4年に1度の五輪がロンドンで開幕するまで、あと2カ月となった。五輪の代表選考も佳境を迎え、各競技で内定選手が続々と決まっている。現時点では愛媛県出身者で代表に決まっているのはボート軽量級ダブルスカルの武田大作(ダイキ)と柔道男子73キロ級の中矢力(ALSOK、新田高出身)だ。2人の代表権獲得の戦いを紹介する。
(写真:浦(左)とのペアで5度目の五輪出場を決めた武田)
 ボートの武田は浦和重(NTT東日本)とのペアで5大会連続の出場を決めた。昨秋の選考では代表から落選し、日本スポーツ仲裁機構への不服申立、再レースを経て、アジア大陸予選での五輪切符に「無事にここまで来られてホッとした」と率直な感想を漏らす。

 過去3回の五輪は前年の世界選手権で出場枠を確保していたため、アジア予選に臨むのは1996年のアトランタ大会以来。スタート時は「独特の緊張感を感じた」という。しかも、武田自身は腰の張りを感じ、本人曰く「無理して全力は出さないように気をつけた」。それでもアテネ大会では6位入賞を収めたペアだ。アジアに敵はなかった。3位以内が五輪出場の条件だったが、2位以下に6秒以上の大差をつけ、1位で予選突破を決めた。

 五輪に向けては25日からスイスのルツェルンで開催されるW杯に参加する。
「タイム的には僕たちのレベルは15位前後。でも、実際に五輪に出てくるクルーと漕ぐことで具体的な実力差を体感したい」
 武田は今回の海外遠征を“課題を探す旅”と捉えている。入賞したアテネでも指導を受けた大林邦彦元代表ヘッドコーチに担当コーチを依頼し、本番までの残された時間で最善の準備をするつもりだ。

 メダルを狙った北京五輪では浦の体調不良もあり、クルーの力を出し切れなかった。それだけに、「ベストの状態で、ベストを尽くしたい」との思いは強い。幸いロンドンのコースは05年、06年にレース経験がある。その特徴を武田は「周囲に何もなく風が強いので、波が出て荒れる可能性がある」と語る。日頃、瀬戸内の海を練習場にしているベテランにとって、これはプラス材料だ。もちろん、どんな環境であっても実力を発揮できるよう、クルーの連携を高めることが今後の課題になる。

「スタートの時に“もう思い残すことはない”という心境でいたいですね。“あれをやっていれば、これをやっていれば”という後悔だけはしたくない」
 5回目となる大舞台は、まさにボート人生の集大成。メダルという最高の結果で締めくくるべく、38歳にしてさらなる進化を目指す。

 柔道の中矢にとって五輪への最後のハードルは敵ではなく己にあった。最終選考会となる全日本選抜体重別選手権(12日)では、代表を争う秋本啓之(了徳寺学園職)との一騎打ちが予想された。しかし、1回戦で右ひじを、準決勝で右肩を痛め、思うような柔道ができない。準決勝では5分間でポイントを奪えず、試合は3分間の延長戦にもつれ込んだ。延長1分過ぎ、相手が小内刈で勝負をかけたところを支え釣り込み足で返し、技ありを奪って決勝へ進出した。

 ライバルの秋本が初戦敗退を喫し、五輪へ大きく視界が開けたが、それだけに負けられないというプレッシャーとの戦いでもあった。痛み止めを飲んで臨んだ決勝ではケガの影響で投げ技が使いにくい状況で最初は大学生の大野将平(天理大)相手に苦しんだ。それでも巴投げから得意の寝技に持ち込み、一本勝ち。翌日、正式に代表に選ばれた。
(写真:出場決定後の会見では「課題を克服して金メダルを」と意気込みを語った)

 愛媛県出身者では女子48キロ級で世界選手権連覇中の浅見八瑠奈(コマツ、新田高出身)がロンドン行きに最も近いと見られていたが、高校生相手に初戦で敗れ、まさかの落選となった。代表入りすれば金メダルは有力とみられていただけに、愛媛のファンの落胆は大きい。

 とはいえ、中矢も昨年の世界選手権では初出場初優勝を果たし、ここ1、2年で飛躍を遂げた。中矢にとって浅見は伊予柔道会、新田高の1つ先輩にあたる。無念の先輩の思いも胸に、愛媛県出身者としてはミュンヘン五輪の田口信教(平泳ぎ、西条市出身)以来40年ぶりとなる金色のメダルを狙う。

 また愛媛県に縁のある代表内定者では馬術の法華津寛があげられる。この3月にフランスでの国際大会で優勝し、世界ランキング順に割り当てられる出場枠を獲得。前回の北京大会に続き、日本人最年長となる71歳(五輪開幕時)での代表入りが決まった。

 法華津家のルーツは愛媛にあり、中世に宇和海一帯で水軍を率いていた一族だ。現在も愛媛県南部にある宇和島市と西予市の境にある法華津峠などにその名をとどめている。東京五輪以来の出場となった北京大会では残念ながら1次予選を突破できなかった。ロンドン大会は最後の挑戦と本人も明言しており、人馬一体となって最高のラストパフォーマンスを披露する。

 この他、まだ出場が確定していない有力選手では男子やり投の村上幸史(スズキ浜松AC、上島町出身)がいる。09年の世界陸上では同種目では日本勢初の銅メダル。10年のアジア大会でも自己ベストを更新して優勝した。11年8月には地元・愛媛での国体予選会で83メートル53とさらに記録を伸ばした。

 しかし今年に入って、この日本選手権12連覇中の第一人者を脅かす新星が現われた。20歳のディーン元気(早大)だ。4月の織田記念国際で村上の記録を上回る日本歴代2位の84メートル28をマーク。先日のセイコーゴールデングランプリ川崎でも81メートル43を投げ、村上を抑えて優勝した。32歳の村上は故障もあり、今季は記録が出ていない点は気がかりだ。ディーンと再び対決する6月の日本選手権は3大会連続五輪へ勝負をかける舞台となる。

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