秋の国体に向け、弾みがついた3位入賞だ。
 国体出場、そして優勝を最大の目標に掲げるダイキ弓道部は、6月8日から行われた全日本勤労者選手権大会(東京都立小金井公園弓道場)に参加した。この大会では官公庁、会社単位で3名1組のチームをつくり、団体戦で競い合う。一昨年は準優勝、昨年は3位のダイキは、主将・橋本早苗、山内絵里加、原田喜美子の3選手で大会に臨み、1次、2次と予選を突破。決勝トーナメントは準決勝で惜しくも敗退したが、決定戦を制し、3位となった。目指していた優勝こそ叶わなかったものの、女子選手のみの参加では全チーム中最高の成績だ。3年連続の入賞を達成した3選手に大会を振り返ってもらった。
(写真:好成績を自信に愛媛県代表として3年ぶりの国体出場を狙う)
「大会前は不安はありましたが、結果が残せてホッとしています。今持っている力は出しきりました。でも優勝には届かなかった。うれしいけど悔しいという気持ちです」
 橋本はそう大会を総括する。この勤労者選手権では近的で3人が4射ずつ実施し、合計12射で勝敗を競う。まず初日の1次予選は7中以上が突破の条件。ダイキは山内が全中するなど10中で余裕の2次予選進出を決めた。

 翌日の2次予選は的中数の多い順に上位16チームが残る。だが、ダイキはここで思わぬ苦戦を強いられた。山内、橋本が3中とまずまずの結果ながら、原田が2本を外してしまう。
「大会前から調子が悪く、1次、2次と本当に苦しかったです。場合によっては(他チームと同中で並んで)競射(=各選手さらに1矢ずつ射て的中数を競う)で決勝トーナメント進出を争う可能性もあったので、山内と練習を続けていました」
 3選手で計8中。原田は責任を感じながら、全チームの成績が出揃うのを待った。1次より的中数は落としたものの、最終的には10位タイ。決勝トーナメント進出を決めた。

「誰かが調子を落としても、それを誰かがカバーする。お互いに助け合う、いいチームワークができていたと感じます」
 原田のつまづきをフォローした橋本はそう語る。勝てるチームは1+1+1が3ではなく5にも6にもなる――部員のまとめ役である橋本は最近、その思いを強くしている。念頭にあるのは昨年の国体だ。橋本ら愛媛県の成年女子がブロック予選で敗退したなか、成年男子は本番で遠的準優勝。その様子を目の当たりにした橋本は、県代表チームの雰囲気の良さに驚かされた。
(写真:自身の出来について「内容が悪く、他の2人を不安にさせてしまった」と反省する橋本)

「たとえ1本外しても、他の誰かが中てて取り戻してくれるというプラス思考で試合に臨んでいるように見えました。しかも単に仲がいいだけでなく、お互いにいいところも悪いところも指摘し合える。私たちは毎日一緒にやっているのだから、もっといい雰囲気がつくれるはずです」

 2年連続で国体出場を逃してから、橋本たちは選手同士で話し合いの機会を増やすようにした。それぞれが競技上で抱えている課題や悩みを全員で共有する。「話し合ったからと言って、解決法がすぐに見つからないものもあります。でも、悩んでいるのはひとりではない。そう感じる場ができたことはプラスになっているはず」と主将は効果を実感している。

 支え合いの精神で決勝トーナメントに進んだダイキは1回戦で九州電力鹿児島、準々決勝で和歌山県教職員を破り、ベスト4に進出する。勝ち上がりに貢献したのは予選で不調だった原田だ。1回戦では3中、準々決勝では全中と自らのペースを取り戻した。
「(2次予選後)競射の可能性に備えて練習していた時に、スムーズに弓を引けるポイントを見つけたんです。バランスがとれるようになって改善の兆しが見えてきました」

 原田は大会前、弦を引っ張る右手が倒れ、大きく弓を引けない悩みを抱えていた。石田亜希子監督の指導の下、修正に取り組んたが、直しきれないまま本番に突入した。
「練習で的中しても確かな感触がなくて、正直、試合を迎えるのが怖かったんです」
 だが、大会中も諦めることなく、浮上のきっかけを模索し続けた。暗闇でもがいたからこそ見えたトンネルの出口だった。
(写真:「いつも緊張しすぎて失敗している。目の前の1本をまず中てることに集中したい」と課題を語る原田)

 迎えた準決勝は三重県の安永との対戦だった。昨年10月の全日本実業団弓道大会でも敗れた相手だ。負けられない一戦に、ここまで安定した射を続けてきた山内が突然崩れた。
「1本目が的の端にカツンと当たって外れた。これでリズムが狂ってしまいました。2本目も外し、3本目も同じように的の端に当ててしまいました……」
 山内の失敗に、他の選手は原田が3中、橋本が全中と懸命に矢を射る。だが、相手は12本中11本を的に中てる好調ぶりで、残念ながら2年ぶりの決勝進出はならなかった。
「昨年と比べれば、1次予選から大きな波がなく、いつも通り弓を引けていました。成長を感じていただけに大事なところで外してしまい、悔しいです」
 そう言って、山内は唇を噛みしめた。

 山内は今年に賭ける思いが人一倍強い選手だ。国体ブロック予選では2年連続で県代表の補欠に回り、しかも
代表は出場権を確保できなかった。「今年こそ私が頑張って国体へ」。決意は行動になって現われた。冬場は練習後にフィットネスクラブへ通い、筋力トレーニングや有酸素運動などの体力強化を行ったのだ。「おかげで何本引いても射型が大きくは崩れないようになりました。持久力がついてきたように感じます」と自身も手応えを感じている。
(写真:「会社の理解もあり、今は競技にしっかり打ち込めている」と感謝する山内)

 国体の県代表に選ばれるのは3名のみ。17日の県の最終予選会を経て、現在、代表候補選手が6名に絞られている。代表入りへ互いの部員が仲間であり、かつライバルなのだ。当然、国体に出たいと思って練習しているのは山内だけではない。主将の橋本は、こう明かす。
「平日の練習後も居残りで弓を引いたり、休みの日に練習している部員もいます。どの部員もフォームが安定してきて頼もしくなってきました。と同時に私もうかうかしていられないという気持ちです」
 
 例年以上に活気が出てきた弓道部に、橋本は大きな可能性を感じ始めている。
「これまでは全国大会に出てみて他の強豪との差を感じることが多かったのですが、今年は違います。国体でも戦えるという手応えが十分にありました。だからこそ今年は絶対にブロック予選を突破したい。いや、突破できるんだと言い聞かせています」
 
 ダイキではこの夏、ボートの武田大作が軽量級ダブルスカルで5大会連続の五輪に挑む。武田は昨年の実業団大会で部員たちの応援に訪れて以降、事あるごとに部員の動向を気にかけている。
「武田さんが困難を乗り越えて頑張っている姿は本当に励みになります。世界と国内でレベルは違いますが、私たちも武田さんにいい報告ができるようにしたいですね」
 原田は飛躍を誓った。ロンドン五輪の軽量級ダブルスカル決勝は8月4日、国体の四国ブロック予選は8月19日。ダイキの各選手にとって勝負をかける8月がやってくる。

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