新時代の幕開け 〜伊予銀行男子テニス部〜
伊予銀行男子テニス部が今、変わろうとしている――。これまで選手を兼任しながら監督としてチームを指揮してきた横井晃一氏と、実質コーチ役として若手を牽引してきた湯地和愛氏が昨シーズン限りで引退した。新監督にはOBの秀島達哉氏が就任。これまでの慣わしだった兼任ではなく、初の専任監督である。さらに、選手たちは今シーズンからは国際大会にも意欲的に出場していく予定だという。新たな道を模索し始めた裏側にはいったいどんな狙いがあるのか。そして、どこへ向かおうとしているのか。改革の先導役である秀島新監督に直撃した。
バラク・オバマ第44代米国大統領が選挙演説で愛用した“CHENGE”。変革を意味するこの言葉が今の伊予銀行男子テニス部にはまさにピッタリである。今月1日付で秀島氏が新監督に就任した。なぜ今、監督業務を独立させたのだろうか。その理由を自らも4年間、プレーイングマネジャーを経験した秀島監督は次のように述べた。
「やっぱり監督と選手を兼任するのは、簡単なことではないですよ。監督といってもプレーヤーである限り、他の選手とはいわゆるライバルにあたるわけですから、迷いが生じることもあるし、遠慮してしまうこともある。お互いに関係を築くのがなかなか難しいんです」
今回、監督と選手の立場を明確にしたことで、行き届いた管理が可能となった。トレーニング一つとっても、徹底した指導ができる。さらに、監督に専念することでチームづくりについてじっくりと構想を練ることができる。だからだろう。秀島監督は就任後、迷うことなく、すぐに動いた。
まず、チームとしての最大の目標を国民体育大会(国体)優勝に一本化した。その背景には今、企業スポーツが直面している問題があった。世界経済が「100年に1度の危機」を迎え、企業のスポーツ界からの撤退が相次いでいる。テニス界も例外ではない。男子では1月の日本リーグで3連覇を達成した強豪ミキプルーン、女子では同リーグ3位の荏原製作所が本社の経営難を理由に休部を決めた。野球や陸上、卓球など、時代のうねりは他のスポーツにも及んでいる。そんな中、企業スポーツが生き残るためには“存在価値”を高めることが絶対条件だ。
元来、伊予銀行に男子テニス部が創設された目的は、地方銀行としての役割、つまり“地域振興”にあった。まさにそれこそが同部に与えられたミッション。「国体優勝」はその原点に返ったというわけだ。
「国体は都道府県の代表が集う大会です。つまり、私たちが国体に出場する場合は四国および愛媛県の代表ですから、他のどの大会よりも“地域”との結びつきは強い。“地域振興”を掲げて設立された我々が、まず果たすべきことはそこにあるわけです」
国体での最高成績は2001年宮城国体での6位入賞。昨年にいたっては、2枠のうち1枠を大学生に奪われてしまった。まずは県予選、四国予選を勝ち抜き、2枠を確保すること。そして、本大会ではこれまで以上に本気モードで優勝を奪いにいく。その延長線上にあるのが全日本選手権、日本リーグなのだという。
普段のトレーニングにも“秀島イズム”が徹底されている。テニス部は火曜日から木曜日の3日間は午前練習が許されている。これまでは朝8時からスタートしていたが、秀島監督はこれを15分早い7時45分とした。それは昨シーズンの日本リーグで課題として浮き彫りとなったフィジカル強化に少しでも時間を割くためである。
「以前からフィジカルの弱さは指摘されていたのですが、日本リーグでそれがはっきりと出てしまいましたね。国内のトップ選手が集う全日本選手権や日本リーグでは、プロ選手との対戦は避けられません。高いテクニックを持つ彼らに対してフィジカル面で負けていては勝負にはならない。ですから今、チームとして徹底して取り組まなければならないのはズバリ、フィジカル強化。練習の始めの約1時間をフィジカルトレーニングに充てています」
さらにやや停滞気味にある現況の打開策として今シーズンからは海外遠征を敢行することが決定した。プロ選手は皆、国際大会に出場し、世界を相手にしている。そこで培われた経験は、自力となって蓄えられる。その時点で既にアマチュア選手との差がある。“プロ”という肩書きに勝つには、まず同じ土俵の上に立たなければならない。秀島監督は、そう考えたのだ。そこで、海外遠征には2名、国内の国際大会においては希望者は全員参加することができるようになった。早速、来月にはキャプテンの日下部聡選手と植木竜太郎選手が韓国で開催されるITF男子フューチャーズに出場する予定だという。レベルの高い環境で揉まれることで得るものは数多くあることだろう。
だが、リスクもある。国際大会に出場すれば、その分国内ランキングは落ちる。さらに、これまでには経験したことのない壁にぶち当たることは想像に難くない。もしかしたら自分のテニスが全く通用せず、これまでやってきたことが否定されてしまう恐れもある。それでも次のステップへ進むには、チャレンジすることは不可欠だ。何事も新しい一歩を踏み出すには勇気が必要だろう。
この国際大会への挑戦によって、秀島監督が最も“CHANGE”を期待しているのが日下部選手だ。実は、日下部選手のプレーに惚れ、大学生の彼を伊予銀行にスカウトしたのは他でもない秀島監督なのだ。だが、日下部選手の入行と同時に秀島監督はテニス部を離れたため、一緒にプレーすることも指導することもできなかった。
「入行したばかりの頃の日下部は積極的なテニスをしていましたよ。強い脚力をいかして得意のフォアハンドで攻めるのが彼の持ち味。ところが、今はミスをしないようにと守りのテニスになってしまった。プレーがとても小ぢんまりとしているんです。でも、国際大会に出場すれば、それでは通用しないということを痛感せざるを得ないでしょうね。こてんぱんにやられることで、彼の意識が変わってくれればと思っているんです」
実は誰よりも日下部選手のフォアハンドを買っていたのは、伊達公子選手の育ての親として知られるナショナルチームのゼネラルマネジャー小浦武史氏だった。入行した当時の日下部選手を見て「あの子は強くなるよ」と言っていたというのだから、素質はホンモノである。日下部選手の今後にぜひ期待したい。
初の専任監督、地域貢献、国際大会への挑戦――2009年は伊予銀行男子テニス部の新たな時代への幕開けとなることだろう。“CHALLENGE”から“CHANCE”をつかみ、そして“CHANGE”へ。今シーズンの伊予銀行から目が離せなくなりそうだ。
バラク・オバマ第44代米国大統領が選挙演説で愛用した“CHENGE”。変革を意味するこの言葉が今の伊予銀行男子テニス部にはまさにピッタリである。今月1日付で秀島氏が新監督に就任した。なぜ今、監督業務を独立させたのだろうか。その理由を自らも4年間、プレーイングマネジャーを経験した秀島監督は次のように述べた。
「やっぱり監督と選手を兼任するのは、簡単なことではないですよ。監督といってもプレーヤーである限り、他の選手とはいわゆるライバルにあたるわけですから、迷いが生じることもあるし、遠慮してしまうこともある。お互いに関係を築くのがなかなか難しいんです」
今回、監督と選手の立場を明確にしたことで、行き届いた管理が可能となった。トレーニング一つとっても、徹底した指導ができる。さらに、監督に専念することでチームづくりについてじっくりと構想を練ることができる。だからだろう。秀島監督は就任後、迷うことなく、すぐに動いた。
まず、チームとしての最大の目標を国民体育大会(国体)優勝に一本化した。その背景には今、企業スポーツが直面している問題があった。世界経済が「100年に1度の危機」を迎え、企業のスポーツ界からの撤退が相次いでいる。テニス界も例外ではない。男子では1月の日本リーグで3連覇を達成した強豪ミキプルーン、女子では同リーグ3位の荏原製作所が本社の経営難を理由に休部を決めた。野球や陸上、卓球など、時代のうねりは他のスポーツにも及んでいる。そんな中、企業スポーツが生き残るためには“存在価値”を高めることが絶対条件だ。
元来、伊予銀行に男子テニス部が創設された目的は、地方銀行としての役割、つまり“地域振興”にあった。まさにそれこそが同部に与えられたミッション。「国体優勝」はその原点に返ったというわけだ。
「国体は都道府県の代表が集う大会です。つまり、私たちが国体に出場する場合は四国および愛媛県の代表ですから、他のどの大会よりも“地域”との結びつきは強い。“地域振興”を掲げて設立された我々が、まず果たすべきことはそこにあるわけです」
国体での最高成績は2001年宮城国体での6位入賞。昨年にいたっては、2枠のうち1枠を大学生に奪われてしまった。まずは県予選、四国予選を勝ち抜き、2枠を確保すること。そして、本大会ではこれまで以上に本気モードで優勝を奪いにいく。その延長線上にあるのが全日本選手権、日本リーグなのだという。
普段のトレーニングにも“秀島イズム”が徹底されている。テニス部は火曜日から木曜日の3日間は午前練習が許されている。これまでは朝8時からスタートしていたが、秀島監督はこれを15分早い7時45分とした。それは昨シーズンの日本リーグで課題として浮き彫りとなったフィジカル強化に少しでも時間を割くためである。
「以前からフィジカルの弱さは指摘されていたのですが、日本リーグでそれがはっきりと出てしまいましたね。国内のトップ選手が集う全日本選手権や日本リーグでは、プロ選手との対戦は避けられません。高いテクニックを持つ彼らに対してフィジカル面で負けていては勝負にはならない。ですから今、チームとして徹底して取り組まなければならないのはズバリ、フィジカル強化。練習の始めの約1時間をフィジカルトレーニングに充てています」
さらにやや停滞気味にある現況の打開策として今シーズンからは海外遠征を敢行することが決定した。プロ選手は皆、国際大会に出場し、世界を相手にしている。そこで培われた経験は、自力となって蓄えられる。その時点で既にアマチュア選手との差がある。“プロ”という肩書きに勝つには、まず同じ土俵の上に立たなければならない。秀島監督は、そう考えたのだ。そこで、海外遠征には2名、国内の国際大会においては希望者は全員参加することができるようになった。早速、来月にはキャプテンの日下部聡選手と植木竜太郎選手が韓国で開催されるITF男子フューチャーズに出場する予定だという。レベルの高い環境で揉まれることで得るものは数多くあることだろう。
だが、リスクもある。国際大会に出場すれば、その分国内ランキングは落ちる。さらに、これまでには経験したことのない壁にぶち当たることは想像に難くない。もしかしたら自分のテニスが全く通用せず、これまでやってきたことが否定されてしまう恐れもある。それでも次のステップへ進むには、チャレンジすることは不可欠だ。何事も新しい一歩を踏み出すには勇気が必要だろう。
この国際大会への挑戦によって、秀島監督が最も“CHANGE”を期待しているのが日下部選手だ。実は、日下部選手のプレーに惚れ、大学生の彼を伊予銀行にスカウトしたのは他でもない秀島監督なのだ。だが、日下部選手の入行と同時に秀島監督はテニス部を離れたため、一緒にプレーすることも指導することもできなかった。
「入行したばかりの頃の日下部は積極的なテニスをしていましたよ。強い脚力をいかして得意のフォアハンドで攻めるのが彼の持ち味。ところが、今はミスをしないようにと守りのテニスになってしまった。プレーがとても小ぢんまりとしているんです。でも、国際大会に出場すれば、それでは通用しないということを痛感せざるを得ないでしょうね。こてんぱんにやられることで、彼の意識が変わってくれればと思っているんです」
実は誰よりも日下部選手のフォアハンドを買っていたのは、伊達公子選手の育ての親として知られるナショナルチームのゼネラルマネジャー小浦武史氏だった。入行した当時の日下部選手を見て「あの子は強くなるよ」と言っていたというのだから、素質はホンモノである。日下部選手の今後にぜひ期待したい。
初の専任監督、地域貢献、国際大会への挑戦――2009年は伊予銀行男子テニス部の新たな時代への幕開けとなることだろう。“CHALLENGE”から“CHANCE”をつかみ、そして“CHANGE”へ。今シーズンの伊予銀行から目が離せなくなりそうだ。