今夏、開催されたロンドン五輪で日本は、歴代最多となる38個のメダルを獲得し、大きな盛り上がりを見せた。その五輪代表選手が現在、戦いの舞台としているのが岐阜で行なわれている国民体育大会だ。その国体に伊予銀行男子テニス部から出場するのが小川冬樹選手だ。愛媛県予選で優勝した明治大学1年生の弓立祐生選手とともに上位進出を狙う。

 テニスの成年男子は今月30日から始まる。7月の四国予選で優勝し、1位通過した愛媛の初戦の相手は大学生2人が代表の大分県。勝てば、プロを擁し、強豪の神奈川県と宮崎県の勝者と対戦することになる。果たして、国体で上位進出するためのポイントとは――。秀島達哉監督は次のように述べた。
「国体は8ゲーム先取のショートゲームですから、挽回するのはなかなか難しい。やはり立ち上がりが勝敗を分ける重要な要素となります」

 では、小川選手と弓立選手の現在の調子はどうなのか。弓立選手は現在、明治大学に通う大学生だが、愛媛県出身の彼のことは、秀島監督もよく知っているという。もともとサーブやストロークといったパーツのスキルは非常に高いものをもっている弓立選手は、高校3年時にはインターハイで準優勝の経験をもつ。今春、大学に進学すると、充実した練習環境もあいまって、一段とレベルアップした。「練習時間も十分にとれていますから、怖いもの知らずで、伸び伸びとテニスをやっていますよ」と秀島監督も安心して見ているようだ。

 一方、小川選手は昨春から1年近くスランプに陥っていたものの、今年に入ってようやく本来のテニスが戻ってきた。名誉挽回とばかりに、今シーズン、小川選手のテニスへの意気込みは凄まじいものがあり、努力の甲斐あって、県予選ではチームのエースである佐野紘一選手を破って代表の座を掴み取った。決勝でも弓立選手に負けはしたものの、佐野選手との壮絶な戦いの直後にもかかわらず、ファイナルまで持ち込んでいる。秀島監督は、小川選手の国体への並々ならぬ思いを感じたという。

 この2人のプレ―スタイルは、どちらかといえば対照的だ。パワーのあるショットで攻める弓立選手に対し、小川選手は粘りが身上の守備的スタイル。そんな2人がペアを組むダブルスは果たしてどうなのか。「こちらが予想していた以上に、いいですよ」と秀島監督。四国予選でも1人がプロであった高知県との試合では、シングルスで1−1としてのダブルスで勝利。内容も申し分なく、秀島監督は大きな手応えを感じた。

 功を奏したサイドチェンジ

 しかし、実は県予選後、ペアを組んだばかりの頃は、現在のようにはうまくいっていなかったという。センターに来たボールの処理など、プレーがかみ合わなかったのだ。そこで四国予選の4日前から現地入りして行なわれた愛媛県の強化練習会で、2人はサイドを入れ替えた。弓立選手をフォアからバックに、そして小川選手をバックからフォアにしたところ、息の合ったプレーが見られるようになった。

 秀島監督はこの理由を次のように語った。
「フォア側の小川がセンターに来たボールを安定したバックハンドで打ち返すことによってミスが減り、いい流れができるようになったんです。これによって、お互いの守備範囲を肌で分かり合えたことが大きかったんでしょうね」

 それぞれの役割がはっきりしたことで、2人ならではのスタイルが確立した。カバー力のある小川が丁寧に流れをつくり、パワーのある弓立が決める――これが2人が織りなす勝ちパターンだ。
「実業団の男子のダブルスは、2人ともネットに詰めて早めに勝負にいく、という試合が多いのですが、世界的には前衛と後衛に分かれる雁行陣のかたちをとることも多くなっている。小川と弓立選手はどちらもグランドストロークが得意ですから、この雁行陣のかたちがとれるんです。無理をせずにチャンスをうかがいながら、甘いボールがきたらロングボレーやドライブボレーなどで決める。つまり、ネットに詰めなくても勝負ができるのが、2人の持ち味です」(秀島監督)

 5年後の2017年には愛媛国体が控えていることもあり、年々、県テニス関係者の国体への思い入れは強まっている。県テニス界を代表する伊予銀行としても、結果が欲しいところだ。そのため、選手にかかる責任の大きさは膨らむ一方であることは間違いない。だが、そのプレッシャーをも力にかえ、国体にこだわり抜いて結果を出すようにならなければ、常勝軍団をつくりあげることなどできない。秀島監督はそう考えている。だからこそ、小川選手と弓立選手には、ひとつでも多くの壁を乗り越えてほしいと願っている。

 また、小川選手の奮闘が国体後に日本リーグを目指すチームにも大きく影響することは間違いない。
「各選手が調子を上げてきている今、チームメイトの小川の活躍は、モチベーションを高めてくれることでしょう。これまで不調が続いていた小川が今シーズン、どれだけ必死に努力してきたかを見ているだけに、その効果は大きいと思いますよ」
 国体から日本リーグへ――。2つの大きな山をどう乗り越えていくのか。そのカギを握る国体に注目したい。伊予銀行の戦いはこれからが本番だ。


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