4月28日、女子ソフトボールリーグ2部が開幕した。神奈川県厚木市営及川球技場で行なわれたアドバンスセクション第1節。伊予銀行女子ソフトボール部はサヨナラ勝ちで開幕戦を白星で飾ると、第2戦は黒星を喫したものの、第3戦は6−1で快勝し、2勝1敗とまずまずのスタートを切った。選手たちの戦いぶりに、手応えを感じたという酒井秀和監督。それぞれの試合のポイント、そして今後の戦いについて訊いた。
(写真:2年ぶりの1部復帰を目指す伊予銀行女子ソフトボール部)

「春先の練習試合で見せていた粘り強さが、本番で出ましたね。冬場の練習が実を結んだのだと思います」
 指揮官がそう言って選手たちの戦いぶりを称えたのは、開幕戦だ。相手は昨季、1部に所属していた靜甲。2年ぶりの1部復帰を狙う伊予銀行同様、優勝候補の強豪チームだ。

 酒井監督が開幕投手に抜擢したのは4年目の末次夏弥投手。彼女を選んだ理由を次のように語る。
「昨季はまだ本来の力を出し切っていないように見えていた末次ですが、今季は自主的に走り込みをしたり、熱心に配球を研究したりと、とにかく自分のやれることを一生懸命に取り組んでいますね。ボール自体もキレが増してきているんです」

(写真:開幕戦で完投勝利を収めた末次投手)
 指揮官の期待に応えるかのように、末次投手は6回まで無失点。許したヒットはわずか2本と好投した。打線も4回裏に4番・相原冴子選手のソロホームランで先制すると、5回裏には新人・近藤琴美選手のタイムリー二塁打で1点を追加し、6回を終えた時点で伊予銀行が2−0とリードした。

 そして7回表、末次投手が最後のマウンドに上がった。この回を抑えれば、伊予銀行の勝利が決まる。だが、やはり相手は昨季1部のチームだけに、そう簡単に勝たせてはくれなかった。2死一塁から代打に送られた打者に一発を浴び、同点とされてしまった。しかしその裏、伊予銀行は1死一、三塁とチャンスをつかむと、この試合無安打に終わっていた新人・加藤文恵選手がここで本来の勝負強さを発揮し、一、二塁間を抜けるサヨナラタイムリー。伊予銀行は劇的な勝利で白星スタートを切った。
「例年、開幕で見られる硬さがほとんどなく、選手たちはプレーに集中していた」と酒井監督。それがサヨナラ勝ちに導いた最大の要因だった。

 勝敗を決定づけた先制HR

 翌日の第2戦、伊予銀行は日本精工と対戦した。実は、日本精工には苦い思い出がある。昨季、前節を9戦全勝した伊予銀行だったが、後節の初戦、日本精工に11点を奪われ、初の黒星を喫したのだ。その後、前節とは一転、後節は苦しい試合の連続となった。そして、この試合もまた、日本精工に苦しめられた。試合前、勝敗のカギは先取点にあると考えていた伊予銀行は早めにリードを奪い、流れを引き寄せたいと思っていた。

 初回、この試合で先発に起用された新人・木村久美投手が三者凡退に切ってとり、最高の立ち上がりを見せた。そしてその裏、伊予銀行は先頭の近藤選手が四球を選び、出塁する。しかし、2番・宇佐美彩選手の打球は不運にもサードライナーとなり、飛び出した近藤選手も帰塁できずにタッチアウト。たちまち2死となり、結局この回、伊予銀行は得点を奪うことはできなかった。

 すると2回表、日本精工が2者連続のホームランで2点を先制してしまう。初回、伊予銀行に傾きかけていた試合の流れは、これで完全に日本精工へといってしまった。
「先制された2本のホームランが勝負の全てだったと思います。木村は初めての公式戦登板ということもあり、やっぱり少し緊張していたようですね。持ち味の真っ直ぐは走ってはいましたが、本来であれば、その真っ直ぐで厳しいコースを突くのですが、日本精工戦ではコントロールが甘かった。この経験を次にいかしてほしいですね」
(写真:酒井監督の言葉に耳を傾ける選手たち)

 一方、打線も沈黙気味だった。決して打てないピッチャーではなかったものの、3安打完封を喫した要因は、やはり先制されたことにあったという。
「序盤にホームランで2点リードされたことで、気持ちばかりが焦ってしまい、体が前に突っ込んだ状態で打っていたんです。そのために簡単にフライで打ち取られてしまっていました」

 中盤になると、酒井監督はバッターへのサインを出すのをやめた。「とにかく、練習のフリーバッティングのつもりで打っていけ」。普段通りのバッティングを思い出させようとしたのだ。すると6回裏、先頭の宇佐美選手が内野安打で出塁した。2死から5番・矢野輝美選手がヒット、6番・山崎あずさ選手が四球で出塁し、2死満塁と一打同点のチャンスをつくったのだ。だが、残念ながら代打に送られた古賀郁美選手はライトフライに倒れ、得点を奪うことはできなかった。しかし、その古賀選手に対しても酒井監督は「ヒットにはなりませんでしたが、ライナーに近い、いい打球でした。方向性は決して悪くはなかった」と手応えを感じていた。

 背中で見せる新キャプテン

 その翌日、酒井監督は「昨日の日本精工戦は、完敗だった。とにかく、切り替えてこれからの一戦一戦を大事に戦っていこう」と選手たちに激を飛ばした。すると、前日の鬱憤を晴らすかのように、第3戦の東海理化戦では打線が爆発した。2回表の矢野選手の先制ホームランを皮切りに、5回表には8番・外山裕美子選手にも2ランが飛び出した。この回、さらに1点を挙げた伊予銀行は、最終回にも2点を追加した。投げては先発の江本侑香投手が1失点完投を収め、伊予銀行は6−1で快勝した。

(写真:今季から主将を務める藤原選手)
 こうして開幕3連戦を勝ち越しで乗り切った伊予銀行。課題はあるものの、新人選手が多い中、全体的には不要な緊張感もなく、積極的な戦いができている。その最大の要因は、選手たちに自主性が芽生え、酒井監督が目指してきた「やらされる」のではなく「自らがやる」ソフトボールができつつあるからだ。そのチームを背中で引っ張っているのが、今季、新キャプテンに任命された藤原未来選手だ。

「チームの中で一番やる気を前面に出しているのが、藤原です。これまで選手たちは職場からグラウンドまでバスで行っていたんです。それを、藤原は昨年から自主的にランニングするようになりました。もう今では半数ほどの選手が、バスに乗らずに、ランニングするようになりましたよ。藤原にはキャプテンになったからと、特別に何かを変える必要はないと思っています。今の自然体のまま、とにかく自分のキャッチャーとしての役割を果たそうと取り組んでさえいれば、みんなついていきますから」

 藤原選手を先頭に、ベテラン、中堅、新人選手のバランスがうまくかみあえば、相乗効果が生まれることは間違いない。チームにはまだまだのびしろがある。今後、さらなる成長を期待したい。


◎バックナンバーはこちらから