えるでしょう。日本では1日1回の練習が普通ですが、外国では朝練をして、昼は働いて、夕方にまたボートを漕ぐ選手もいます。今月行われた代表合宿は強化目的でハードなメニューが組まれていて、体が痛いと訴える選手もいましたが、僕からしてみればまだまだ。合宿の練習が普通になるくらいトレーニングすれば、実力もアップするはずです。

――お話を伺っていると、もう武田選手には2012年のロンドン五輪が視野に入っている印象を受けます。
武田: もう本番までは1200日くらいですからね。出場権を得るための前年のシーズンを考えると、もう残されているのは2年。思ったより時間はないですよ。
 ただ、先程も言ったように世界で勝てないなら出る意味がない。年齢も年齢ですから1年1年、1日1日が勝負なんです。

――当面の目標は?
武田: 今年は8月にポーランドで世界選手権があります。その前にはワールドカップも行われます。4月には代表選考合宿がありますが、そこでは内容を重視するつもりです。もちろん代表に残る必要はありますが、現在取り組んでいるテーマでどのくらいスピードが出るのかを確認したい。世界選手権に照準を定めて、自分自身を高めることははもちろん、ペアを組む若手も見極めていきたいと考えています。

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(聞き手:石田洋之)
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