今年ほど人と人とのつながりや絆が大切だと感じられた年はないかもしれない。3月の東日本大震災では多くの被災者が自らの大切な家族や住居、生活基盤を一瞬にして失った。だが、震災直後より温かい支援が世界中から集まり、被災地はゆっくりではあるが復興に向けて歩み出している。どんな困難な状況も人と人が手を取り合い、助け合えば、必ず乗り越えられる――。そんなメッセージをこれからも日本から発信し続けたい。
 7月24日、J2第22節、愛媛FC対東京ヴェルディ戦。「伊予銀行サンクスデー」と銘打って行われた試合は、そんな地域の「つながり」や「絆」をテーマに開催された。

(写真:選手登場ともにバックスタンドに現われたジャンボユニホーム)
 地域対抗リレーやサッカー大会を企画

 愛媛FCはJ2に昇格した2006シーズンより、ホームゲームでマッチスポンサーを募り、さまざまなイベントを行っている。愛媛FCのスポンサーでもある伊予銀行は、初年度から毎年1回、ホームゲームで「伊予銀行サンクスデー」を開催してきた。過去にはオレンジの巨大ユニホームを作成。試合前やハーフタイムにピッチ上やスタンドでお披露目され、スタジアムを驚かせた。また昨年は伊予銀行オリジナルキャラクターの「とりカエル」が登場。クラブが企画した「ゆるキャラデー」と連携して、スタジアムに訪れた多くのサポーターたちをなごませた。

 今年の「伊予銀行サンクスデー」は当初、4月上旬のホームゲームでの実施を計画していた。しかし、震災の影響でJリーグのスケジュールが変更になり、開催日、内容とも変更が必要になった。改めて候補にあがったのが夏休み期間中の開催だ。
「順位争いの中で、愛媛FCが最も声援を必要とする時期ですし、普段スタジアムまで観戦に行かない地元の方を呼び込むタイミングとしても最適と考えました」

 ちょうど当日は松山広域デーと銘打ち、ホームスタジアムがある松山市を中心とする近隣の3市3町がイベントを行うことになっていた。当該エリアの住民は当日のチケットが無料、また割引で入手できるとあって、愛媛FCでは1万人の来場を目標に掲げ、告知に取り組んでいた。大勢の観客が予想されるだけに、スポーツを通じた地域住民の「つながり」や「絆」を深めてもらえる内容を――。こうしてイベントの方向性が定まった。

「つながり」「絆」といって、真っ先に思い浮かべる競技と言えばリレーだろう。各自が与えられた距離を走り切り、バトンを次の走者へつなぐ。昨年の松山広域デーでも実施された、この企画を伊予銀行では引き続き開催するよう提案した。また前座試合として「伊予銀行カップ愛媛FCサッカー大会」を企画。3市3町の小学生によるミニサッカー大会を設けた。参加者には東京ヴェルディ戦のチケットや、伊予銀行と愛媛FCがコラボした特製缶バッチが全員にプレゼントされた。

 さらに今回は告知の面でもかわいい助っ人がやってきた。試合2日前からJリーグ特命PR部マネジャーを務める足立梨花さんが来県し、地元の各メディアを訪問し、番組で試合のPRを実施したのだ。伊予銀行でも、そのPRに同席し、当日、来場者に配られる特製タオルなどを掲げ、観戦を呼びかけた。

 巨大ユニホームで勝利を後押し!

 迎えた試合当日、宣伝効果もあってスタジアムには老若男女を問わず、続々とサポーターが詰めかけた。先着3,000人には特製タオルが配布され、中学生以下のお子様限定で先着300名に特製感バッチも配られた。多くの観客が見守る中、試合前に行われたリレーでは3市3町が、それぞれ小学校1〜6年生でチームをつくり、スタジアム内のトラックを激走。愛媛FCからも選手に加え、オ〜レくん、たま媛ちゃん、伊予柑太といった公式キャラクター、さらには愛媛FC熱烈サポーターの一平くんがチームをつくって出走し、場内を大いに盛り上げた。ゴールのテープ持ちを「とりカエル」が務めるなど、伊予銀行もこのイベントに一役買った。

 そしてキックオフの時間となり、ピッチ上に両チームの選手たちが入場する。その瞬間、バックスタンドからオレンジの巨大ユニホームが姿を現した。縦10メートル、横14メートルのユニホームは反対側のメインスタンドからも映え、選手たちを大いに鼓舞した。

 伊予銀行からも職員とその家族、約1000名がメインスタンドのA席に陣取って応援する中、愛媛FCの選手たちはいつも以上に積極的なプレーをみせる。前線からの激しいプレスで、得点力の高い東京Vの攻撃を封じると、後半3分、FW齋藤学のゴールで愛媛FCが先制する。その後、CKから同点に追い付かれたものの、残り10分を切った後半39分、MF石井謙伍がドリブル突破で相手ゴールに迫る。ここで侵入を防ごうとした相手DFの足が石井の顔面に入り、PKを獲得。石井は負傷退場となったが、代わりに蹴った齋藤が冷静にゴールネットを揺らし、勝ち越した。

 試合はこのまま終了のホイッスルが鳴り、2−1。愛媛FCが連敗をストップし、最高の形で「伊予銀行サンクスデー」を締めくくった。これでサンクスデーは昨年に続き、連勝。クラブにとっても縁起のいいマッチスポンサーとなりそうだ。

 夏祭りにも積極参加

「開催した企画は、どれも地域のつながりを強めることができたと思っています。来年以降も1人でも多くの方にスタジアムに来ていただけるよう、ストーリー性を大切にした企画を考えていきたい」
 伊予銀行では、そう今回のサンクスデーを総括した。その一方で「観客動員が思ったより伸びなかった」点は反省材料にあげる。当日は7,634人と、愛媛FCの平均観客動員数を大幅に上回った。だが、前年の松山広域デーで記録した10,630人を上回ることができなかった。今回は夏休み期間中と集客が見込める日程であった反面、他のイベントや行楽に分散するデメリットもあったのかもしれない。

 伊予銀行では、このサンクスデーにとどまらず、地元のスポーツクラブである愛媛FCとのつながりを強めている。ホームゲームではタッチライン脇に広告看板を掲出している他、昨年は愛媛FCの練習場「愛フィールド梅津寺」への植樹も行った。伊予銀行では地域環境保全のため、「森のあるまちづくりをすすめる会」を結成し、植樹活動を実施している。この会の協賛により、グラウンド脇には150本の木が植えられた。
「今後もスポーツ以外での活動でも連携して地域の活性化につなげていきたい」
 伊予銀行では来年以降も、サンクスデーをはじめ、さまざまな試みを企画したい意向だ。

 夏はスポーツのみならず、さまざまなイベントが開催される季節でもある。伊予銀行は地域の夏祭りにも積極的に参加中だ。7月22日から宇和島市で開催された「うわじま牛鬼まつり」では今年制作した緑の牛鬼(頭が鬼で体は牛の怪物。宇和島地方では山車状にして練り歩く)が登場。祭りに彩りを加えた。さらに8月11日から開催される「松山まつり」にも野球拳おどりに参加する。この野球拳おどりではコンテストも開催されており、伊予銀行連は2年連続で優勝を収めている。今回は招待連としての参加となり、コンテストの対象からは外れるが、そのおどりには一見の価値がありそうだ。

 これからも伊予銀行は地域との「つながり」「絆」を大切にしながら、愛媛に活力を与える活動を続けていく。


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