イタリアを1周する自転車レース「ジロ・デ・イタリア」。この世界的なレースに8年ぶりに日本人が出場、そして大活躍し注目を集めている。その名も「新城幸也」。何度か、このコラムでも取り上げた事があるのでご存知の方もいるだろう。その彼が自転車レースの頂点であるジロでステージ3位に入るなど目覚ましい活躍を見せているのだ。
(写真:集団から抜け出し、逃げをはかる新城)
 自転車レースと聞くと大多数の人が「ツール・ド・フランス」を連想するだろう。毎年7月にフランスを1周するこのレースは、自転車を知らない人でもその名称を知っているほど世の中に認知されている。ただ、欧米では人気のこのスポーツも、以前の日本ではそれほど報道されることはなかった。しかし、昨年、14年ぶりに新城と別府史之の2人の日本人が出場し、報道の機会が一気に増えた。そのツールに並ぶ自転車のビッグレースが「ジロ・デ・イタリア」。9月に開催されるスペイン1周レース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」と3つ合わせて「グランツール」と呼ばれ、自転車の世界では頂点に君臨しているレースだ。

 実はつい10年前まで、自転車ロードレースでは、日本と世界の差は大きく、日本人が同じ舞台に立つことでさえ難しいと思われていた。したがって、報道する側やそれを受けるファンにとってツールやジロに日本人が出場することが出来たなら、その時点で最終目標を達成したかのような感があった。おそらく選手の中にもそんな心理があったのではないだろうか。ツールは1996年に今中大介氏が出場し、途中リタイア。それでも彼がツールに出た事はファンにとっても歴史的な事であった。ジロでは野寺秀徳氏が2001年、2002年と出場し、2002年には見事に完走している。ちなみにジロに初めて日本人として出場したのは1990年の市川雅敏氏。彼は目覚ましい活躍を見せ総合50位という素晴らしい成績を収めている。だが、彼以外の選手が対等に勝負できた歴史はなく、「これだけのレースに出て走っているだけで素晴らしい」という時代が続いていた訳だ。もちろん、グランツールに出場する事はヨーロッパの選手にとっても夢なのだが、それで喜ぶ事と、そこで活躍することとは大きく異なるのは言うまでもない。

 だから昨年のツールで2人が出場した時の皆の反応も、「ゴールまで行けるか?」という感じで、勝負に絡んでくるまでは期待をしていなかった。ところが、新城が第2ステージで5位に入ったり、別府が果敢に攻めて最終日に敢闘賞を獲得するなどすると一気に空気が変わる。「今日は何が出来るのか」と期待するようになった。今回の新城の出場も、「凄い!」という言葉と同時に「何をやってくれるのだ?」という内容に関する話題が多かった。少なくとも昨年のツール以前にはなかった風潮で、我々日本人観戦者の意識が大きく変わってきたといって過言ではない。正直に告白するならば、私も一昨年までは中継をしながら「今日は何かやってくれるか」なんてあまり思えなかったのに、昨年の夏からはワクワクして見ている自分がいる。逆に、活躍できないとがっかりしたりと確実に満足するポイントが変わっているのだ。

 そんな中、出場する選手本人の意識も心強い。今回、歴史的にもまれなくらい厳しいコースといわれている「ジロ・デ・イタリア」。新城はそのレースに自ら志願し、チームも認め出場が決まったという。さらに、3位に入った第3ステージでも、「最後まで勝てると信じていたから自ら動いた」とレース後の電話で、石垣島の父に語っている。まったくもって勝つ気である。我々が予想や期待している以上に本人たちは自信をもって、レースをとらえているのだ。

 新城が3位に入った翌日、フランスで行われていた別のレースで別府も3位に入った。間違いなく、新城の活躍が別府を刺激しているのだろう。お互いが刺激をしあい、我々日本人が見たことのないステージに上っていることは間違いがない。

 日本における自転車ロードレースの歴史が大きく動く瞬間。
この瞬間をファンとして、報じるものとして立ち会えるのはこの上ない幸せだ。

 現在行われている「ジロ・デ・イタリア」は22日から厳しい山岳ステージに入り、30日にベローナでゴールを迎える。もちろんJSportsでは毎晩Liveで中継しているのでお見逃しなく!?

 そして今夜も叫ぼう。「アレッ、アラシロ!」

(写真・Yuzuru SUNADA)

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白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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