4年に1度のスポーツの祭典、ロンドン五輪の開幕まで、ちょうど1週間。今回、愛媛県からは3名が五輪に出場する。ボート男子軽量級ダブルスカルの武田大作(ダイキ、伊予市出身)、陸上男子やり投げの村上幸史選手(スズキ浜松AC、上島町出身)、陸上柔道男子73キロ級の中矢力(ALSOK、松山市出身)だ。3選手の五輪前の直前情報をお届けする。
(写真:金メダルの期待も高まる柔道・中矢)
 愛媛に40年ぶりの金メダルを――柔道・中矢
 
 柔道の中矢は初の大舞台へ挑む。代表決定後は4回の強化合宿で、更なるレベルアップを図った。気がかりなのは、代表の最終選考会となる5月の全日本選抜体重別選手権で痛めた右肩と右ひじの状態だ。6月末の時点でも完治には至らず、得意の背負い投げにも支障が出る状況だった。

 幼稚園から柔道を続けてきたなかで、ここまでケガが長引くのは初の経験。五輪出場権を得た代償は小さくなかったが、ようやく回復し、「もう技をかけても大丈夫」という段階に来ている。

 愛媛県出身者が柔道で五輪代表になるのは初めて。昨年の世界選手権では初出場初優勝を果たしており、もちろん狙うは金メダルだ。「自分の力を出し切って優勝を目指したい」と静かな口調ながら、目標をしっかり見据えている。

 柔道73キロ級は7月30日に行われる。もう本番まで10日となり、減量も開始した。
「ポイントでリードしても、守りに入って下がることなく、組み負けない柔道をしたい」
 昨年の世界王者とはいえ、挑戦者の気持ちは変わらない。

 もし金メダルに輝けば、愛媛県出身者としてはミュンヘン五輪の田口信教(平泳ぎ、西条市出身)以来40年ぶり。シドニー五輪100キロ級金メダリストで、男子代表のコーチを務める井上康生は「リキは魅せる部分はなくても、確実に勝つ柔道ができるのが強み」と期待を寄せる。柔道は他競技以上に勝利が求められるが、必ず最高の光を放つメダルを愛媛へ持ち帰るつもりだ。

 主将として日本を引っ張る――やり投げ・村上

 長年、日本では第一人者として君臨してきたスローワーにとっては意地をみせたい五輪だ。代表選考をかけた6月の日本選手権では成長著しい20歳のディーン元気(早大)に、わずか8センチ差で敗れた。同選手権の13連覇を阻まれた瞬間だった。
(写真:「やり投げを極めたい」と語る村上)

 32歳の肉体は決して万全ではない。春には右太ももを痛め、6月の日本選手権では右ヒジも故障した。懸命の治療を重ねたものの、五輪前最後の実戦となった8日の南部記念では77メートル32と低調な記録に終わった。

 しかし、年齢を考えると村上にとって、今回が最後の五輪となりそうなことは本人が一番自覚している。過去2大会はいずれも予選で苦杯を舐めてきた。北京では予選通過(12位以内)に1メートル50及ばなかった。

「この距離が現役続行に気持ちを燃やしてくれた」と明かす。翌2009年の世界陸上では82メートル97を投げ、同種目では日本人初のメダルを獲得。ロンドンでは“3度目の正直”で決勝進出が目標のひとつだ。幸い、先の日本選手権では自己ベストとなる83メートル95を投げている。ケガさえ癒えれば、世界と戦える力は十二分に持っている。

 ロンドンでは競技以外でも重責を担っている。日本選手団の主将に指名されたのだ。ただ、このところ主将にはありがたくない“ジンクス”がある。主将に選ばれた選手が軒並み本番で結果を残せていないのだ。前々回のアテネでは柔道から井上康生、前回の北京では同じく鈴木桂治が主将を務めたが、いずれもメダルに届かなかった。主将は結団式や開会式など、公式行事への出席が多く、自身の調整に集中できないという声もある。

 今回、村上は27日の開会式への出席を免除された。ただでさえ、「海外は得意ではない」と語る島っ子にとって、本番直前まで日本で準備ができるのはプラス材料だ。さらにディーンと合同で合宿を行い、切磋琢磨して本番を迎える。男子やり投げは8月9日から。ロンドンの風にやりを乗せ、高く、遠くへ最高の投擲をしてみせるつもりだ。 

 集大成のローイングを――ボート・武田

 ボートの武田は浦和重(NTT東日本)とのペアで5大会目の五輪に挑む。五輪切符獲得までには、昨秋の代表落選、日本スポーツ仲裁機構への不服申立、再レースを経ての代表復帰、アジア大陸予選での勝利と紆余曲折があった。それだけに五輪出場だけでも、これまでにない重みがある。しかし、武田は本番を見据え、「僕の場合、もう参加することに意義はない。世界を獲りに行く気持ちで臨む」と言い切る。
(写真:出場決定後には「トップスピードは世界と変わらない。それを維持できる体力をつけることがテーマ」と話していた)

 武田が世界と戦うことに、ここまでこだわるのは、初めて出場したアトランタ五輪の苦い思い出が原点にある。シングルスカルで20位に終わり、世界との差を痛感した。
「当時の僕に日本代表という意識は薄かった。“そんなもの関係ない”と思っていました。ところが表彰式で他国の国旗が揚がるのを見て、“オレは悪いことをしたんじゃないか”と思うようになりました。僕は自分の国に対して、何もできなかった……」

 本番に向けては5月にスイスのルツェルンで開催されたW杯に参加した。タイム的には6位入賞を収めたアテネ五輪のレベルまで戻ってきているという。ペアで協会に求めてきた専属コーチの設置が受け入れられないといった問題もあったが、本番までの残された時間で最善の準備をするつもりだ。

 5大会連続出場は日本の男子選手では、馬術の杉谷泰造に並び、最多タイ記録だ。6月末からはイタリアで合宿を張り、既に戦いの舞台、ロンドンに入っている。軽量級ダブルスカルは大会3日目の29日から予選が始まる。今回の五輪は、まさにボート人生の集大成である。
「これが武田大作だというレースをみせたい」
 決勝は8月4日。そのレースをメダルという最高の結果で締めくくるべく、開幕を待っている。

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