秋の国体に向け、成長のあとが見えた3位入賞だ。
 国体での優勝を最大の目標に掲げるダイキ弓道部は、この3〜5日、全日本勤労者選手権大会(岐阜県恵那市まきがね公園体育館)に参加した。この大会では官公庁、会社単位で3名1組のチームをつくり、団体戦で競い合う。昨年の同大会で準優勝を収めたダイキは、主将の橋本早苗、山内絵里加、原田喜美子の3選手で大会に臨み、1次、2次と予選を突破。決勝トーナメントは準決勝で惜しくも敗退したが、3位決定戦を制した。目指していた優勝こそならなかったものの、2年連続の入賞は立派な成績だ。参加3選手に大会を振り返ってもらった。
(写真:昨年の準優勝に続く入賞を果たした選手たち)
「昨年以上の成績を狙っていただけに悔いが残ります。ただ、私が入社して以来、2年連続で入賞したことはなかった。その意味では一歩前進と言えるでしょうか」
 橋本はそう大会を総括した。
 この勤労者選手権では近的で3人が4射ずつ実施し、合計12射で勝敗を競う。まず初日の1次予選は7中以上が突破の条件。ダイキは全チームトップタイの10中で余裕の2次予選進出を決めた。翌日の2次予選は的中数の多い順に上位16チームが残る形式だ。ここでもダイキは9中と結果を残し、決勝トーナメントにコマを進めた。

「昨年は立番が早くて、くじ運にも恵まれたのですが、今回は1次が66番目で、2次も最後から2番目。あまり早く会場入りすると、雰囲気に飲まれてしまうので、なるべくリラックスして、お昼くらいに会場入りするようにしました」
 長い待ち時間の中、橋本は後輩の山内、原田に対して、「あれこれ考えすぎないように、のびのび弓を引くこと」を意識させた。出番前には、最も気を付ける点だけをアドバイスし、目の前の的に集中させた。

 先輩の助言を受け、次々と矢を的中させたのが原田だ。これまでの大会では緊張のあまり、練習通りの力が出せないことが多かった。そんな彼女に橋本は「緊張するのは当たり前だし、緊張しないほうが無理。力んでもすぐ矢を離してしまうのではなく、納得いくところまで引こう」と声をかけた。原田は予選こそ矢が荒れていたものの、決勝トーナメントでは、本人曰く「神がかり的」な活躍をみせる。1回戦で最初の1本を外した以外は、すべて的を射抜いたのだ。

「昨年の大会は2位になったとはいえ、私は足を引っ張ってしまった。国体のブロック予選でも悔しい思いをして、もっと試合で弓をしっかり引きたいという強い気持ちが出てきました」
 それまでは試合が近づくと不安に襲われ、どこか怖がっていた自分がいた。だが、今は違う。緊張から逃げるのではなく、正面から向き合い、的と向き合った。怖さはどこかへ消えていた。

 好調な原田に引っ張られ、橋本、山内も安定した弓をみせ、決勝トーナメントも1回戦、2回戦と勝利。準決勝は愛知県の東海理化と顔を合わせた。だが、ここで部員たちのメンタルが乱れる。それは予選から常に3中以上だった1人目の山内が3本目を外したところから始まった。「落ち着いて、いつも通りやれば大丈夫」。山内はそう自分に言い聞かせつつも、「次は当てなきゃ」というプレッシャーに襲われていた。心の揺れは、手元を狂わせる。最後の4本目も失敗し、2中に終わった。

 原田が全中で盛り返し、勝負の行方は3人目の橋本に委ねられた。橋本は3本目までは順当に的中させたものの、最後の1本を外してしまう。一方、東海理化の3人目は4本とも的に当て、結果は9−9の同中。競射(全員が1本ずつ引き、的中の多いほうが勝利。同中の場合は決着がつくまで繰り返す)によって決勝進出を決めることになった。
「結果を聞いて“私の(最後の)1本のせいだ”と感じました。日頃から最後の4本目を大事にしていただけに、それを決められない弱さを痛感しました」

 目に見えない落胆は悪い形になって表れる。1本目こそ、両者とも2中だったが、2本目は山内、橋本が外して万事休す。もう1本の壁に阻まれ、2年連続の決勝を逃してしまった。
「悔しいし、情けない。それだけです」
 競射に入っても続けて外し、トータルで4本連続で×を並べてしまった山内はそう唇をかんだ。とはいえ、まだ彼女たちの戦いはこれで終わりではない。3位決定戦があるのだ。準決勝で敗退した同士、いかに気持ちを切り替えて試合に集中できるかがポイントになる。

 ズルズルと調子を崩してもおかしくない状況下で、ダイキは底力をみせた。迎えた3位決定戦、3選手はそれぞれがベストのパフォーマンスをみせ、全員が全中で大会を締めくくったのだ。相手チームが3人でわずか2中に終わったのとは対照的だった。
「負けてしまったといえ、3位と4位では大きな違いがある。ここで全員が気持ちを立て直せたのは大きな成長です」
 橋本は3位決定戦での戦いぶりを評価する一方、課題も口にした。
「本来なら、これを準決勝や決勝といった大事な場面で出したかった。それができなかったのは残念ですね」

 どんなに才能豊かな人間でも、ここ一番でその能力を発揮できなければ意味がない。弓道部にとって、次なる“ここ一番”は国体だ。昨年10月から続いた県代表の選考会は、12日に終了し、5名の弓道部員は全員が候補選手に入った。ここから強化練習を経て、ブロック予選に出場する代表選手3名を決定する。部員たちにとっては、まさにサバイバルゲームだ。
「山内、原田とも頼もしい存在になっていますし、北風(磨理)や小早川(貴子)も成長してきた。これからが楽しみでもあり、怖くもありますね」
 ダイキ入社以来、国体に5度出場している橋本も安穏とはしてはいられない。

「まずはブロック予選のメンバーになることが大事。でも、もっとレベルアップしないと国体では勝てない」(山内)
「国体に出るには大きな壁があると思っています。今回の大会を自信にしつつ、気持ちが空回りしないように頑張りたい」(原田)
 各部員の意識は今まで以上に高い。意識が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば……。今年こそ実りの秋を迎えるべく、ダイキ弓道部は暑い夏に突入する。

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(石田洋之) 
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