「まり投げて見たき広場や春の草」(正岡子規)
 愛媛・松山は俳句の街である。近代俳句の改革者・正岡子規や高浜虚子といった著名な俳人を数多く輩出してきた。街中や電車内には郵便ポストならぬ投句ポストがあちこちに設置されており、五・七・五をひねり出したくなるような雰囲気が漂っている。また毎夏、「俳句甲子園」が開催され、全国から予選を勝ち抜いた高校生が集まることでも有名だ。
(写真:第8回えひめスポーツ俳句大賞の表彰者たち)
 正岡子規といえば、野球好きであったことも知られている。野球に関する俳句や短歌を数多く残しただけでなく、自らもキャッチャーを務め、プレーを楽しんだ。「直球」「飛球」「四球」「打者」「走者」といった今でも使われる野球用語は子規の翻訳によるもの。野球が日本で国民的スポーツに発展する礎を作った人物といっても過言ではない。

 そんな功績を讃えられ、2002年、子規は野球殿堂入りを果たした。人々の心に残る句や歌を詠み、スポーツを愛した偉人の出身地として「愛媛で世界一のものをつくりたい」。当時の県教育委員会保健スポーツ課長・御厩祐司氏(現・東京大学本部統括長)の発案により、スポーツと俳句を融合させた「えひめスポーツ俳句大賞」が誕生した。2009年度で8回目を迎えた同賞では「スポーツに接して得られる感動やときめき、共感を俳句に詠み込むことにより、スポーツファンの増加と、スポーツと文化が融合した新しい芸術文化の創造」を目指している。

 これまで7回の大会では地元・愛媛はもとより、全国各地から多数の作品が寄せられてきた。「うでずもう互いの顔がさるになる」「せみがなくぎゃくてん勝ちでぼくもなく」といった感性豊かな子どもたちの一句や、「ひた走りをり元朝の土佐礼子」「冬晴れやレイズ岩村凱旋す」といったスポーツの時事ネタを巧みに織り交ぜたものが大賞に輝いている。

 そして、2009年度も北は北海道から南は沖縄まで全国25都道府県から4,198句の応募があった。特に県外向けの告知は、インターネットと、各スポーツ競技団体や俳句甲子園の出場校などを通じた限られた形になっているにもかかわらず、1,756句が集まった。これは全体の4割を占める。

 これらの中から6人の審査員の選考により、一般の部、中学生以下のジュニアの部、俳句に合った写真を撮影して添付するハイブリッド部門でそれぞれ大賞が決定した。また今回は「オリンピックと同様、4年に1度の賞を」との主催者の意向により、一般の部、ジュニアの部で「特別賞」も設けられた。

 ここで各部門の大賞・特別賞作品を紹介しよう。
◇俳句部門(一般)大賞
 青野令飛んで世界の雪光る(愛媛県・篠崎伶子さん)
◇俳句部門(ジュニア)大賞
 マラソンの足取り軽く春近し(愛媛県・中西ちなつさん)
◇ハイブリッド部門大賞(写真)
 天高く吼えて騎馬武者帽子狩り(愛媛県・菅貴久代さん)
◇俳句部門(一般)特別賞
 村上の槍秋天を刺しにけり(愛媛県・宮謙一さん)
◇俳句部門(ジュニア)特別賞
 投げたまま春一番ストライク(愛媛県・山本啓仁さん)

 加えて寄せられた俳句が題材とした各競技のグループごとに、「金賞」「銀賞」「銅賞」「入選」も決まった。「投げられてふと見た窓のイワシ雲」(徒手格闘技/千葉県・杉田猛さん)「ボート漕ぐオールはいつか蝶になる」(操縦(乗物)競技/兵庫県・岸野孝彦さん)といった作品が一般の部では金賞に輝き、ジュニアの部では「舞いおどる氷の上のお姫様」(演技採点競技/愛媛県・石川由起乃さん)、「アーチェリーああ、アーチェリーアーチェリー」(射的競技/愛媛県・木場亮介さん)などが金賞に選ばれた。

 受賞者に対しては去る3月27日、松山市内で表彰式が行われ、大賞にはホテル、旅館の宿泊券が副賞として贈呈された。また県外からの入賞者に対しては、ポンジュースやデコポン、タルトといった愛媛県の特産品が贈られている。愛媛県以外の参加者は年々、増加の傾向にあり、今後もさらなる伸びが期待される。「最近は県外から学校単位で応募したいとの問い合わせもいただいています」(主催者)。同賞はスポーツと俳句の新しいコラボレーションのみならず、愛媛県のPRにも寄与しつつあるようだ。主催する財団法人愛媛県体育協会の大亀孝裕会長は「これを機に、全国のスポーツファンや俳句愛好者の皆様にはスポーツ俳句に関心を寄せていただきたい。そして、いろいろなスポーツの現場に足を運ばれて躍動感あふれる作品をお寄せいただきたい」と挨拶を行った。

 全国から集まった俳句は回を経るごとにレベルが向上しており、審査員は選定に苦労しているという。そのため2009年度は応募期間を前倒しし、7月から募集をスタートした。「ただ、子どもたちの夏休みと重なってしまって、ジュニアの部の作品が例年より少なかった」との課題も残った。主催者側では今年度は夏休み前になるべく告知を行い、子どもたちの宿題として盛り込めるような方向を考えている。

 さらには俳句に写真を添付するハイブリッド部門は、全体で4000句を超える応募のなかで、わずか54点。寄せられる作品が少ないことも今後の改善点だ。審査員を務めた愛媛県俳句協会会長の相原左義長氏は「この部門ではひとりで写真・俳句を作品化するので感性が問われる。どうしても応募者に限りが生ずるのではないかという気がしてくる。写真と俳句をそれぞれ別々の合作でもいいのではないだろうかと考えられる。俳画ではひとりが俳句と画をつくる場合が主であるが、2人の合作もあり、また楽しい」と指摘する。
(写真:ハイブリッド部門の金賞作「炎天下トライアスロンの地獄坂」)

 スポーツと俳句はまったく異なるようで共通項は少なくない。まず、両者ともにリズム感が求められる。次に決められたルールに従って自らを表現する点も似ている。制限された枠組で懸命に知恵を絞るからこそ、そこに人の心を震わせるドラマが展開されるとも言えるだろう。2010年もたくさんのスポーツ名シーンが生まれるはずだ。その一瞬の感動やときめきを五・七・五に乗せてみてはいかがだろうか。今年度の「えひめスポーツ俳句大賞」は7月より募集を始める予定だ。

---------------------------
★質問、応援メッセージ大募集★
※質問・応援メッセージは、こちら>> art1524@ninomiyasports.com 「『DAIKI倶楽部』質問・応援メッセージ係宛」

---------------------------------
関連リンク>>(財)大亀スポーツ振興財団

(石田洋之)
◎バックナンバーはこちらから