沖縄で先月28日から開催されていた全国高等学校総合体育大会「美ら島沖縄総体2010」が20日、閉幕した。愛媛県勢は6種目を制し、自転車の個人ロードレースで小橋勇利(松山工)が優勝、学校対抗得点でも松山工が1位になった。陸上では女子七種競技で高須賀真子(聖カタリナ)が四国高校新記録をマークしてのV。ボートの女子ダブルスカルは今治西(白石、谷川組)が優勝を収めた。さらには柔道でも男子90キロ級の村上亮(宇和島東)、女子78キロ超級の井上愛美(新田)がいずれもオール一本勝ちで制した。
 昨年のインターハイと比べると、入賞(8位以内)は団体種目が10から7に減少した一方、個人種目では17から24に増えた。
「昨年の新潟国体で少年女子を制した三島高が3回戦で敗れたり、どうしても高校生の場合は学年によって成績に波が出るのは仕方がないでしょう。ただ、自転車で優勝した小橋選手は1年生ですし、入賞者に1、2年生が多い。各競技で若い選手層が厚くなったとは言えるかもしれません」
 そう語るのは愛媛県体育協会の山本巌常務理事だ。

 現に昨年の国体では47都道府県最下位と低迷した陸上競技は、県総体、四国総体を突破して出場資格を得た選手が前年より20名増加した。優勝は先に挙げた女子七種競技の1つのみだったものの、昨年はわずかに2つだった入賞は5つに増加。男子100メートルで宮内康成(松山北)が29年ぶりの県勢ファイナリストになるなど成績も充実していた。

 小学生の運動能力アップを

 競技力が底上げされている大きな要因として、7年後に迫ったえひめ国体に向けた県全体での取り組みが挙げられる。2017年の国体で主力となるのは、現在の高校生、大学生。さらにいえば、その頃に高校生となるのは小学校3〜5年生だ。愛媛県体協では学校や各競技団体と一体となり、この年齢層への普及、育成に力を注いでいる。

 残念ながら愛媛県は決して子供たちの体力が他と比べて優れているわけではない。文部科学省が行っている「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の2009年度版の結果によると、愛媛県の中学2年生男子の体力合計点は40.30、女子は46.63。これはいずれも全国平均値(男子41.30、女子47.87)を下回っている。小学5年生も同様で、男子53.90(全国平均54.19)、女子54.29(同54.60)だ。基礎体力が上がらなければ、どんなスポーツをするにしても大きな成果は望めない。

 そこで愛媛県体協では新たな試みとして、この19、20日に男子400メートルの日本記録保持者・高野進さんを招き、県内2カ所で子供たちへの走り方指導を行った。「かけっこ塾」と題された今回の企画では、小学校4〜6年生を対象に、50m走のボーダータイムを決め、それをクリアした子供たちに参加権が与えられた(多数の場合は抽選)。たとえば、小学校6年生であれば、7.6秒以内、同女子なら7.9秒以内といった具合だ。これにより、ある程度走力のある子供たちのレベルをさらに押し上げる効果が期待されている。

「陸上のように中学校でも部活動がある競技はいいのですが、ラグビーのように学校ではカバーしきれないものもある。このあたりをどう取り組むか。今後の課題です」(山本常務理事)
 現在、体協では子供たちが幅広いスポーツに触れてもらえるような工夫を考えている。たとえば愛媛では競技人口の少ないウインタースポーツを体験してもらったり、水泳教室に合わせて水球や飛びこみにも興味を持ってもらう内容にしたり……。まずは普及なくして育成、強化はあり得ない。「7年といっても、全国で戦えるレベルまで引き上げることを考えたら、もう時間はないんです」。山本常務理事も危機感を持っている。

 大学、社会人で競技に打ち込める環境を

 スポーツにチャレンジする子供たちを増やすことを“入口戦略”とすれば、高校での活躍後も競技を続けられる環境づくりが“出口戦略”にあたる。地方にある愛媛県にとって、この“出口戦略”も喫緊の課題だ。実績を残した若い選手が、中央の大学や企業に“流出”するのをどこまで食い止められるか。県内のスポーツ力向上のためには、この問題は避けて通れない。

 愛媛県体協では県内の各大学と連携をとり、それぞれの学校で特色となる競技を設けるよう要望を出している。選手たちに少しでも地元の大学でスポーツを続けてもらうためのアイデアだ。今月31日には各大学の担当者と2回目の会合を開き、意見交換を行う予定になっている。
「スポーツに力を入れるといっても、施設の充実や学生の受け入れ、指導者の確保など、越えるべき壁は少なくありません。でも大学生で競技ができる形にしなければ、その後も地元には定着してもらえませんから」
 国体には出身中学または高校がある都道府県から出場できる「ふるさと選手制度」がある。愛媛を離れて進学、就職した選手であっても、県代表として出られないわけではない。とはいえ彼らばかりに頼っていては本番で躍進は期待できないだろう。県内の選手を母体とし、足りない部分を「ふるさと選手」で補う。これが理想のあり方だ。

 9月25日からは「ゆめ半島千葉国体」がスタートする。昨年の新潟国体で、愛媛県は天皇杯順位(男女総合)が36位だった。山本常務理事は千葉国体での目標を「30位台前半。限りなく30位に近い順位」と定める。7年後の地元開催で天皇杯を獲得するためには何が必要か。「他県に知られると困るから具体的には言えませんよ」と山本常務理事は苦笑いしながらも、「愛媛は人口150万人の県ですから、普通の育成や強化では勝てない」と話す。上位に顔を出している地方の県をみれば、野球、サッカー、バスケットボールといったメジャー競技よりも、マイナー競技にエネルギーを注いでいることが分かる。限られた人材、環境をいかに、どの競技に集約するかもポイントとなるのだろう。

「県教委、各競技団体、体協。三位一体となった取り組みの中で、愛媛県に足りないものはたくさん見えてきた」
 山本常務理事はこう明かす。そのひとつには愛媛県代表としての一体感の欠如があった。今回のインターハイでは、陸上競技で自分たちの高校の部員のみならず、愛媛県の選手を全体で応援する風景が見られた。選手たちは誰もが大会では孤独や不安と戦っている。そんな時にスタンドから届く声援は力になるはずだ。些細なことかもしれないが、こういったまとまりが好成績を後押ししたのかもしれない。

「次は課題に対して、どう具体的にアクションをかけるかでしょう」
 国体成功へのハードルはまだまだ多い。だが、それらを1つ1つ乗り越えていかない限り、ゴールにはたどり着けない。

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(石田洋之)
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