今年、伊予銀行女子ソフトボール部では3人の功労者が誕生する。実業団10年目を迎え、財団法人日本ソフトボール協会から「永年選手功労賞」を受賞する川野真代選手、矢野輝美選手、坂田那巳子投手だ。伊予銀行にとっては創部28年目にして初の快挙となる。そこで、今回は10シーズン目を迎えた3人にインタビューを敢行。「あっという間だった」と口をそろえる伊予銀行での9年間を振り返るとともに、今シーズンへの意気込みを訊いた。

 9年前の2003年、ともに徳島県辻高校から伊予銀行に入行したのが、川野、矢野の両選手だ。2年前までは4年間、川野選手がキャプテンを、矢野選手が副キャプテンを務めるなど、チームを支えてきた。川野選手が「最も勉強させてもらった」のが、そのキャプテン時代の4年間だという。
「私が思い描いていたキャプテンというのは、人の話も聞いたうえで、自分の意見を言える人。ところが、思っているのと自分がやるのとでは全然違いました。いざ、自分がキャプテンになってみると、とにかくチームをまとめるには、自分から発言していかなくちゃいけないと思ったんです。でも、そのうちに気づいたのは、自分の意見を言える選手ばかりではないということ。なかなか言えないような選手には、私の方から聞きに行くことも重要だとわかったんです」
 チームとは考えも性格も異なる選手たちの集団である。だからこそ、接し方も一つではない。リーダーとして重要なことを川野選手は学んだ。

 川野選手が新人時代、当時の監督に言われた言葉の真の意味を理解したのも、キャプテン時代だったという。
「誰でも褒められるのは嬉しいですよね。でも、1年目の時、監督に『褒められた時こそ、気をつけなければいけない。逆にけなされたと思いなさい』と言われたんです。ずっとその言葉を鵜呑みにして、「ほめられたらけなされているということなんだな」としか思っていなかったんです。でも、キャプテン就任後、周囲のことを考えられるようになるうちに、ふと気づいたんです。私の性格上、褒められて喜んでしまうと、そこで満足してしまって成長が止まってしまう。だから、褒められた時こそ自分自身で『いやいや、まだここで終わりじゃない』と引き締めることが大事なんだと。そのことに気付けたからこそ今、10年目を迎えられたんだと思います」

ピッチングの質を高めたケガ

 一方、矢野選手がソフトボールを楽しめるようになったのは、5年ほど前からだという。新人の頃は、ほとんど試合に出られず、とにかくがむしゃらにやっていた。だが、徐々に先輩たちがチームを去り、自分たちの代が中心となると、「引っ張っていかなくてはいけない」というプレッシャーはあったものの、心に余裕ができるようになったのだ。その矢野選手が最も印象に残っているのが2部で優勝し、3年ぶりに1部復帰を果たした2008年のシーズンだ。チームが1部復帰に向けて、まさに一つになって戦っていると感じられたからだ。

 実はその前年の07年、伊予銀行はキャプテンとエースという大黒柱2人をケガで欠き、苦しいシーズンを送った。12月に行なわれる毎年恒例の行内合宿でヒザを痛めた川野選手に続き、3月の大会でエースの坂田投手もが同じくヒザを痛め、戦列から離れることを余儀なくされたのだ。その年、坂田投手は最後の2試合に登板したが、結局1勝も挙げることができなかった。それだけに坂田投手にとっては、最も忘れられないシーズンだ。エースとしてチームに貢献できない自分に焦りや悔しさを感じながらも、共にケガと戦っていた川野選手と「このままでは絶対に終われない」と鼓舞し合いながらトレーニングに励んだという。そんな中、“ケガの功名”もあった。

「外から客観的に試合を見れたことで、いろいろと学ぶことが多かったんです。特にバッターに対しては、多くの気づきがありましたね。例えば、バットの軌道によって、長打を打ちそうなバッターと、打ち損じが多いバッターと、見極められることがわかったんです。それを復帰後にいかすことができました。それまでは試合の中で、必ず打ち取らなければいけない場面では常に厳しいコースに投げなければいけないというプレッシャーがあったのですが、凡打になりやすい軌道をしているバッターには、それほど厳しくなくてもいい。つまり、力の出し入れがわかったことで、ここぞという時に集中しやすくなりましたし、ピッチングの幅が広がりました」
 翌年、坂田投手は17試合中10試合に登板し、チーム最多となる6勝を挙げて優勝に大きく貢献した。心身ともに鍛えられた、あの時のケガがあったからこそ今、10年目を迎えられているのだと坂田投手は感じている。

 では、10年目を迎え、チームの最年長である自分たちの立場・役割をどうとらえているのか。「チームの心臓部分になりたい」と語ったのは、元キャプテンの川野選手だ。
「『この人ならやってくれる』という存在になりたいと思っています。そうなるために、自分には何が必要なのかを考えた時、“好奇心”だと思いました。知っているつもりでも、実はちゃんとは理解していなかったりすることって結構あると思うんです。それを今までは『まぁ、こういうことだろうな』と流していた。そのことに気付いたのが今年の年明けでした。新しく来ていただいているトレーナーさんから専門的な知識を教えていただくうちに、『あれ、今までなんとなく知っているつもりだったけど、わかってなかったかも……』というようなことがたくさん出てきたんです。それを一つひとつ訊いて確かめるうちに、自分は突き詰めることをしてこなかったなと思ったんです」
 好奇心をもつことに楽しさを覚えた川野選手は今、チームメイトのプレーを見て、疑問に思ったことはすぐにその根拠を訊く。すると、自分とは全く違う考えをしていたり、意外な答えが返ってきたりする。それが面白くて仕方ないのだという。そして、好奇心によって得られた新たな発見が、川野選手の可能性を広げている。10年目を迎えた今もなお、彼女は進化し続けているのだ。

 一方、矢野選手は縁の下の力持ちとしての役割だ。
「最年長ということで、自分自身はもちろん、後輩たちの成長を考えるようになりましたね。まずはチームがうまくまわることが最優先。キャプテンを支えるのも、監督の意思を理解して、後輩たちに伝えるのも私たちの役目だと思っています」
 そして、坂田投手は「後輩の手本になりたい」と言う半面、「でも、やっぱり若い子にはまだまだ負けたくないという気持ちが強い。切磋琢磨できればいいなと思います」とベテランとしての意地を口にした。それは川野、矢野の両選手も同じ気持ちだろう。ベテランの奮起はチームの成長にも欠かすことはできない。そのベテランが3人も存在するというのは、他のチームにはない、伊予銀行の強さでもある。

 10年目の目標

 さて、昨年、再就任した酒井秀和監督について訊くと、3人ともに開口一番、「熱い監督です!」と答えた。その熱血監督の指導によって、チームが最も成長したのは挨拶や礼儀といった、一人間、一社会人としての部分だという。そして、最初は驚いたという監督の“熱さ”が選手にも浸透し始めているようだ。
「酒井監督自身が私たちに対して正面からぶつかってこられるので、監督の前で遠慮なく自分を出せる選手が多くなりましたね」(川野選手)
「以前は試合でも冷静な部分が多かったのですが、今はものすごく盛り上がって、波に乗る感じですね。1本タイムリーが出たら、もう止まらないですよ」(坂田投手)
 プレー自体も酒井監督が求める“泥臭さ”にあふれているという。

 その酒井監督就任2年目のシーズンが、いよいよ28日にスタートする。果たしてチームの状況はどうなのか。
「正直、2月の合宿の時までは、チーム内はグチャグチャでした。というのも内野のメンバーが一気に替わり、守備がガタガタだったんです」と矢野選手が語れば、川野選手も「最初はどうなることかと心配だった」と守備への不安を口にした。だが、練習試合やオープン戦と実戦を重ねていくうちに、内野の連係プレーも安定し、今はもう不安は一切ない。さらに坂田投手は「たとえ相手に先にリードを奪われても、逆転する力がある。昨年以上の粘り強さが出てきた」と、チームの仕上がり具合に自信を見せた。

 もちろん、チームとしての目標は昨年、果たすことができなかった2部優勝、そして2年ぶりの1部復帰だ。では、3人の個人的な目標は何か。今シーズンは主にDPとして出場する矢野選手は、打点にこだわるつもりだ。
「ランナーがいる時に、いかに1本を打てるか。勝負強さを発揮したいですね」
 同じく川野選手の目標も打点だ。それも「打点王」を目指している。そのために練習時から緊張感を自らに与えているという。

「ランナーがいることをイメージしながらバッティングするというのは当然ですが、試合同様、架空のランナーを目で確認するんです。そうすると、体に緊張感が走る。自然と『ここで打たなければ』というプレッシャーがかかるんです。そういう状態で、いかに打つか。というのも、バッティングはいかにリラックスして打つかが重要だと言われます。でも、試合になればアドレナリンも出ますし、どうしても力が入ってしまう。ならば、その力が入った状態でいかに打つかを練習で準備しておこうと」
 昨年から始めたというこの練習方法のおかげで、川野選手は試合でも打席でグッと力が入った状態を楽しむことができているという。これがここ一番での勝負強さにつながっているのだ。

 一方、坂田投手の目標は、投手部門でのタイトル獲得だ。実は6年目のシーズン、2部で優勝し、1部復帰を果たしたチームの立役者として、坂田投手は最高の栄誉であるMVPに輝いた。だが、トップの防御率を残したピッチャーに与えられる最優秀投手賞や最多勝利投手賞を獲得することはできなかった自分に納得することができなかった。10年目の今年、目指すは防御率0.00だ。そしてもう一つ、坂田投手には目標がある。それは「優勝投手」になることだ。つまり、優勝決定戦で最後を締めくくり、優勝の瞬間をマウンド上で味わうことができる唯一のピッチャーである。

 伊予銀行は今、若手が多くを占め、勢いのあるチームに仕上がっている。実力的には優勝候補の筆頭であることは間違いない。だが、長いシーズン、いい時ばかりではないはずだ。疲労、ケガ、スランプ……さまざまな状況が起こり得る。だが、そんな時こそ、ベテランの存在がチームの支えとなるに違いない。川野、矢野、坂田の3選手の“10年目”がいよいよスタートする。


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