今季から1部リーグに復帰する伊予銀行女子ソフトボール部は今月、九州で約1週間に及ぶ強化合宿を行なった。1部で通用する体力とスピードを身につけることを最重要課題に、例年以上に厳しいメニューをこなしたという。開幕まであと2カ月を切った現在、チームはどのような状態なのか。その仕上がり具合について大國香奈子監督に訊いた。

 今年で監督就任4年目を迎える大國監督は、これまで毎年テーマを掲げてチーム育成に励んできたという。
「1年目から1部に復帰したいという気持ちは当然ありました。でも宇津木妙子さんに『自分が思い描いたチームになるには3年はかかる』と言われて、焦らずに3年計画でやっていこうと思ったんです」と大國監督。1年目はまず、自分の考えを選手たちに伝え、理解してもらうところからスタートした。

 大國監督の考えとは、監督に指示されるのを待つのではなく、自分で考え、行動できるチームにするということ。その考えを浸透させるため、選手たちとのコミュニケーションを綿密に図った。特にキャプテン、副キャプテンには準備することの重要性を繰り返し伝えた。

 そして2年目、3年目は技術面でのレベルアップを重点的に行なった結果、伊予銀行は昨季、念願の2部優勝を達成。大國監督が3年を費やしてつくりあげた成果が実ったのである。

 この3年間で最も成長したのがキャプテンの川野真代選手だ。2年前、川野選手を大黒柱としてキャプテンに任命したのはほかでもない大國監督だった。だからこそ紆余曲折を経て、チームをここまで牽引してきた指揮官とキャプテンの信頼は厚い。

「一番変わったのは、やはり川野でしょう。キャプテンとなった1年目にケガをし、そのシーズンはリハビリに費やした。そのため、ほとんど試合には出ることができず、半端に終わってしまった。その時は、本人もキャプテンをもうやりたくないと言っていたんです。でも、昨年は見事に復活してくれた。そしてみんながついてきてくれたからこそ、1部にも復帰することができた。それが彼女の自信にもなっているのでしょう」

 今回の合宿でも川野選手は先頭に立って、厳しいトレーニングに励んだ。連日の練習で疲労がないはずはないのだが、川野選手は疲れているそぶりは全く見せず、常に全力だった。絶対に手を抜くことのないその懸命さには監督さえも尊敬の念を抱くほどだという。また、他の選手にも好影響を与えており、年末から合宿続きだが、チームはモチベーションも高く、非常にいい状態にきている。

 目指すは開幕白星

 今回の合宿では、主にスタミナ、スピード、パワーといったフィジカル強化を図るためのトレーニングを行なった。
「ピッチャー陣に投げてもらって野手に打たせたとき、ほとんどの選手が飛距離が延びていたんですよ。投げていたピッチャーがパワーの違いを感じたと言っていたくらいですから。野手の選手もこれまでのトレーニングの成果を確認できたと思いますよ」
 なかでも川野、中田麻樹、矢野輝美、重松文、中森菜摘の中心選手たちの成長は著しく、順調な仕上がりを見せているようだ。

 また、5人の新人選手たちも1人の脱落者も出すことなく、厳しいトレーニングに食らいついている。特にキャッチャーの池山あゆ美選手は昨季1年目にして正捕手の座を獲得した藤原未来選手に対抗心を燃やし、頑張っているという。もちろん、藤原選手も後輩に負けるわけにはいかないと気合い十分。互いの存在が刺激となり、いいライバル関係がつくられているようだ。

 合宿中、親交の深いルネサス高崎との練習試合が21日(土)、24日(火)に行なわれた。試合前、「若手を多く起用したいと思っています。ルネサスさんといえば女子ソフトボール界で最もネームバリューのあるチーム。レギュラーメンバーではないにしろ、選手たちにとっては非常に大きな存在です。そのルネサスさん相手にどんな戦いをしてくれるのか。技術的なことよりも、メンタル面を見てみたいんです」と語っていた大國監督。

 果たして結果は0勝2敗。しかし、1−2、1−3という好ゲームに大國監督も手応えを感じている様子だ。
「どちらも先取点を挙げられましたし、ピッチャー陣はよく投げたと思います」
 試合前の言葉通り、大國監督は若手選手を起用した。2試合ともに先発したのは新人の末次夏弥選手。通算7回を投げて無失点の好投を披露した。2番手に登板したのは同じく新人の山田莉恵選手。こちらは通算5回を投げて4失点だったが、この経験は次につながる大事なステップとなるに違いない。

 この練習試合で浮き彫りとなったのは守備だ。2試合ともエラー絡みや目に見えないミスでの失点が目立った。
「1部で無失点に抑えるというのは非常に難しい。失点はやむをえないと思っています。大事なのはいかに最少失点に抑えるかということ。例えば、満塁の場面。相手は強肩の川野や重松を避け、ライト方向を狙ってくる可能性が高い。そうであれば、一、二塁間を詰めるといった工夫が必要なんです。今回の練習試合で選手たちも具体的にイメージできたと思います」
 開幕まで約1カ月半。どこまで課題を克服することができるのか。最後の追い込みに期待したい。

 今季の日本女子ソフトボールリーグ1部リーグは4月11日(土)に西武ドームで開幕する。伊予銀行の初戦(12日)の相手は日立ソフトウェア。昨季の1部3位のチーム、そして北京五輪代表が3人いる強豪だ。特に打線は強く、リーグでも1、2位を争うほどの力をもっている。

 だが、伊予銀行にとっても初戦をとれるかとれないかは大きい。もちろん、大國監督は勝つつもりで着々と準備を進めている。ポイントとなるのは、伊予銀行の打線が日立のピッチャーを攻略できるかどうかにあるという。

 実は1部では12チーム中、半数の6チームが外国人ピッチャーがエースを務める。トヨタ自動車には北京五輪で日本代表を苦しめた米国代表のモニカ・アボットが、豊田自動織機には米国の大学No.1ピッチャーがそれぞれ加入。そのほかレオパレス21、デンソー、Hondaは米国人、佐川急便はオーストラリア人だ。ここにルネサス高崎の上野由岐子を含めた7チームはいわゆる五輪レベルでの戦いが強いられる。

 だが、日立のピッチャー陣にいたっては全員が日本人。北京五輪代表も不在だ。「準備さえしっかりしておけば攻略できる確率は高い」と大國監督。昇格したばかりの伊予銀行が強豪日立に一泡ふかせることができるか。開幕が待ち遠しい。

 1部への昇格決定以降、チームはメディアで取り上げられることも多く、地元からも期待の声が多く寄せられているという。
「2部の時はいくら試合に勝っても、地元の人たちからの反応は薄かったんです。試合があることさえ知らなかった人も少なくなかったでしょう。でも、今は地元の皆さんが私たちに関心を寄せ、大きな期待をしてくれている。それを選手自身も感じていて、周りから見られているという意識がいい刺激となっているようです。これまで以上に自主的に練習する姿が多く見受けられるんです」

 課題はあるものの、チームは非常にいい状態だ。キャプテンの川野選手を中心にまとまり、集中して練習に励んでいる。大國監督も「これならいける」と手応えを感じているようだ。とはいえ、厳しい戦いになることに間違いはない。若手が多く、初めて1部を経験する選手が多い若いチームだけに、最後まで今のモチベーションで戦うことができるかがカギとなりそうだ。


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