伊予銀行男子テニス部は、初の専任監督として秀島達哉監督が就任して4シーズン目を迎えようとしている。2009年シーズンには5年ぶりに日本リーグで決勝トーナメント進出を果たしたが、翌シーズンは7位に転落。しかし、今シーズンは5位と浮上の兆しを見せた。毎年、ポテンシャルの高い選手が加入し、確実にチーム力は上がっている。では、今、チームに何が必要なのか。秀島監督に来シーズンへのチーム強化について訊いた。

「チームに必要とされなければ、いつ戦力外になるかわからないぞ」
 日本リーグ後、秀島監督は既存の選手に厳しい言葉を投げかけた。それは脅しでも何でもなく、事実を述べたにすぎない。近年、伊予銀行男子テニス部には学生時代にインカレで優勝するなど、輝かしい実績をもった選手が入ってきている。今年4月にはインカレでダブルス準優勝した飯野翔太選手(早稲田大)が新加入する。チームの底上げは確実だが、その半面、チーム内の競争は激しさを増すことは必至だ。
「実績のある若い選手が入ってくれば、それだけ既存の選手の置かれた状況は厳しくなります。そのことをよく理解して、チームの戦力としての自分の役割を把握し、必死にならなければいけません」

 その危機感を最も抱いているのが、植木竜太郎選手だと秀島監督は言う。それは試合でのプレーからも感じられる。日本リーグ直後に行なわれた2月の鳥取オープンの初戦、植木選手はプロの井藤祐一選手を破ってみせたのだ。セットカウント1−1で迎えた最終セットはタイブレークにまでもつれこむ接戦をモノにした価値のある勝利だった。エースとして君臨してきた植木選手も、ここ1、2年の若手の台頭で、決してレギュラーの座を約束されてはいない。特に、昨年入行した佐野紘一選手の影響は小さくはなく、下からの突き上げを感じている。だからこそ、プレーにも必死さが出ているのだろう。それが好結果につながっている。

 今シーズン、佐野選手の影響を受け、指揮官に「最も成長した」と言わしめたのが、廣一義選手だ。だが、日本リーグ後は緊張の糸が切れたのか、これまでの勢いが失われてしまったという。
「決して悪い状態ではないのですが、昨年のようにグングン伸びているという感じではないですね。彼が日本リーグでシングルスに抜擢されるくらいの存在になってくれれば、チームの層は非常に厚くなります。ですから、さらなる成長を期待しているんです」
 一方、秀島監督が今、最も勢いを感じているのが坂野俊選手だ。3月に行なわれた、ひまわりオープンの準決勝で、日本リーグで植木選手にストレート勝ちした酒井祐樹(リコー)選手を破って決勝進出を果たした。これまで強化を図ってきたフィジカル面が、坂野選手のテニスといい具合でかみ合ってきているようだ。

 逆に、なかなか本来の調子を取り戻し切れていないのが、小川冬樹選手だ。昨春、より進化を求めてラケットを替えたことでスランプ状態に陥ってしまった。1年間、悪戦苦闘する中で、再びラケットを戻し、元来のプレースタイルを取り戻す作業を行なってきた。
「昨年に比べれば、確実によくはなってきていますよ。スピードやパワーを求めるのではなく、小川本来の柔らかいフォームに戻りつつあります。でも、まだ復調とまでは至っていません。そろそろ結果を出さないといけないことは本人が一番よくわかっていると思います」
 1年間、ほとんど実力を出し切れずに終わった小川選手にとって、4月からのシーズンは正念場となりそうだ。

 今やチームの中心的存在となりつつある佐野選手には、今後、国内トップ選手を破ることが求められる。一つひとつの技術を見れば、トップ選手との差はそう大きくはないという。では、トップ選手との違いはどこにあるのか。
「ゲームの流れを読み、場面場面で、どういうプレーが求められているのかを見極める力ですね。トップ選手は相手や展開によってかえられる引き出しをいくつも持っています。ですから、ここぞという時には、グッとギアを上げられるんです。佐野にはそのレベルにまで達してほしい。そのポテンシャルは十分にありますから」
 2年目の今年、佐野選手には絶対的なエースへの成長が望まれている。

 昨年、キャプテンに就任した萩森友寛選手は、今シーズン限りで日下部総選手が現役を退いたことで、チーム最年長となった。まさにリーダーとしての役割が求められている。その萩森選手に指揮官が求めているのは、萩森選手独自のキャプテンシーだ。
「まだキャプテンになりきれていないところがありますね。もちろん、彼自身がプレーヤーですから、自分のことでいっぱいになるのもわかるんです。しかし、キャプテンはチームのことを考えなければいけない。チームが強くなるためには、自分はどうすべきなのか、どうしたいのかを考えてほしいなと。たとえ、その答えが間違っていてもいいんです。大事なのは萩森の方から発信することです」
 キャプテンとして2年目の今年、一回りも二回りも成長した姿が見れることを、秀島監督は期待している。

 こうした各選手の課題を踏まえたうえで、伊予銀行ではチームのさらなる進化を目指し、新たな取り組みが行なわれる。チームを3グループに分け、プライオリティをつけるというものだ。グループ分けの材料となるのが、5月に行なわれる国体県予選の結果である。決勝に進出し、県代表となった2選手には月に一度、国内のトップチームとの合同練習に行くことができる。一方、補欠となった選手は、国内大会で優勝すれば、代表選手と同様の環境が与えられる。しかしその分、他の選手の遠征回数は減少するという。つまり、これまではほぼ等しく分配されていたものを、実力・実績によって差別化するのだ。果たして、その狙いとは――。
「競争原理を入れることで、トップ選手にはよりよい環境が与えられ、強化を図ることができます。一方、下の選手には危機感をもってもらうことで、必死になってほしい。正直、この取り組みがうまくいくかはわかりません。しかし、一番避けなければいけないのは旧態依然でいること。これでは成長はありませんから」
 2012年4月、伊予銀行男子テニス部の新たな挑戦が始まる。


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