3月11日に発生した東日本大震災はスポーツの世界にも多大な影響を与えている。Jリーグは3月12日以降に予定されていたリーグ戦、カップ戦の中止と延期を発表。プロ野球も二転三転の末、セ・パともに開幕を4月12日にずらすことを決定した。バレーボールのVリーグや男子バスケットボールのJBLはシーズンを途中で打ち切り。ハンドボールの日本リーグや女子バスケットのWリーグはプレーオフの実施を断念した。女子プロゴルフツアーも4月上旬まで4週連続の中止が決まっている。

 重要なのはどのような心で行動するか

 今回の震災は死者・行方不明者合わせて2万7000人を超え、日本の近代以降では最悪の災害となった。加えて停止した福島第一原発からは放射能が漏れ出し、東京電力管内では電力不足に陥っている。私たちの人生の中では経験したことのない非常事態と言っていいだろう。国民感情として「スポーツどころではない」という意見が出てくるのは当然だ。ただでさえ、室内での競技やナイトゲームになれば、照明や空調などで多量の電力を消費する。国民全体が節電を心がけている中、スポーツだけが我関せずというわけにはいかないだろう。

 北海道日本ハムのダルビッシュ有はこう語っている。
「野球選手だから“プレーするしかない”と言うが“野球をしていいのかな”との気持ちもある。実際に日本では困っている人の方が大半を占めている。野球人であるが人間でもある。いつものように野球だけを考えているわけにいかない」
 この思いは、多くのアスリートが共有しているものではないだろうか。

 では今、スポーツにかかわる人間は何をすればよいのだろうか。“サムライハードラー”の異名をとる為末大選手は自身の公式サイトで、選抜高校野球での選手宣誓を取り上げ、次のように綴っている。
<今回の甲子園が私たちアスリートに教えてくれているのは、問題になるのはスポーツをする、何々をするという行動自体ではないという事です。スポーツ不謹慎論が日本で飛び交っているのを私も感じましたが、問題はスポーツをする事自体がいいかどうかではありません。一体何の為に、どんな思いでスポーツをするのかが重要だというのがこれに象徴されているように思います。
(中略)
 行動自体に不謹慎はありません。あくまで心のありようにある。私はこの選手宣誓にアスリートやアーティストが元来持っていて、そして決して忘れるべきでない思いとそして勇気を見るような気がしました>

 日本中、いや世界中のアスリートが、今回の震災を受けて「今、自分にできること」を必死になって模索している。問題はそれをどのように行動に移すかだ。

 メジャーリーグには慈善活動に熱心な選手に対し、「ロベルト・クレメンテ賞」が贈られる。1972年12月、クレメンテは地震に見舞われたニカラグアに救援物資を積んで、自ら飛行機に乗り込んだ。だが運悪く、飛行機はカリブ海に墜落。クレメンテは38歳の短い生涯を閉じた。この悲劇を受け、賞に彼の名が冠されるようになったのだ。

 05年に夫婦での奉仕活動が認められて「ロベルト・クレメント賞」を受賞したジョン・スモルツは「サイ・ヤング賞よりも価値がある」と言い切った。「サイ・ヤング賞」といえば、言うまでもなく511勝をあげたメジャーリーグ最強のピッチャー、サイ・ヤングをしのび、その年、最高のピッチャーを顕彰するメジャーリーグで最も権威のある賞のひとつ。すべての選手が目標にしているといっても過言ではない。

 その賞よりも価値があるとスモルツは言い切ったのだ。
「野球人として偉大であることは素晴らしい。しかし、人間と偉大であることはもっと素晴らしい」
 
 世界中に広がる支援の輪

 スポーツには、国境や言葉の壁を乗り越え、同じ競技を愛するもの同士が連帯できる良さがある。今回の震災でも、スポーツを媒体にして世界中に支援の輪が広がっているケースがたくさんみられる。
 テニス界では、昨年キャリア・グランドスラムを達成したラファエル・ナダル(スペイン)や今年の全豪を制したノバク・ジョコビッチ(セルビア)らが「HOPE FOR JAPAN」と題したサッカーの慈善試合を行った。錦織圭もこの試合に参加し、被災者支援のためのチャリティーオークションサイトも立ち上げている。 

 メジャーリーグでも松坂大輔、岡島秀樹、田澤純一らが在籍しているボストン・レッドソックスがオープン戦で募金を呼びかけ、1日で35000ドル(約290万円)が集まったという。今季から松井秀喜がプレーするオークランド・アスレチックスでは、4月3日のシアトル・マリナーズ戦を「ジャパン・デー」とし、チャリティーオークションや義援金の受付、入場料1枚につき1ドルを寄付するといった試みを行う予定だ。

 日本人選手が多数プレーしているヨーロッパのサッカー界でも支援の動きが瞬く間に起こった。日本代表GK川島永嗣が所属するベルギー1部リーグのリールセではチームが残留争いをしている最中にもかかわらず、サポーターが日の丸を掲げ、スタンドから激励のメッセージを送った。ブンデスリーガで日本代表DF内田篤人がプレーするシャルケ04、MF香川真司のいるドルトムントなどが往年の選手によるチャリティーマッチを開催した。バイエルン・ミュンヘンは日本での慈善試合を行う計画を立てている。

 被災者の心のケアを

 まだ東北地方を中心に17万人の方々が避難生活を送り、原発事故の状況も予断を許さない。復興への道のりは決して短くはないだろう。阪神淡路大震災など過去の例を見ても、ライフラインの復旧や仮設住宅の設置といったモノの部分が満たされてくれば、次に必要になるのが心のケアである。慣れ親しんだ自宅や職場、学校を失った人々は大変なストレスを抱えて日々を過ごすことになる。

 阪神大震災では神戸製鋼ラグビー部の選手たちが避難所でボランティアをしながら、ラグビーボールを持参して子供たちと遊んだそうだ。ひとつのボールに集中することで、その時間だけはイヤなことも忘れられる。元気に走り回る子供たちの姿を見れば、周囲の大人たちも心がなごむ。アスリートたちが復興に向けた被災地を訪問する意義は小さくない。

 28日に大阪で行われたサッカー日本代表とJリーグ選抜のチャリティーマッチは、4万人を超える観客を集め、関東地区で22.5%の高視聴率を記録した。国際Aマッチではなかったにもかかわらず、アルベルト・ザッケローニ監督が招集した日本代表の海外組は、全員がこの日のために帰国。インテル・ミラノのDF長友佑都は体調不良を訴えながら、ピッチを駆け回った。何よりJリーグ選抜では44歳の三浦知良が途中出場してゴールを決めた。日本サッカー協会はこの試合に関連した活動で約2231万円の義援金が集まったと発表している。スポーツの力、アスリートの力なくして、ここまでの支援は集まらなかったはずだ。

 4月になればプロ野球もスタートし、サッカーのJリーグも再開する。海の向こうでもメジャーリーグがレギュラーシーズンに突入し、日本人選手の活躍が見られるに違いない。ヨーロッパでも4月5日からスタートする欧州チャンピオンズリーグの準々決勝で初の日本人対決が実現する。インテルの長友とシャルケの内田だ。それぞれの選手たちは、きっと今まで以上に気持ちの入ったプレーで、私たちを勇樹づけてくれるだろう。

「ひとりじゃない。みんながいる。世界中の人たちが日本を応援しています。みんなが笑顔になれますように」(長友)
「ひとりひとりができることをやりましょう。日本がひとつのチームなんです」(内田)
 テレビからは、そんなメッセージが繰り返し流れている。スポーツを通じて、すべての人が一致団結し、復興への一歩を踏み出せることを祈りたい。

 このたびの東日本大震災により、被害にあわれた皆様に慎んでお見舞い申し上げます。また、被災された地域の一日も早い復興をお祈り申し上げます。

 スカパー!はJリーグ及び、各Jクラブの「被災者の方々の支援と復興のために。」という主旨に賛同し、Jリーグが掲げる救援・復興支援スローガン「チカラをひとつに。-TEAM AS ONE-」のもと、Jリーグが主催する「東北地方太平洋沖地震復興支援 2011Jリーグチャリティーマッチ」を無料で生中継し、復興への協力を行います。今回の放送を通じ、被災された地域の復興に少しでもご協力できることを願っています。

【中継試合】
4月2日(土)
愛媛FC × ファジアーノ岡山(12:00、ニンスタ)
ガイナーレ鳥取 × 徳島ヴォルティス(14:30、ニンスタ)
アビスパ福岡 × サガン鳥栖(12:00、レベスタ)

4月3日(日)
FC東京 × 松本山雅(14:00、アルウィン)

4月9日(土)
清水エスパルス × ジュビロ磐田(13:00、アウスタ)
サンフレッチェ広島 × ヴィッセル神戸(14:00、広島ビ)

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
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