4年ぶりの決勝ラウンド進出を目標に伊予銀行男子テニス部は、第23回テニス日本リーグに挑んだ。結果はブロック4位とあと一歩のところで決勝進出には至らなかった。順位こそ前年と同じだが、その内容には差があるという。チームを牽引した横井晃一監督と、最年長として若手を支えた湯地和愛選手に改めて今回の大会を振り返りながら、今後の課題について語ってもらった。
(写真:苦しいチーム状況の中、全力で戦った伊予銀行男子テニス部)

「監督4年目になりますが、これまでで一番厳しいチーム状況でした」と横井監督。実は、今シーズンのチームはケガに泣かされ続けてきた。特にキャプテンの日下部聡選手と新人の小川冬樹選手はケガで満足のいくシーズンを送ることができなかった。

 5月に左太腿の肉離れを起こした日下部選手は、ようやく治りかけた8月に今度は肩を痛めた。そのため、いつもより追い込んだ練習ができず、満足のいく調整ができないまま大会に臨まなければならなかった。

 一方、小川選手は大学時代に痛めた足に加えて5月後半からシーズン半ばまで腰痛に悩まされた。幸い軽いヘルニアだったため、治療すれば治る程度のものであった。とはいうものの、満足には練習ができておらず、大会直前に行われたファーストステージの会場である広島広域公園でのミニキャンプでは、まだ出場できるかどうかわかない状態だったという。また、植木竜太郎選手も疲労からか11月の全日本選手権後、腰に違和感を覚えていた。

 こうしたチーム状態に加え、ブロック対戦相手も楽観視できるものではなかった。「ファーストステージで全勝して、強豪チームと対戦するセカンドステージに臨むのが理想でした。しかし、どこも簡単には勝たせてもらえそうにありませんでした。うまくいけば4連勝、最悪の場合は4連敗もあり得る。直前合宿の時には小浦武志先生とそう話していたんです」と湯地選手。実際、4試合とも伊予銀行は苦戦を強いられた。

 波に乗れなかった1stステージ

 まず第1戦の伊勢久戦。この試合だけは絶対に落とすことはできなかった。なぜなら初戦を取るか否かは、その後に大きく影響してくるからだ。なかでもキーマンは相手の本田寛和選手だった。あまり試合に出場しないために日本ランキングこそ98位だが、ストローク戦を得意とし、格上選手にも勝つほどの実力派だ。とはいえ、シングルスで出場した場合には植木選手の勝ち星は計算できた。問題はダブルスにまわってきた場合にどうなるのか。

(写真:若手を引っ張りチームに貢献した萩森選手)
 フタを空けてみると、伊勢久は本田選手をダブルスにまわしてきた。おそらくプロでシングルスNo.1の有本尚紀選手とダブルスで勝ちに来たのだろう。予想通り、シングルスが終わった時点で1−1。勝負はダブルスに持ち込まれた。だが、心配は杞憂に終わった。萩森友寛選手が初出場の小川選手をうまくリードし、見事ストレート勝ちを収めた。

 初戦を白星で飾った伊予銀行は、一気に波に乗りたいところだったが、勝負はそう甘くはなかった。第2戦の協和発酵キリン戦、まず試合に臨んだのはシングルスNo.2の植木選手。第1セットを奪われたものの、第2、第3セットをタイブレークの末に逆転勝ちした。

 しかし、植木選手が予想以上に苦戦を強いられたことで、逆にチームは相手に押されていた。特にシングルスNo.1の日下部選手には「絶対に負けられない」というプレッシャーがのしかかっていた。実は、協和発酵のダブルスは非常に強い。この大会でも原口善行選手、嶺村純選手のペアに限れば優勝候補筆頭のリビック以外は全勝しているのだ。つまり、日下部選手が自ずと勝敗のカギを握ることになっていた。

 決して勝てない相手ではなかった。しかし、植木選手の勢いそのままに、という流れにもっていくことができなかったことで、日下部選手には予想以上のプレッシャーがかかることになってしまったのだろう。結果はストレート負け。ダブルスも第1、2セットともにタイブレークに持ち込んだものの、あと一歩のところで落としてしまった。

 迎えた第3戦は毎年夏には親善試合を行なうなど、交流の深いワールドとの対戦だった。戦力も十分にわかっている相手だけに、勝って建て直しを図りたいところだったが、シングルスを2本ともに落としてしまい、まさかの敗戦。翌日のファーストステージ最終戦、三井住友海上には競り勝ち、伊予銀行は2勝2敗の5分で1カ月後のセカンドステージに臨むこととなった。

 セカンドステージの対戦相手はミキプルーン、リビック、JR北海道。格上のミキプルーンとリビックに勝つのは至難の業だ。となれば、自ずと最終戦のJR北海道に勝たなければならなかった。なぜなら、同ブロック内の7チームのうち、ミキプルーンとリビック以外は非常に力が拮抗しており、セカンドステージの結果次第ではブロック3位以下、全ての可能性を有していたからだ。もし、JR北海道にも負けるとなれば、日本リーグよりの降格もあり得る。
「是が非でもJR北海道には勝つ!」
 ファーストステージ終了後、チームが一致団結した。

 全精力をつぎ込んだ最終戦

 1カ月間、JR北海道戦に向けての練習が行なわれ、対策が練られた。そしていよいよ決戦の時がやってきた。セカンドステージ最終戦、会場にはOBも駆けつけ、客席から大きな声援が飛んだ。
「やることはやってきたのだから、あとは何も考えずにやるだけだ。何が何でも勝つぞ!」
 横井監督はそう言って選手をコートに送り出した。選手たちも皆、一様に気合いがみなぎっていた。

 まずシングルスに臨んだのはキャプテンの日下部選手。相手の秋本恭幸選手はランキングこそ110位だが、団体戦になるとめっぽう強さを発揮するため、決して楽観視することはできなかった。実際、第1セットは3−6で日下部選手は落としてしまった。実は日下部選手、ファーストステージを含め、前日までの5試合で1セットも取れずに全敗とこれまでにない不調に苦しんでいた。しかし、この試合は違った。次の第2セットをタイブレークの末に奪うと、第3セットも6−4で取り、今大会自身初勝利。最後にキャプテンとしての意地を見せてくれた。
(写真:ガッツポーズで声援に応える日下部選手)

 セカンドステージではシングルスNo.1に抜擢された植木選手は、同じような力をもつ長身の田中裕也選手と対戦した。実はこの二人、5月の関東オープン、今年1月のJTTアオノオープンなど、オープン大会ではたびたびダブルスを組んでいる。大学時代からの知り合いで、プライベートでも食事に行くほど親しい仲だという。だからこそ、お互いに絶対に負けたくなかったのだろう。序盤から激しい打ち合いとなった。

 第1セットは7−5で田中選手が先取した。だが、植木選手もベンチで見守る湯地選手も全く慌てていなかったという。その理由を湯地選手は次のように語った。
「田中選手は、本来あんなにガンガン打ってくるようなスタイルの選手ではないんです。確かに第1セットは動きはよかったと思います。でも、オーバーペース気味だなということはわかっていました」

 案の定、第2セットに入ると、田中選手は疲労の色を濃くしていき、ついにはインジャリー・タイム(メディカル・タイム)を取る。だが、田中選手も勝負を決して諦めてはいなかった。互いにキープし合い4−4で並んでの9ゲーム目、植木選手がこのセット初めてのブレイクに成功し、リードを奪った。植木選手にとっては、このまま一気にたたみかけたいところだ。

(写真:脅威の粘りで逆転勝ちした植木選手)
 ところが、10ゲーム目に入る前、田中選手は再びインジャリー・タイムを要求した。結局、それは受け入れられなかったが、植木選手に傾きかけた流れを断つには十分だった。10ゲーム目、田中選手はラブゲームで奪い、ブレイクに成功したのだ。それでも植木選手は11ゲーム目を再びブレイクすると、12ゲーム目をキープ。7−5でこのセットを取り、最終セットに持ち込んだ。

 第3セットに入る前、田中選手はトイレ・タイムを取った。これも一つの戦略だったのだろう。だが、ここはベテランの湯地選手がうまくカバーした。
「相手は明らかに体力を消耗している。だからといって、自分もそれに合わせてペースを落とせば、相手の思うツボ。ここは手を抜かずに一気にいくぞ」
 待ち時間の間、湯地選手はそう植木選手にアドバイスし、集中力が切れぬよう鼓舞し続けた。

 そして第3セット、植木選手はいきなりブレイクに成功すると、一気に4ゲームを連取。一時は4−3にまで詰め寄られたが、最後まで攻めの姿勢を崩さず6−4で奪った。これで伊予銀行の勝利が決定し、降格の心配はなくなった。

 新人の成長・加入がチーム強化に

 最後に行なわれたダブルスも萩森、小川ペアがストレート勝ちした。今大会、ダブルスは5勝2敗。しかも5勝全てがストレート勝ちを収めているのだ。昨年同様の4位をキープできたのは、この2人の頑張りが大きかったことは言うまでもない。特に、度重なるケガや仕事とテニスとの両立に悩んだ日々を乗り越え、最後に結果を出した小川選手に対して、「よく頑張った」と横井監督も湯地選手も口をそろえて言う。
(写真:最終戦では安定したプレーが光った小川選手)

「もともと力はある選手だが、今シーズンはケガでまともに練習できず、試合に出ても勝てない日々が続いた。その中でメンタル的な弱さもあって心配したが、ここまでよく上がってきてくれました。自分への甘えさえ出てこなければ、来シーズンには間違いなくランキング50位以内に入ってくるのではないかと期待しています」(横井監督)

「日本リーグで一番成長したのが小川でしょう。春からずっとケガに泣かされ、自分に自信がもてなくなっていたのですが、トレーナーに心身ともにケアしてもらいながら頑張ってきた。大会直前まで出場できるか微妙な状態だったにもかかわらず、あれだけのパフォーマンスを見せてくれたんですからね。多くの視線を浴びる中で試合をしたことで、彼も多くのことを得たのではないでしょうか」(湯地選手)

 伊予銀行にとっては苦戦続きの今大会だったが、最後のJR北海道戦を3勝で締めくくったことは来シーズンに向けての追い風になるに違いない。

 とはいえ、今回もまた決勝ラウンドに進むことができなかったのは事実だ。では、何が課題なのだろうか。それは「フィジカル面だ」と湯地選手は言う。
「日下部、小川、植木と今シーズンはケガ人が多かったことに加え、実は順調な仕上がり具合を見せいていた萩森がファーストステージの初戦前日に38度以上の熱を出してしまったんです。もちろん体調管理もそうですが、やはり体力的な部分の問題もあったのだと思います」

 また、ここ4年間、日本リーグに帯同しているトレーナーの行本先生(リコンディショニングセンターアスレ所属)は上位チーム選手との違いを次のように語った。
「上位チームの選手、特に本村剛一(リビック)は他のプレーヤーと比べても体の左右のバランスが非常にいい。おそらく自分で意識して左側を鍛えているはずです。それに比べて当部の選手は、左右のバランスが悪く、それがケガの原因の一つと考えられます。また、トップ選手と比べて全体的な筋力不足も否めません。だから相手に走らされた時にしっかりと止まってボールを打つことができない。トップ選手とのフィジカル面の違いにも、もっと目を向ける必要があると思います」

 どうやら来シーズンは、チーム全体として基本的な体づくりからスタートすることになりそうだ。

 4月からは、坂野俊選手が入行することが内定している。坂野選手は堀越高校から筑波大学に進学し、今年3月に筑波大学大学院を卒業する26歳。気持ちの強い選手でシングルスもダブルスもこなし、即戦力として期待されている。彼が加わることで、チーム内での競争意識はますます高まる。植木選手、小川選手と若手が力をつけていることもあり、ベテランの域に達しつつある日下部、萩森の両選手へのプレッシャーも増すことだろう。これがチームの底上げにつながれば、結果はおのずとついてくるはずだ。果たして、チームはどう生まれ変わるのか。今後の伊予銀行に注目していきたい。


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