5度目の五輪へ、いよいよオールを漕ぎ出した。ボートの武田大作選手(ダイキ)は4日、滋賀県立琵琶湖漕艇場で行われた朝日レガッタの男子シングルスカルに出場し、3分23秒63のタイムで10度目の優勝を収めた。今季は田立健太選手(戸田中央総合病院RC)とペアを組み、ダブルスカルで世界を転戦する。5月28日からスロベニアで開催されるワールドカップ第1戦に向け、遠征の準備を進める武田選手に新しいペアの印象などを訊いた。
――まずは朝日レガッタでの優勝おめでとうございます。幸先のよいスタートが切れたのではないでしょうか?
武田: 今シーズンはダブルスカルがメインになるので、大会に向けて特別な準備はしていませんでした。シングルスカル、しかも1000メートルという短い距離の中で、どのくらいスピードを出せるかをチェックしたかったんです。3分23秒というタイムは世界標準と比較しても悪くなかったと思います。スピードに関しては、今の時期にしてはいいですね。ただレースだと、どうしても緊張してスムーズにボートを進められなかったり、後半に崩れたり……。収穫とともに課題もはっきり見えたレースでした。

――百戦錬磨で国内敵なしの武田選手でも、緊張して思うように体が動かなくなるものなんですね。
武田: ええ。むしろ緊張しないとダメだと思っています。練習とは違う状況の中で、いかに本来の力を出すかが大切ですから。レースは他人との競争でもあり、自分がこれまでやってきたこととの競争でもある。だから、経験を重ねれば重ねるほど、逆に緊張の度合いは高まっているかもしれません。

――さて、今年は五輪に向けて再びダブルスカルで臨むシーズンです。ペアには、ちょうど10歳年下の田立選手が決まりました。昨年は舵なしペアで日本代表として、世界選手権に出ています。
武田: 10歳年下……そうですね(笑)。彼はジュニア、U−23の頃から世界で戦ってきた選手です。ただ、このところは伸び悩んでいた。本人も何かを変えたいと思っていたのでしょう。昨年の海外遠征でも同部屋で、話をするうちに「向上心の強い選手だな」と感じていました。「もしもヤル気があるなら、オレと組まないか」と誘っていたら、どうやら自ら進んで「武田さんと組んでみたい」と申し出てくれたみたいなんです。

――その気持ちをまずは買ったと?
武田: 正直、彼より能力の高い選手は他にもいます。1月の代表候補合宿から彼も含めて4人ほどとペアを組んで練習をしました。コーチからは「(田立は)雑な部分があるから」と他の選手を勧められたこともありました。でも、最終的には「勝ちたい」という思いを彼から一番感じたんです。実際の選考レースでも彼と組んだ時がタイムが良かったですからね。

――精神面以外での田立選手の長所は?
武田: 何より体が強いことですね。ペアでやる以上、どんなに自分が元気でも相手がケガをしてしまっては練習ができない。彼にはペアを組むにあたって、「僕は日本で一番厳しい練習をするから、そこは耐えてね」と伝えましたから(笑)。ここまでは順調にトレーニングが積めているので、その点はいいですね。
 もうひとつはテクニックや感覚の吸収がいいこと。彼はこのところスイープ(漕ぎ手が1本の長いオールを持つスタイル)でやってきて、スカル(漕ぎ手が2本の短いオールを持つスタイル)の経験があまりない。だから、スポンジみたいにアドバイスしたことはどんどん身につけてくれます。もちろん、スポンジだけに“水”が漏れてしまう部分もたくさんありますけど(苦笑)。

――では逆に課題は?
武田: 船の動きに対する状況把握がまだ鈍いところでしょうね。たとえばピッチング(上下動)やサージング(加減速)について感覚を研ぎ澄ませないと、ボートをスムーズに進めることはできません。それは日々の個人練習の中でつかんでほしい部分です。
 当たり前ですが、僕も含め、能力を高めなくては世界では勝てません。水上だけでなく陸上のトレーニングでも、どうすればしなやかに力を出せるか体の使い方を考えてほしいと感じています。彼には「ただトレーニングをやるのではなく意識を高めてほしい」と言いました。こちらの要求が高すぎて、ちょっと彼には大変かもしれませんが(笑)。

――となると、当面は武田選手がペアを引っ張っていく形になるのでしょうか。
武田: でも彼をカバーしようと、こちらが力を出し過ぎると自滅します。やはり2人でピタッと息を合わせる、2人でスピードを上げることが大切です。海外に行っても、すぐには結果は出ないでしょう。しばらくは我慢が必要かもしれません。ヨーロッパでレースを重ねる中で、本当のペアになればいいなと感じています。

――あらためて今シーズンのテーマを聞かせてください。
武田: 一言で言うなら、「コンビネーション」ですね。昨年は個人としての「準備、勉強の年」でしたが、今年はダブルスカルとしての「準備、勉強の年」。コーチはいろいろな選手を試したい意向なので、状況によっては途中でペアが変わる可能性もあります。もし他の選手になっても合宿などで一緒に漕いだことのあるメンバーですから心配はしていません。むしろ一緒に組んで「世界で勝てる」若手が新たに出てくるのであれば、こちらとしても歓迎です。

――早いもので次のロンドン五輪まで、もう2年になりました。
武田: いずれにしても大切なのは来年。まずは五輪の出場権を得なくてはなりません。そのためのベースを今年はつくれればいいかなと考えています。これから夏場をかけて、コンビネーションを高めた上で、10月の世界選手権(ニュージーランド)、11月のアジア大会(中国)で結果を出す。これが今季の目標です。

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(聞き手:石田洋之)
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