今季のプロ野球は大きく様変わりするかもしれない。 
 2011シーズンよりプロ野球では12球団統一で低反発の公式球が使用される。いわゆる飛ばないボールだ。インパクトの瞬間のボールの飛び出し角度やスイングスピードにもよるが、140キロ台中盤のストレートだった場合、従来より1、2メートル、飛距離が落ちると言われている。

 ここ数年、プロ野球はホームランのインフレ状態だった。完全に体勢を崩されて、ポーンとバットを放り出すような姿勢になっても、打球の角度が良ければスタンドに入ってしまう。
「あんなのがホームランになったら、僕はピッチャーをやっていていいのかとさえ考えてしまう」
 ある球団の主力投手はそう憤っていた。昨季限りで現役を退いた元阪神の矢野耀大もキャッチャーの立場から「従来のボールでは正直、野球にならなかった」と証言する。
「甲子園でも簡単にホームランが入るようになりましたからね。見ている側はホームランがいっぱい出て楽しいのかもしれないけど、実際にプレーしているほうはたまったものじゃない。常識の範囲内であってほしいと思いますよ」
 その意味で新球の導入は、ホームランインフレの解消を狙った“公的介入”である。

 表皮はすべすべで縫い目は低い

 統一球が違うのはボールの中身だけではない。手に持った感触も従来のものとは異なる。キャンプ中に取材した各球団の投手の話を総合すれば、「今までよりも表皮がすべすべしており、縫い目が低い」。これまで五輪やWBCなどの国際大会で、日本の投手陣は国際球に慣れるのに時間がかかるケースが多かった。そのため、国際試合で使われるボールに近づけた仕様になっている。

 実際、日本代表などで既に国際球を経験したピッチャーに話を聞くと、新球にも難なく対応できているようだ。たとえば2008年の北京五輪、09年のWBCに出場した東北楽天の田中将大は次のように語る。
「多少、違いはありますけど、あまり気にはならないですね。以前のものよりちょっと滑って、縫い目が粗いなというくらい。(WBCで使用した)アメリカ製のボールにも近くない。アメリカ製はもっと滑りますから。その時と比べれば全然。まだ日本製に近いと言ったほうが合っていると思います」

 同じくWBCでMVP級の働きをみせた楽天の岩隈久志の声。
「ちょっと(ボールが)小さくなったような感じもしますが、あまり変わらないですね。違いはよく分からない。縫い目もそんなに気にはならなかった。むしろ僕は米国製のボールのほうが、縫い目の幅が大きいので、空気抵抗を受けてよくボールが動いてくれて良かったんです」

 スライダーはよく曲がる?

 カーブやスライダー、カットボールといった変化球はボールをひねったり、縫い目に引っ掛けたりすることで、その回転数を変える。当然、縫い目の形状や高さが変われば、その変化も異なってくる。北海道日本ハムのサウスポー武田勝といえば、曲がり幅の大きなスライダーが持ち味だ。その変化には巨人の坂本勇人が「ヒューンと外に飛んでいくんですけど、それがガンって内に入ってくる」と目を丸くするほどだ。このボールを武器に昨季はダルビッシュ有を上回る14勝(7敗)をあげた。

 その武田は新球効果で、伝家の宝刀にさらなる磨きがかかりそうだ。
「投げているうち曲がり幅が大きいという感覚が掴めてきました。バッティングピッチャーをやっていても、これまでとはバッターの反応が違いますね。特に右バッターがそうです。これまで以上に食い込んでいきますから、これは大きな武器になると思います」
 変化球がよく曲がるという意見は他にも耳にした。巨人のルーキー沢村拓一は次のように明かす。
「真っ直ぐはあまり変わりませんが、変化球は曲がります。滑るというより抜ける感じです。縫い目からうまく抜けることが前提ですが、よく曲がる。自分にとっては武器になりつつあります」

 コントロールミスは増加?

 低反発な上に変化球がよく曲がる。ここまで読んだ読者は、新しい統一球がすべてのピッチャーにとって有利に働くと感じたのではないだろうか。しかし、事はそれほど単純ではない。慣れ親しんできたボールの感触が変わることに、少なからず不安を抱く投手もいる。たとえば、球界最年長投手の中日・山本昌は、「去年までのボールはめちゃくちゃ投げやすかった」と前置きし、次のように語る。
「担当者には“なんで、こんなにツルツルにするんですか?”と言いましたよ。国際試合に対応するため、という理由は分かりますが、おそらく今後はプロに準じてアマチュアのボールも変わっていくでしょう。となると投手も野手も投げるにあたって、余計な神経を使うことになる。それが野球のレベルアップにつながるのか」

 今季、46歳を迎える大ベテランは湿度の低い春先はコントロールミスが増えると予想した上で、こんな提言をしている。
「ボールが滑るのは仕方がない。だったらアメリカのように粘着力のあるロージンを使うとか、試合前にボールをこねる土を工夫してほしい。そのうち慣れれば気にならなくなるとは思いますけど、ピッチャーって1球のストライクボールですごく影響される生き物ですから」
 たとえ本塁打は出なくても、投手陣が制球を乱して四球を連発してしまう試合が開幕当初は目立つかもしれない。

 変化球もすべての球種が新球で良くなるとは限らない。現役時代は阪急のエースとして通算284勝をあげ、先のWBCでは日本代表の投手コーチを務めた山田久志は、こう分析する。
「カットボールとかツーシームとか、横にちょっと滑らせて変化させる球種には適しているでしょうね。一方でフォークとか縦に大きく変化させるボールはスッポ抜ける危険性もある。キャンプを廻っていると、フォークを決め球にしている投手は対応に苦労していましたね」

 ロースコアのゲームが増える?

 バッターの感想も聞いてみた。まずは2008年、09年と2年連続でパ・リーグのホームラン王に輝いた埼玉西武の“おかわり君”こと中村剛也。
「うまく(打球に)スピンがかかれば問題はありません。ただ芯に当たらず、(打球に)スピンがかからなければ失速しますね。気になるのは“打感”の悪さ。“ボコッ”という音しかしないんです。練習で打っていても、正直あまりおもしろくないですね」
 その一方で今季、クリーンアップの一角を担いそうな北海道日本ハムの中田翔は「全然気になりません」と語る。このキャンプでは新打法に取り組み、実戦でもホームランを連発しているだけに当然といえば当然か。

 ここまで何試合か練習試合、オープン戦を現場やスカパー!を通じて観たが、私は「やはりボールは飛ばない」との印象を抱く。これまでなら外野スタンドに飛び込んでいたと思われる打球がフェンス手前で失速するのだ。昨季に比べると1、2割はホームランが減るのではないか。となれば必然的にロースコアのゲームが増える。投手力を含めた守りのチーム、またはここぞという時に1点を獲れる試合巧者が最後に笑う気がする。監督の采配もペナントレースの趨勢を大きく左右しそうだ。

 開幕まではあとわずか。オープン戦を通じて、どの球団が新球にもっとも適した野球をみせるのか。ぜひファンの方には、各選手の仕上がり具合のみならず、チーム戦術の部分にもこだわって見てほしい。そうすることで、よりペナントレースも楽しめるはずだ。

 2011年プロ野球の幕開け オープン戦を徹底放送!



【今後のオープン戦中継予定】(時間は放送開始時刻)

◇3月9日(水)
12:45〜 阪神×東北楽天(スカイ・A sports+、甲子園)
17:45〜 福岡ソフトバンク×巨人(J SPORTS ESPN、ヤフードーム)

◇3月10日(木)
12:55〜 阪神×埼玉西武(GAORA 、甲子園)

◇3月12日(土)
12:55〜 千葉ロッテ×埼玉西武(J SPORTS1、千葉マリン)
12:45〜 オリックス×巨人(J SPORTS2、京セラドーム大阪)
13:25〜 阪神×中日(スカイ・A sports+、甲子園)

◇3月13日(日)
12:55〜 埼玉西武×千葉ロッテ(J SPORTS Plus、西武ドーム)
12:55〜 阪神×巨人(GAORA、甲子園)

◇3月14日(月)
12:45〜 巨人×阪神(日テレG+、岐阜)
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