2008年、ダイキ弓道部は全日本勤労者大会、国体、全日本実業団大会での3冠を目標に掲げていた。しかし、成績は10月18日、19日に東京で開催された全日本実業団大会での近的団体3位入賞が最高。国体の出場権も確保できない結果に終わってしまった。不本意な1年をバネにして、新たな決意で新年にかける選手たちに迫った。
(写真:ダイキ弓道部の選手たち、左から山内、石田、入船、橋本、原田、岩崎)
 楽しんでつかんだ個人優勝

「良いところはあまりありませんでした」「不甲斐なさが残る1年でした」「反省するところばかりでした」「悔しい思いが多々あった1年でした」……。2008年を振り返る各選手の言葉は、結果を残せなかった無念さにあふれていた。

 彼女たちが笑顔になれなかった要因はどこにあるのか。「以前に比べると練習量が少なくなっていました」。昨年10月、3年ぶりに監督復帰した澤田紀之監督はそう指摘する。「1カ月の練習の矢数は500〜600でした。それをぼくは倍にするようノルマを課した。まず数をこなさないことには安定した体力、気力を養えない」。就任直後の全日本実業団では3位と5連覇を逃す形になったが、2009年に照準を定めて練習を組み立てた。

 そんな中、ひとり気を吐いたのが橋本早苗(旧姓・宮本)だ。全日本実業団では女子個人で近的、遠的の両方で優勝を飾った。「弓を楽しめたことではないでしょうか」。勝因を橋本は振り返る。

 この大会の個人戦では各自が4本ずつ放ち、その合計得点で順位を競う。1本目、弓を引いた感触がとても良かった。的に命中し、5点を獲得した。「射型は相変わらず悪いままでしたが、周りの結果にとらわれることなく自分の射に集中することができた。いい波に乗れました」

 2本目、3本目も5点ずつを加え、迎えた最後の1本。ラストで弓を引く橋本の射がすべての順位を決める。「中てないといけないというプレッシャーは不思議となかったです。離れの瞬間、矢に向かって、“飛んでいけ!”、“頑張れ!”と応援していました(笑)」。矢は的の中心をきれいに射抜いた。得点は最高点(10点)。全日本実業団の個人で初優勝を決めた瞬間だった。

「実は、この大会は旧姓(宮本)で臨んだ最後の大会でした。最後に宮本の名前を優勝という結果で刻めて、両親へのいいプレゼントになったかな」。大会後の11月、結婚して苗字が変わった。新婚間もない彼女の今年の目標は「橋本の名前で結果を出すこと」だ。

 課題は射の安定

 明けた2009年、ダイキ弓道部は昨年達成できなかった3冠を目標に掲げて始動した。
「射が安定しない」
 それが各選手に共通する課題だ。特に主将の岩崎留美はここ2年間、本人曰く「ずっと不調」が続いている。2000年に全日本実業団大会(遠的)優勝などの実績を持つ彼女だが、中っていた昔の形を取り戻せないままでいた。「監督には弓を引くときに首が曲がり、あごが上を向いていると言われました。知らず知らずの間にクセがついていたようです。あごをあげず、的を上からにらみつけるように引くことを心がけています」

 今年、初めての大会となった10日の第9回全国弓道遠的大会(東京都)。岩崎は1本目を外して予選通過こそならなかったが、2本目を的中させた。「2本目は満足いく射ができた。次につながる大会でした」。焦らず、基礎からやり直した成果は少しずつ表れている。体全体を使ったダイナミックな射を目指し、今年を復活の年にするつもりだ。

 山内絵里加も遠的大会で新たな年への決意を新たにしたひとりだ。岩崎同様、1本目を失敗し、予選通過はお預けとなった。しかし、このままでは帰れない理由があった。「去年、新年最初の京都の大会(三十三間堂大的大会)でも2射0中だった。今年も2本外したら進歩がないと思いました」。2本目の結果は〇。「来年は絶対に2本とも的中させ、予選通過と上位入賞を目指して頑張ります」。今は自信を持って射ができるよう、クセの改善に励んでいる。

 入舩由布子は念願である国体出場と、参段取得の両方を狙う。「1本差で負けてしまい、国体に出場できなかった。試合での1本の大切さを改めて感じました」。監督からは練習での射を、そのまま試合に出すよう指摘を受けた。「どうしても試合になると、緊張して、すぐに矢を離してしまう。まだまだしっかり引いておかなくてはいけないのに……」

 今年のテーマは丁寧に形をつくること。昇段審査では的中の確実性はもちろん、射型や射場での姿勢もチェックの対象となる。しっかりとした形をつくることが段位獲得に加え、大会での好成績につながる。「的中率7割以上を達成してほしい」。澤田監督も実力アップを期待している。

 昨年の4月に入部したばかりの原田喜美子は「仕事と練習で、朝から晩まで充実している。1年が経つのが本当に早かった」と語る。学生時代は練習だけに集中していても良かった。しかし、社会人となるとそうはいかない。仕事にも弓道にも全力で取り組む必要がある。「弓道で大切なのは精神的に強くなること。気持ちさえしっかりすれば、矢を的に運べると思っています」。両立は決して楽なことではない。だからこそ、やりがいを感じることも多い。メンタルを磨く上でも、ダイキ弓道部は最適の環境だと感じている。

 射即生活の実践

「各選手の課題に合わせて、改造してきた部分がまだ射場では表現できなかった。4月以降に向けて、安定した中りを求めていきたい」
 遠的大会を終え、指揮官は先を見据えている。まずは昨年逃した国体への出場、そして勤労者大会での予選突破。3冠を達成するには、最初のハードルをクリアしなくてはいけない。「1人1人の力はある。それを試合でいかに発揮するか」(岩崎)。「決勝に残っているチームを観ていると、最後の最後まで的とじっくり向き合って離れる瞬間を待っている。最後の「粘り」が大切」(橋本)。まずは己に克つ、そして相手に勝つ。そのためのポイントは選手たちが一番よく理解している。

 あとは実行あるのみだ。「2時間の練習だけが弓道ではない。生活の中でも常に弓を意識してほしい」。澤田監督は1日24時間、365日、弓の道に邁進することを、選手たちに求めている。口で言うほど、それは簡単なことではない。だが、昨年のような不満の残る1年を繰り返すことはできない。射即生活(弓道を日常生活に活かす)の実践――原点に立ち返ったダイキ弓道部は今、浮上への第一歩を踏み出している。

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(石田洋之)
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