国体優勝を最大の目標に掲げるダイキ弓道部は12、13日と全日本勤労者選手権大会(山口県弓道場)に参加した。官公庁、会社単位で3名1組のチームをつくり、団体戦で競い合う。ダイキは主将の橋本早苗、山内絵里加、原田喜美子の3選手で大会に臨み、1次、2次と予選を突破。決勝トーナメントも決勝まで勝ち残って準優勝をおさめた。この大会は性別問わず出場でき、男子のみ、または男女混合で参加するチームが大半を占める中、女子だけで結果を残したのは大健闘といっていい。参加3選手に大会を振り返ってもらった。
(写真:準決勝、決勝と全中で、準優勝に貢献した橋本)
「感想を一言で言うと、うれし悔しいですかね」
 山内はそう笑った。
「予選を通過して勝ち続けたことは良かったです。でも、最後で負けたのはやはり悔しい。この思いをバネに国体こそ優勝したいですね」
 この勤労者選手権では近的で3人が4射ずつ実施し、合計12射で勝敗を競う。まず初日の1次予選は7中以上が突破の条件。ダイキは9中で余裕の通過を決めた。翌日の2次予選は的中数の多い順に上位16チームが残る形式だ。1次予選の成績からいけば、8中がボーダーラインとみられた。ダイキはここでも9中と結果を出し、決勝トーナメントに進出した。

「今回はくじ運にも恵まれました。予選の立番は抽選で決まったのですが、1次が18番目、2次が10番目。だから午前中には自分たちの競技が終わったんです。やはり遅い立番になると、他のチームの結果も気になりますし、集中を維持するのが難しい」
 主将の橋本はこう語る。メンタルが大きなウエイトを占める弓道において、“運”も彼女たちに味方した。

 だが、運だけで勝てるほど、勝負の世界は甘くない。そこには日々、射の安定を求めて練習を続けた成果があった。
「大会前の練習から調子の大きな波がなかった。気を抜かず、焦らず弓をひけば悪くはならない」。山内は手ごたえをつかんでいた。3選手は決勝トーナメント1回戦で10中、同2回戦(準々決勝)は11中と的中数を上げ、ベスト4に名乗りをあげた。

 劇的な準決勝突破

 快進撃の陰には今季から指導にあたる石田亜希子監督の的確なアドバイスも見逃せない。入社3年目で経験の少ない原田には「(射型は)めちゃくちゃじゃない。大丈夫、大丈夫。力を抜いてやわらかくね」と語りかけ、緊張をほぐした。山内には「弓を持つ手が引く時にフラフラしないように」とピンポイントで欠点を指摘。本人が悪い状態に陥らないよう、意識を高めさせた。

 迎えた準決勝、熊平製作所(広島)との試合はきわどい勝負になった。山内が3中とまずまずの滑り出しをみせたものの、原田が2中とつまづく。原因は2本連続した後の3本目にあった。射った矢の行方は、中ったかどうか微妙な位置。結果がすぐに出ず(結果は×)、リズムを乱してしまったのだ。「外れていても次の1本と気持ちを切り替えられなかったんです」。2人目の原田が終了した時点で、どちらが勝つかまったく見えない状況だった。
(写真:「大舞台では頭では分かっていても体がついていかなかった」と振り返る原田)

 ここで本領を発揮したのが橋本だ。自分の射に集中して1本ずつ丁寧に矢を放った。「終わってもどっちが勝ったか分からない感じでした」。しかし、頼れる主将はしっかりと全中で締め、トータルでは9−8。わずか1中差でダイキが勝利をおさめ、決勝にコマを進めた。

「ここまで来たんだから楽しもう。精一杯頑張ろう」
 橋本は決勝までの短い時間、他の選手をリラックスさせようと試みた。それでも優勝を決める大事な一戦だ。緊張するなというほうが無理である。選手たちの手元は微妙に狂った。まず1人目の山内が最初の1本を外してしまう。「まさか、という感じでした。あれで波に乗れなかった」。対する和歌山県教職員チームは順調に的中を重ねた。「いつか巻き返しのチャンスがくる」と信じて弓を引き続けたが、相手は12射すべてを中て10−12。ダイキは最後に力尽きた。

「誰かがミスしても、他の選手がカバーする。国体も団体戦ですから、3人でひとつになって戦えた点はいいきっかけができたと思います」
 橋本は大会から得た収穫は小さくなかったとみている。もちろん、課題もみえた。
「2次予選から決勝まで1日で20射したんですけど、やはり練習以上に1本1本エネルギーを使う。その部分の体力が足りないなと感じました。優勝した和歌山の選手は最後まで射型がしっかりしていましたからね」

 国体出場には全員がライバル

 7月11日には国体の県代表候補を決める最終選考会がやってくる。近的、遠的の総合得点で上位に入ることが、まず必要だ。今回は出場できなかった小早川貴子、北風磨理も含めた5名の弓道部員同士がライバルになる。小早川、北風とも昨年は橋本ともに県代表として国体に出場した。選出されなかった山内、原田には当然、悔しさが残っている。特に昨年の最終選考会で山内が2位だった。代表に入った2人より好成績(小早川=4位、北風=5位)だったにもかかわらず、四国ブロックの国体予選で的中率が落ち、本番のメンバーから外れた。
(写真:高校3年時には少年女子で国体準優勝の実績を持つ山内)

「実は去年の忘年会で友達と約束したんです。“今年は代表に入って優勝を目指す”って」
 柔らかい口調ながら、山内は自身3年ぶりの国体出場へ意気込んでいる。原田も「私は部員の中では実力が一番下」と謙遜しつつ、「橋本先輩のように誰が見ても安心できる引き方をして生き残りたい」と意欲は充分だ。「決勝で負けた和歌山の選手には、去年の国体代表メンバーが2人いた。いい刺激になりました。国体では打ち負かしたい」。橋本も雪辱を誓った。準優勝で得た自信と経験、そして部内での切磋琢磨――。彼女たちは国体優勝に向かって、また一段階段を昇ったのかもしれない。

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(石田洋之)
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