伊予銀行男子テニス部にとって、日本リーグ同様に重要な大会である国民体育大会が終了した。5年後の地元開催に向けて、結果を残すことが求められたが、2回戦で敗退。特に伊予銀行から出場した小川冬樹選手にとっては、本来の力を発揮することができず、悔しさが残る大会となった。しかし、だからこそ約1カ月後に迫った日本リーグへの思いはさらに強まっている。それは小川選手のみならず、思いは全員同じだ。“チーム一丸”で実業団の頂上決戦に挑む。

「悔いはありません」
 国体での結果について、秀島達哉監督はこうきっぱりと言い切った。
「今回はうちの小川と、大学生の弓立祐生選手ということで、なかなか一緒に合わせる時間がとれず、正直ダブルスに関してはうまくかみ合わない部分もあったと思います。特に2回戦は、相手の神奈川代表は2人ともリコーでやっていますから、ペアとしての力の差を感じました。小川に関しては直前にケガをしたこともあって、力を出し切ることができませんでした。結果を求めるなら、他の選手でいく選択肢もあったかもしれない。しかし、小川ともよく話し合い、私自身も練習でのプレーを見て『これならいける』と判断した。結果は非常に残念でしたが、ベストの選択をしたつもりですので、悔いはありません」
 もちろん、2回戦敗退という結果は重く受け止めている。反省材料として、次に活かすつもりだ。だが、小川選手を出場させた選択について、指揮官にブレは全くなかった。

 手応えをつかんだ敗戦

 小川選手は今シーズン、チームの誰よりも国体にかけていた。それには、理由がある。彼は昨シーズン、これまでにはないほどのスランプに陥り、約1年間もがき苦しんだ。スランプのきっかけは、自らのレベルアップを求めたことにあった。入行3年目の2010年、小川選手の調子は非常に良かった。そのシーズンの日本リーグでもチームの主力として活躍した。特筆すべきは、第2ステージのリビック戦だ。今年の全豪オープンで2回戦に進出するなど、4大大会にも出場するほどの実力者であるプロの伊藤竜馬と対戦。ストレート負けはしたものの、セカンドセットはタイブレークまで持ち込む熱戦を繰り広げた。小川選手は自らのテニスに大きな手応えを感じていた。そこで、さらなるレベルアップを図ろうと、新たな取り組みを始めた。ところが、それが暗いトンネルの入り口だったのだ。

「トップ選手との差はどこにあるのかを考えた時に、“トップ選手は一発で決める力がある。そこが自分には不足している”と思ったんです。そこでペースを上げて、自分からどんどん攻めていこうと。ところが、自分の持ち味である粘りのあるテニスができなくなってしまったんです」
ハイペースにすることで、相手からのリターンも速く、逆に簡単にポイントを取られるようになったのだ。一度、狂いが生じたテニスを元に戻すことは簡単なことではなかった。さまざまな打開策を投じてはみたものの、小川選手の調子は上向かない。少しずつ復調の兆しを見せ始めてはいたものの、日本リーグに間に合わせることはできなかった。

 シーズンを終えた小川選手には危機感が募っていた。
「チームには毎年、有望な新人選手が入ってきます。部にいられる人数は限られていますから、結果を残さなければ、テニスを続けることはできません。とにかく結果を出さなければ、と思いました」
 昨シーズンの借りを返すために、小川選手がまず目指したのは国体だったのだ。しかし、その国体で結果を残すことができなかった。だからこそ、日本リーグへの思いは強い。シーズン最後にして最大の舞台で復活をアピールしたいところだ。

 国体直後、小川選手は千代オープンに出場した。初戦敗退を喫したものの、その一戦は小川選手にとって非常に大きなものとなったという。そのワケとは――。
「ファーストセットはもうボロボロだったんです。全く、自分のテニスができなかった。そこで、セカンドセットではとにかくリラックスしてプレーしようと思いました。そしたら、タイブレークまで持ち込むことができた。結果的には負けてしまいましたが、久々に『あ、こういうテニスをすればいいんだ』といういい感触をつかむことができました。次につながる敗戦になったと思っています」

 その後の練習では、それまでテイクバックからフォロースルーまでの力みをなくし、インパクトの瞬間に力を入れることを心掛けている。秀島監督にも「打点での力加減がわかるようになってきた」という報告があったという。日本リーグでは小川選手らしいテニスで、チームに貢献することが期待される。

 求められるエースとしての飛躍

 さて、その日本リーグでは3年ぶりの決勝トーナメント進出を目指している。目標達成へのキーマンが、今やエースとなりつつある佐野紘一選手だ。昨年は、入行1年目にして日本リーグで唯一全7試合に出場し、チームを牽引した。しかし、決して順風満帆だったわけではない。他の選手がそうだったように、佐野選手もまた大学とのギャップにとまどい、一時は格下の相手にも負けることもあったという。
「学生時代は、やりたいだけ練習することができましたが、社会人になってからはそうはいかなくなった。練習量はだいぶ減りました。周りからは効率よくやることを求められたのですが、最初は仕事とテニスとの両立が難しくて、どちらも手につかない状態でした」

 しかし、徐々に社会人生活にも慣れてくると、少しずついろいろと考える余裕ができたという。
「学生時代は、テニスをすることが当たり前でした。でも、練習の時間が減って、逆にテニスができるありがたみを感じるようになりましたね。これまで以上にテニスが好きになりました」
 そんな佐野選手の言葉を聞いて、秀島監督は感慨深そうにこう語っている。
「そういう気持ちがプレーにも表れているんでしょうね。今の佐野には、波がほとんどありません。試合でも我慢できるようになった。メンタル面の強さを感じています」

 29日現在、佐野選手のシングルスの日本ランキングはチームトップの35位だ。秀島監督は、「ポテンシャルとしては、20位以内に入れるものをもっている」と、さらなる飛躍を期待している。果たして佐野選手自身は、国内トップのプロ選手との差をどう感じているのか。
「昨年の日本リーグで感じたのは、ストローク力については、プロにも負けないなと。でも、サーブ力とフィジカルには差がある。今後はその部分を強化していきたと思っています」

 フィジカルへの強化については、小川選手も同じ思いだ。
「トップ選手は、たとえ相手に振られても、きちんとした体勢から強いボールを打ち込むことができる。そのためには、激しい動きにも耐え得るだけの強い下半身が必要です。日本リーグまでの約1カ月で、しっかりとトレーニングで追い込んで、下半身を強化していきたいと思います」

 そんな彼らの強い思いを銀行側もしっかりと受け止めている。実は、新しい試みとして11月からは午前で業務を終え、午後からは練習時間に充てられることとなったのだ。こうした銀行側の配慮に、秀島監督も感謝と、そして重責を感じている。
「企業チームの休部や廃部が相次ぐこのご時世に、これだけの厚いサポートをしてもらえることは、非常にありがたいと思っています。だからこそ、選手たちは感謝するとともに、気概を感じて期待に応えなければなりません」

 来月3日から始まる全日本テニス選手権が終われば、ちょうど1カ月後に日本リーグファーストステージが始まる。2012シーズンを締めくくるにふさわしい結果を残すべく、チーム一丸となって挑む。


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