2年ぶりの1部復帰を目指す伊予銀行女子ソフトボール部は、12月の行内合宿に続いて、今月には鹿児島で強化キャンプを敢行した。期間中には1部のHondaと練習試合を2試合、さらには2日間、淑徳大学女子ソフトボール部と合同練習を行なうなど、実戦への準備にも着手した。4月に入行する新人選手を含め、19名の選手たちが今回の合宿で得たものとは……。酒井秀和監督にチームの現状について訊いた。

 今回の合宿のテーマは、走攻守における基礎固めおよび実戦感覚を身に付けることだった。まず基礎固めについては、先月から正しい体の使い方について講習を受けるなど、見直しを図ってきたことのおさらい。特に股関節の使い方をマスターすることで、走攻守にわたって下半身始動で、体全体を使ったフォームを身に付けつつあるという。

「例えば、バッティングは、トスバッティングのように遅いボールに対しては下半身始動で打っていても、ピッチャーが投げる速いボールに対しては、体が前につっこんで上半身始動となってしまいがち。そうすると、打ち損じて、打球が飛ばないんです」
 講習では基本動作からフォームを見直し、ムダのない体の使い方を習得してきた。それがようやく選手たちの体に染みついてきたのだろう。今回の合宿では、守備力、打撃力ともに手応えを感じたという。

 そして、次への段階として実戦感覚を身に付けるため、合宿中、Hondaとのダブルヘッダーが組まれた。今年初試合となった1試合目は、2−15と散々な結果に終わった。久々の実戦で、緊張もあったのだろう。エラー絡みの失点が続き、自滅するかたちでの大敗だった。
「その日は強風で、普通なら平凡な外野フライが、風にあおられて内外野の間にポトリと落ちる打球が多かった。確かに判断が難しい打球でした。しかし、それならなおさら内外野の連携が必要なのですが、お互いに声を掛け合うこともなかったんです」

 決して力の差ではない。やるべきこと、やれるはずのことができていないだけのことだった。
「自分の役割をしっかりとやろう」
 この指揮官の言葉に選手たちは、ようやく平常心を取り戻した。続いて行なわれた2試合目は5−0と勝利を収めた。
「この試合は、バッテリーの配球もしっかりと考えられていましたし、野手も捕るべき打球をしっかりとアウトにした。選手それぞれがやるべきことをやった結果です」

 試合後には、選手間でのミーティングが行なわれたという。浮き彫りとなった課題を明確にし、それを克服するためには、今後どういう練習をしなければいけないのかが話し合われた。このミーティングに酒井監督は加わってはいない。どういう話し合いが行なわれ、その結果、どういう練習をしていくのかについての報告は受けるが、選手たちが決めたことについて、口出しすることはほとんどないという。それは今シーズン、チームづくりの最重要テーマとしている「自主性」を養わせるためである。

「私が目指しているのは、“やらされる”ソフトボールではなく、自分たちで“やる”ソフトボール。ですから、キャプテンを中心に、選手全員が考え、意見を言い合いながら気づき、そしてやる気をもつことが大事だと思っています。というのも、試合になれば、結局やるのは監督ではなく、選手たちなんです。ですから、自分たちで考え、気づいてプレーすることができなければ、たとえ1部に上がることはできても、そこで勝つことはできませんからね」
 伊予銀行女子ソフトボールが目指しているのは、1部昇格ではない。その先の1部リーグでの勝利。そのためのチームづくりが、既に始まっているのだ。

 チームの成長に欠かせない2大要素

 今シーズンの新しい試みとして、酒井監督が打ち出したのは“1人2ポジション”だ。12月に行なわれた行内合宿から、野手全員に、さまざまなポジションを試し、適性を見てきた。その中で、現在は内野手が外野を、捕手が内野をという具合に、2つ以上のポジションを割り当てている。果たして、そのメリットとは――。

「一つは、各選手たちが本当はどのポジションが適正なのかを、改めて見極めたいというのがあったんです。それぞれの能力を生かすことのできるポジションが増えれば、チームにとっても有利ですからね。つまり、選手たちの可能性を発掘したかったんです」

 実際、従来とは違うポジションで、能力を発揮している選手も少なくない。例えば、これまでサードのレギュラーを張ってきた古賀郁美選手には、俊足を生かそうとセンターのポジションを与えたところ、指揮官がにらんだ通り、守備範囲が広く、なかなかさまになっているという。打球への入る角度さえつかむことができれば、センターのレギュラー争いに名乗りを挙げられそうだ。一方、外野手として入った新人の小高亜実選手は、セカンドを守らせたところ、内野手張りのグローブさばきを見せ、本人もセカンドというポジションに強い関心を抱いているという。他の選手もそれまでには気付かなかった自分たちの能力を発見しており、チームとしても可能性の広がりを見せている。

 そして、“1人2ポジション”には、もう一つのメリットがある。
「さまざまなポジションを経験することで、例えば内野手は外野手を、外野手は内野手を理解することができるだろうと。このケースではどうすることが、そのポジションにとって一番いいのかをわかっているかいないかでは、実際のプレーの上で差が出てくると思うんです。特に連携プレーでは、お互いに理解し合うことが重要。そういう意味で、“1人2ポジション”としたんです」

 基盤をしっかりと築いたうえで、新たな可能性を見出す――。“基礎づくり”と“チャレンジ精神”。チームの成長にはどちらも欠かすことのできない要素である。これらが融合された時、チームに新たな成長がもたらされるに違いない。残り2カ月でどんな変化を遂げるのか。開幕が待ち遠しい。


◎バックナンバーはこちらから