「球うける極意は風の柳かな」(正岡子規)
 2012年度「えひめスポーツ俳句大賞」の表彰式が3月23日、松山市内で開かれた。この賞は同市出身の俳人で野球好きとしても知られた正岡子規の野球殿堂入りを契機に、「スポーツに接して得られる感動やときめき、共感を俳句に詠み込むことにより、スポーツファンの増加と、スポーツと文化が融合した新しい芸術文化の創造」を目指して設けられ、今回で11回目を迎えた。
(写真:表彰を受けるジュニア部門の受賞者) 
 前回の2011年度は全国42都道府県から3,461句の応募があり、俳句部門(一般)の大賞には、「射撃手として秋風に正対す」(神奈川県・竹澤聡さん)が輝いた。また、俳句部門(ジュニア)大賞には、「スノボーで転んだ人にさし出す手」(青森県・田中未美さん)、俳句に合った写真を撮影して添付するハイブリッド部門の大賞には、「射抜かむや最後の夏の遠き的」(愛媛県・渡部雅人さん)が選ばれている。

 そして今回、寄せられたのは前年度を大きく上回る4333句。全国41都道府県からスポーツを題材にした五・七・五が続々と届き、「スポーツ俳句という文化が徐々にではあるが、愛媛ブランドとして全国に浸透してきたと言える」(愛媛県体育協会・大亀孝裕会長)かたちになった。多数集まった作品の中から5人の審査員の選考により、各部門でそれぞれ大賞が決定した。

 ここで各部門の大賞作品を紹介しよう。
◇俳句部門(一般)大賞
 晩夏光サンドバックがビシと鳴る(愛媛県・三原靖彦さん)
◇俳句部門(ジュニア)大賞
 なわとびがうまくとべたよあきのそら(愛媛県・武智姫花さん)
◇ハイブリッド部門大賞
 天を指す一糸乱れぬ秋の舞い(写真)(千葉県・小田中準一さん)

 一般の部で大賞を受賞した三原さんの一句は、けだるい晩夏の光が射し込むジムでサンドバックを打つボクサーの姿にスポットを当てた。「題材も良く、表現力も良く、見事」と高石幸平審査委員長(愛媛県俳句協会会長)も絶賛。田坂清太審査員(愛媛県俳句協会副会長)は「夏の盛りを過ぎた“晩夏光”の季語がピッタリ」と情景が目に浮かぶ言葉の選び方を評価した。

 小田中さんのハイブリッド部門の大賞作品は秋の運動会のマスゲームを題材にしている。「画面いっぱいの競技者と応援者が一体になり、秋の空が見えてくるような写真と句の一体感がある」(愛媛県美術会・宮内幸男常任評議員)、「大勢の演技者の“天を指す”クライマックスにポイントを合し、表現された秀逸作」(同・川本征紀評議員)と好評を集めた。

 加えて寄せられた句が題材としている各競技ごとに、「金賞」「銀賞」「銅賞」「入選」の各作品も決まった。前回までは13の競技グループに分けて選定していたが、今回は4年後に迫った「愛顔つなぐえひめ国体」で実施する41競技でそれぞれ賞を決めた。一般の部では「ラガーらの折り重なりて球見えず」(ラグビーフットボール/徳島県・長山敦彦さん)、「コスモスも馬上の人も風のなか」(馬術/愛媛県・岡本典子さん)、「薔薇香る剣を握れば騎士となる」(フェンシング/佐賀県・古賀由美子さん)といった作品が金賞に選ばれ、ジュニアの部では「とびきりの着地決まった大暑かな」(体操/青森県・大畑礼美さん)、「水しぶき魚はこんな気分かな」(水泳/愛媛県・萬家早紀さん)「セーリング夢と希望の帆がなびく」(セーリング/青森県・石塚迪崇さん)などが金賞に輝いた。

 さらに愛媛県内の各メディアによる「報道関係賞」も設けられ、「さんぽめのシュートがきまりどっとあせ」(南海放送賞/愛媛県・品川琴音さん)、「汗だくで組手にこめる気合いかな」(テレビ愛媛賞/愛媛県・松岡孝樹さん)などが表彰を受けた。
(写真:ハイブリッド部門の金賞作「ジャンプして俺は五月の風になる」(愛媛県・菅伸明さん))

 表彰式には第1回から応募を続け、今回は愛媛新聞社賞を受賞した宮城県東松島市の関根通紀さんが初めて出席。参加者から大きな拍手を受けた。関根さんは幼い頃に聴覚を失ったが、短い文字の中に風景や感情を折りこむ俳句の魅力にひかれ、句を詠み始めた。このスポーツ俳句大賞のみならず、多くのコンテストに応募し、賞に輝いている。前回は「逆転の歓喜と風に花ふぶく」がバット競技で金賞を獲得した。

 2011年の東日本大震災では津波に巻き込まれ、九死に一生を得た。自宅は津波で解体せざるを得ない状況で、現在も仮設住宅で暮らしている。そんな関根さんが復興への思いも込めてつづったのが、今回の入賞作だ。
「未来ある限り夏野に槍放つ」
 放物線を描き、天高く飛ぶ槍に、未来への希望を託した。
(写真:表彰される関根さん。愛媛を訪れたのも初めてだったという)

 最後まで勝負を捨てず、戦い抜くアスリートの姿は、苦難を乗り越え、新たな一歩を踏み出そうとする被災者の姿と重なり合う。その他にも「復興の青芝踏んでキックオフ」「被災地の球児宣誓風光る」といった震災復興とスポーツを絡めた句が目立った。

 県体協では今年度も引き続き、スポーツ俳句を募集し、全47都道府県から作品が寄せられることを目指している。4年後のえひめ国体を盛り上げるには、競技の普及や選手強化はもちろんのこと、普段はスポーツに縁のない人々をいかに巻き込むかが大切だ。このスポーツ俳句は、その一助となる可能性を秘めている。

 県体協の大亀会長も「スポーツ俳句を通じて、あらゆる方にえひめ国体に関心を持っていただき、さらにはえひめ国体で活躍する選手たちを応援することができれば」と願う。俳句もスポーツも老若男女の違いを越えて、共通の話題でつながる良さがある。それは他の文化的活動も同様だ。今後も、スポーツと俳句、スポーツと音楽といった異なる要素をうまくコラボレーションしていくことで、国体の機運はより高まっていくに違いない。

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(石田洋之)
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