甚大な被害をもたらした東日本大震災の影響を受け、国内開催を断念した世界フィギュアスケート選手権は、24日からロシア・モスクワで代替開催されている。注目は日本人初の連覇を目指す浅田真央(中京大)と高橋大輔(関大大学院)だ。他にも日本選手権で全日本女王の座に返り咲いた安藤美姫(トヨタ自動車)や新星の村上佳菜子(中京大中京高)、男子はバンクーバー五輪出場メンバーの織田信成(関大大学院)と小塚崇彦(トヨタ自動車)が出場する。今や日本フィギュアスケート界は世界で最も層が厚いと言われており、前回大会に続く男女アベック優勝の可能性も十分にある。

 浅田、名伯楽の指導で連覇を目指す

 連覇を目指す浅田真央は今季のグランプリシリーズではNHK杯8位、フランス・エリック杯5位と、2戦ともに納得のいく滑りができず、グランプリファイナル出場を逃した。2010年のバンクーバー五輪でトリプルアクセルを3度も成功させ、彼女の最大の武器だったはずのジャンプにミスが続き、世界選手権への出場も危ぶまれた。

だが、昨年12月の日本選手権では見事、表彰台に上がり、世界選手権の切符を獲得。今大 会の前哨戦ともいえる今年2月の四大陸選手権でも浅田自身が「今季一番」と言うほど完璧なトリプルアクセルを跳び、2位に入った。「昨年12月から上り調子」と本人が言うように、今季はまだ優勝はないものの、復調の兆しを見せ始めている。

 その背景には昨年9月から指導を受けている佐藤信夫コーチの存在がある。佐藤コーチは現役時代、未だ破られていない全日本選手権10連覇の偉業を達成している。オリンピックには1960年スコーバレー大会、64年インスブルック大会と2度出場し、日本男子フィギュア界を牽引した。指導者としても娘の佐藤有香を世界女王へと導き、その後も荒川静香、村主章枝、安藤、中野友加里を世界で活躍するトップ選手へと押し上げた。昨年2月には伊藤みどり以来、日本人2人目となる世界殿堂入りを果たした。その名伯楽が50年かけて培ってきたスケーティング技術によって、浅田のジャンプが安定してきたのだ。

「12月以降、上り調子」と浅田。それは演技構成にも表れている。四大陸選手権ではボーナスでジャンプの得点が1.1倍となるフリーの後半に2回転半−3回転を入れ、高得点を狙った。結果的には回転不足とみなされたが、世界選手権でも攻めの姿勢を変えるつもりはない。

「入っているエレメンツをクリーンにやりたい」と浅田は言う。前回大会以来、1年ぶりの金メダル獲得には、特にジャンプの精度が何よりも重要になる。そのことを浅田は誰よりもわかっている。彼女の代名詞ともなった“トリプルアクセル”はもちろん、全てのジャンプを成功させることが、世界女王への必須条件となる。

 キム・ヨナ、1年ぶりに公式戦復帰

 昨年12月の日本選手権で6季ぶりに全日本女王となった安藤美姫は初優勝した2007年以来となる4季ぶり2度目の世界女王の座を狙う。2月に行なわれた四大陸選手権では体調を崩しながらもフリーの後半に2回転半−3回転半の連続ジャンプを決めるなど、女子では4人目となる200点越えの演技で会場を沸かせ、見事初優勝を果たした。

 今季は5試合中4試合を制しており、日本女子の中で最も世界女王に近い存在と言っていいだろう。特にフリーにおいては出場した全5試合でトップと絶好調だ。それまで課題とされてきたショートプラグラム(SP)も、四大陸選手権ではシーズンの自己ベストを10点以上伸ばして今季初めてトップに立っている。

 安藤の強みは、日本人選手が苦手とする表現力の豊かさにある。彼女が醸し出す妖艶さは、もうそれだけで観る者を魅了する。レベルの高い日本人選手の中でも完成度においては彼女の右に出る者はいない。四大陸選手権では回避した2連続3回転を成功させれば、さらに金メダルへと近づくはずだ。「今回はしっかりと意識をしたうえで、金メダルが欲しいと思っている」。酸いも甘いもかみ分けてきた23歳の力強くも美しい舞いに注目したい。

 日本フィギュア界が今、最も注目するホープといえば、16歳の村上佳菜子だろう。トレードマークの笑顔で観客を虜にする彼女の演技は元気のよさがあふれ出ている。もちろん、実力も証明済みだ。昨季、世界ジュニア選手権で優勝し、今季はシニアのグランプリシリーズに初参戦した。デビュー戦となったNHK杯で3位、スケートアメリカでは優勝を果たし、進出したグランプリファイナルでも3位に入った。

 さらに全日本選手権では世界の舞台で活躍してきた先輩たちを抜き去って、堂々の銅メダルに輝き、世界選手権出場を決めた。今年2月の冬季アジア大会では連続3回転ジャンプを決めるなど圧勝し、アジアの頂点に立っている。「自分がやってきたことを精一杯頑張りたい」。飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている新星が、世界のトップ選手が集う舞台でどんな滑りを披露するのか。これもまた楽しみだ。

 今大会は2010年のバンクーバー五輪金メダリストのキム・ヨナ(韓国)が北京五輪後の世界選手権以来、約1年ぶりに公式戦復帰を果たす場としても注目されている。昨秋、新たに契約したピーター・オペガードコーチの指導で、より表現力に磨きをかけてきた。今大会はその成果を試すうえで重要な大会となる。

 その彼女がSPの曲に選んだのはバレエ曲「ジゼル」。バレリーナにとっても高いレベルの表現力が求められる曲だ。ここに彼女の自信が垣間見える。1年間のブランクを経ての演技に注目が集まる。

 優勝の条件は4回転ジャンプ

 男子の注目は日本人初の連覇を目指す高橋大輔だ。昨年12月の全日本選手権では、グランプリファイナルの練習中に小塚崇彦と衝突して痛めた首が回復していなかったこともあり、3位に終わった。しかし、今年2月の四大陸選手権では3年ぶりに金メダルを獲得し、世界選手権連覇に弾みをつけた。

 今月9日に神戸市のポートアイランドスポーツセンターで行なわれたチャリティー演技会でも、SPを完璧に滑っており、順調な仕上がりぶりがうかがえる。長光歌子コーチも「本番にピークを合わせられそう」と自信を見せており、日本男子初の優勝を果たした前回大会に続く連覇の可能性は十分にある。

 唯一課題とされているのが、4回転ジャンプだ。フリーで今季の自己ベストを更新した四大陸選手権でも果敢にトライしたが、転倒した。いい感触はつかみながらも、昨年10月のNHK杯以来、本番での成功はなく、やはり「このままでは勝てない」と危機感を募らせる。

 最大のライバルはその4回転ジャンプを武器とするパトリック・チャン(カナダ)だ。昨年のカナダ選手権では4回転ジャンプを3度成功させている。今季のグランプリファイナルでも圧倒的な力を見せつけて優勝しており、今大会でも優勝候補の筆頭に挙げられている。強力なライバルに勝つには、4回転ジャンプの成功が前提条件となる。

 雪辱果たしたい織田&小塚

 4回転ジャンプがカギを握るのは、織田信成と小塚崇彦も同様だ。世界選手権では初のメダル獲得を目指す織田は、これまでは確実性を重視し、本番では4回転ジャンプを回避してきた。意を決して臨んだ昨年の日本選手権ではSP、フリーともにトライしたものの、一度も成功させることができずに終わった。練習ではいい感触をつかんでおり、確実性とともに精神面での弱さを克服したいところだ。ちなみに昨年10月には第一子が誕生している。今大会では父親の雄姿を見せられるか。

 小塚は、初出場したバンクーバー五輪で日本人ではただ一人、4回転ジャンプを成功させた。これをきっかけに急成長を遂げている。今季のグランプリシリーズでは中国杯、エリック杯と連続優勝し、2季ぶりのグランプリファイナルでは銅メダルを獲得。そして全日本選手権で高橋、織田を押さえて初優勝を果たした。

 ただ、四大陸選手権ではSPで3つのジャンプを全て失敗し、今季最低の66.25点で6位と出遅れた。これが大きく響き、フリーでは2位と巻き返したものの、総合4位に終わった。それでも「体力さえつけば問題はない」と自信を見せている。今大会は日本人選手では唯一、予選からのスタートとなる。小塚には全日本王者としてのプライドもあるはずだ。4回転ジャンプをきっちりと決め、優勝争いに食い込みたい。

 果たして最終日の5月1日に行われるエキシビジョンを最高の笑顔で迎えるのはどの選手か。日本で見ることができなくなったことは残念だが、今季最後となる激しくも美しい氷上の戦いをじっくりと堪能したい。

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【生中継予定】 放送はすべてJ SPORTS

4月27日(水) 20:10〜 男子ショートプログラム
4月28日(木) 17:55〜 男子フリー
4月29日(金) 20:10〜 女子ショートプログラム
4月30日(土) 18:25〜 女子フリー

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