秀島達哉監督が伊予銀行男子テニス部では初めてとなる専任監督として就任して2年目を迎えた。昨シーズンはエースの植木竜太郎選手がクルム伊達公子選手とのミックスダブルスで日本選手権優勝、チームとしても5年ぶりに日本リーグ決勝トーナメントに進出するなど、まずまずの結果を残した。しかし、決して満足はしていない。惨敗に終わった国民体育大会での優勝、さらには日本リーグでもう一つ上の段階にいくにはどうすればいいのか――。今シーズンの課題とその打開策について秀島監督に訊いた。


 3月末、秀島監督は選手を集め、話し合いの場を設けた。チームとして、あるいは個人として何が課題であり、どう解決していくべきなのかを、シーズンに入る前に全員で共有しておきたかったからだ。そこで出てきた答えは、サーブの強化だった。その理由を秀島監督は次のように語った。

「前回の日本リーグのデータを見てみたんです。そしたら、セットカウント1−1で最終セットまでもつれたゲームの戦績が1勝6敗。九州電力戦での小川冬樹の一戦だけだった。他のチームは逆に第1セットを先取されても、最終セットにまでもちこんで勝っている。じゃあ、何が原因なのかと考えた時に、自分たちはいつも同じような展開で単調なんです。一方、他のチームは劣勢な場面でもサーブで崩して挽回するんですよ。その違いが大きいのではと考えたんです」

 そこで普段の練習メニューからてこ入れをした。伊予銀行男子テニス部では週3日、午前練習を行っている。まず7時45分からランニングでスタートする。ランニング後のストレッチには、サーブをする際に重要となる肩甲骨の領域を広げるメニューを取り入れた。さらにアップ後、40分間、みっちりとサーブ練習を集中的に行うのだ。
「これまでは明確なサーブ強化の練習はほぼ行っていないに等しかった。しかし、今年は十分に時間をとっていきたいと思っています。これまではそれぞれ好きなコースばかりを打っていましたが、試合でどこが有効なのかを探りながら、さまざまなコースに打ち分けられるようにと考えています」

 サーブには3つの要素がある。1つはワイド(両サイド)、センター、ボディといったコース。2つめはスピン、スライスといった球種。そして最後にスピードである。これらを自在に操りながら、相手に的を絞らせない。そして、試合の流れを変えることができるのがサーブだ。なかでもあらゆるコースに打ち分けられる力は非常に重要だ。
「これまでは、例えば『ここでセンターにサーブが欲しい』という場面で確実にセンターに打ち切ることができなかった。そうなると、後で苦しくなるのは自分なんです」

 早くも練習の成果があらわれてきたのが、3年目、チームで最も成長著しい小川選手だという。スピードアップはもちろん、配球を考えながらコース、球種を使い分けることができるようになってきた。5月には比較的レベルの高い選手が出場した関西テニスオープン、シングルスでベスト4に進出した。これもサーブが強化されたことが躍進の要因となっていると指揮官は見ている。
「小川のサーブは本当によくなってきましたね。ですから、全体的に見てもパフォーマンスだけなら、プロと比較しても全く劣っていませんよ。正直、サーブがよくなってきてからの小川はほとんど穴がない状態です。あとは戦術。自分の持っている技を、どれだけ効率よく、そして効果的に使いこなせるかどうかですね」

 では、他の選手はどうなのか。
 今やチームのエースとなった植木選手は、プレッシャーがかかる場面になると、力みが生じてしまい、上半身だけで打ってしまう傾向がある。そのため、サーブでも時にはとんでもないところに飛ばしてしまうことも。しかし、現在は少しずつ進歩のあとがうかがえるという。
「小川と同様、植木もサーブのスピードが速くなりました。エースの数も増えてきたと思います。ただ、球速が増した分、当然リターンも速く返ってくる。その展開の速さに対応しきれていないところがあるようです。だからミスも少なくない。引き出しは増えたけど、使い方をまだ習得していないという感じです。試合を重ねて慣れていってくれればと思っています」

 ネットプレーを得意とする萩森友寛選手は昨シーズンからスタミナの面での成長が著しい。最初の一歩が出るようになったと同時に、フルセットを戦い抜くスタミナがついてきた。課題は苦手とするスピン系の選手への対応だ。ボールが弾むため、ネットに出るタイミングがうまくつかめないのだ。
「ネットに出ても、相手にプレッシャーを感じさせるようなものでなければ意味がない。単に出てしまえば、それこそ逆に抜かれてしまいます。これを克服するには、やはりアプローチをどこに打っていくかがポイントとなるでしょうね」

 毎年、この時期は新人選手が伸び悩む。学生時代とは違う社会人生活でのとまどいや、仕事とテニスとの両立などで壁にぶつかるのだ。ところが、今年の新人、広瀬一義選手に悩んでいる様子はほとんど見受けられないという。パフォーマンスもほとんど下がっておらず、逆に伸び伸びやっている感さえあるというのだ。
「だいたい新人は4、5月くらいにガクンと落ちるんですよ。自由にテニスの時間が取れた学生時代とは違い、社会人ではそうはいきませんからね。ところが、広瀬は今のところ楽しんでやれているようですので、安心しました。彼のテニスは展開が速いし、ネットプレーも巧い。試合に必要な体力と筋肉がついてくれば、おもしろい存在になると思うんです。彼は磨けば磨くほど光る原石。今後が楽しみですよ」

 そして、今シーズンもキャプテンとしてチームを牽引する日下部聡選手も、サーブはパワーアップしている。しかし、やはりまだ秀島監督は物足りなさを感じている。
「悪い状態ではないんですよ。ただ本来、彼が武器としているバックのボールを回り込んでフォアで逆クロスのショットというシーンがなかなか見られないんです。フォアのクロスショットの精度が上がってこないために、思い切って回り込めないんでしょう。彼自身が納得して、今のスタイルにしているのであればいいのですが……。もう少し爆発的なプレーを見たいですね」

 さて、チームは今、10月に千葉で開催される国民体育大会に照準を合わせている。日本選手権や日本リーグなどでは結果を残した伊予銀行だが、ただ一つ、国体ではまさかの2回戦敗退に終わった。部の存続意義にもかかわる大会だけに、チームが国体にかける思いは強い。5月に行なわれた愛媛県予選を勝ち抜き、県代表となったのが、植木選手と小川選手だ。これまで数々の実績を残してきた植木選手。そして現在最も調子がよく、「テニスの質は植木にも劣らない」と秀島監督からも高評価を得ている小川選手。2大エースで挑む今国体は絶好のチャンスだといえる。7月の四国予選を経て、今シーズンこそは国体で結果を残し、愛媛に錦を飾るつもりだ。


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