「草茂みベースボールの道白し」(正岡子規)
 2011年度で10回目を迎えた「えひめスポーツ俳句大賞」の表彰式が3月25日、松山市内で開かれた。この賞は同市出身の俳人で野球好きとしても知られた正岡子規の野球殿堂入りを契機に、「スポーツに接して得られる感動やときめき、共感を俳句に詠み込むことにより、スポーツファンの増加と、スポーツと文化が融合した新しい芸術文化の創造」を目指して02年より設けられた。
(写真:表彰を受けるジュニア部門の受賞者)
 前回の2010年度は全国38都道府県から4,219句の応募があり、俳句部門(一般)の大賞には、「調教を終へて少女が馬冷やす」(北海道・江田三峰さん)が輝いた。また、俳句部門(ジュニア)大賞には、「ボール投げ自己新記録天高し」(愛媛県・竹田拓斗さん)、俳句に合った写真を撮影して添付するハイブリッド部門の大賞には、「挙がらぬを挙げる根性光る汗」(愛媛県・菅伸明さん)が選ばれている。

 そして今回、昨年6月から11月までの応募期間に寄せられたのは3,461句。地元・愛媛のみならず、前回を上回る全国42都道府県からスポーツを題材にした五・七・五が続々と届いた。これらの中から5人の審査員の選考により、各部門でそれぞれ大賞が決定した。

 ここで各部門の大賞作品を紹介しよう。
◇俳句部門(一般)大賞
 射撃手として秋風に正対す(神奈川県・竹澤聡さん)
◇俳句部門(ジュニア)大賞
 スノボーで転んだ人にさし出す手(青森県・田中未美さん)
◇ハイブリッド部門大賞
 射抜かむや最後の夏の遠き的(写真)(愛媛県・渡部雅人さん)

 ライフル射撃を詠み、一般の部で大賞を受賞した竹澤さんの一句は「的に対する集中力が見事に表現されている」と高石幸平審査委員長(愛媛県俳句協会会長)も高く評価。阪本謙二審査員(愛媛県俳句協会副会長)は「スポーツを俳句に詠むのは難しいが、この作品のように、俳句作家が対象スポーツに正対していけば道が開ける」と作者の観察力の高さを選定理由にあげた。

 またジュニアの部で大賞となった竹田さんの句には「転んだ人に差し出された手の温かさが得難い味を出している。スポーツに仲間の友情が詠まれている」(高石審査委員長)との講評が寄せられた。ハイブリッド部門の大賞作品では「弓道競技の射手の構えのシーンですが、眼力の素晴らしさに審査の的も射抜かれました」(愛媛県美術会・川本征紀評議員)と俳句と写真の両方が好評だった。

 加えて寄せられた句が題材としている各競技グループごとに、「金賞」「銀賞」「銅賞」「入選」の各作品も決まった。一般の部では「殿(しんがり)の走者最も息白し」(水・陸上記録競技/岐阜県・加川喜泉さん)、「エッジ磨く氷よりなお光るまで」(氷・雪上競技/東京都・野上卓さん)といった作品が金賞に選ばれ、ジュニアの部では「秋晴れやリレーのバトンにぎりしめ」(水・陸上記録競技/愛媛県・日高隆介さん)、「パンチ受けマットにしずむ俺の夏」(徒手格闘技/青森県・櫛引千種さん)などが金賞に輝いた。

 さらに愛媛県内の各メディアによる「報道関係賞」も設けられ、「負けてなお客にあいさつ夏終わる」(愛媛朝日テレビ賞/岡山県・花房典子さん)、「つな引きの勝ったり負けたりいわし雲」(愛媛CATV賞/愛媛県・大原甲斐さん)などが表彰を受けた。
(写真:ハイブリッド部門の金賞作「トビウオの夏来たりなば水飛沫」(千葉県・小田中準一さん))

 昨年3月の東日本大震災や福島第一原発の事故により、今年度は被災地から応募が寄せられるか心配されたが、岩手、宮城、福島の各県から38点の俳句が届いた。これには主催する愛媛県体育協会の大亀孝裕会長も「スポーツ俳句を通じて、皆様とのつながりを強く感じることができた」と感動していた。なかでも、震災で大きな被害を受け、現在は仮設住宅で暮らしている宮城県東松島市の関根通紀さんの「逆転の歓喜と風に花ふぶく」はバット競技で金賞に輝いた。

 関根さんは昨年度もバット(ベースボール的)競技で「審判の人にも礼をして涼し」を詠み、銀賞を獲得した。震災後は連絡がとれない状態が続き、関係者一同、心配していたが、その後、愛媛県体育協会に避難先から葉書が届き、無事が確認された。関根さん自身、津波に遭い、かろうじて生還したという。「津波によって、多くのものを失い、今は“津波以後”として一からの出発になります」。震災から1年以上経った今も仮設住宅での暮らしが続いている。

 節目の10回目を経て、大亀会長は「スポーツ俳句という文化が徐々にではあるが、全国に浸透してきたと言える」と評価する。愛媛県体育協会では「次回こそ全国47都道府県からの応募を目指して取り組みたい」としている。また次代のスポーツ文化を担うジュニアからの投句をさらに増やすことも課題のひとつだ。

 審査員のひとりでもある愛媛県俳句協会・嶋屋都志郎副会長は「スポーツ俳句は難しいと思いますが、受賞された方もされなかった方も、つづけてスポーツの分野での作句を心がけていただきたい」とアドバイスする。俳句もスポーツも「継続は力なり」。たゆまぬ日々の積み重ねが人の心に響く一句、ワンプレーにつながっていく。

 俳句もスポーツも共通の話題で老若男女の違いを越えて、ひとつにつながる良さがある。両者が今後もうまくコラボレーションすることで、後世にかけがえのない文化がバトンリレーされていくはずだ。
「惜春やゴールめざして伸びる脚」(ハイブリッド部門/愛媛県・松本健太郎さん)

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(石田洋之)
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