ソチ五輪まで、残すところ3カ月を切った。各競技とも五輪に向けたシーズンが開幕し、前哨戦となるW杯が続々と開催されている。4年に1度の祭典を前に、ワールドクラスの実力を堪能するとともに、世界に挑む日本人選手の奮闘にも注目したい。中でもメダル獲得の可能性があるノルディックスキー・ジャンプ男女のエースの動向からは目が離せない。

 金メダル大本命、日本の“サラ”

 来年2月のソチ五輪で、最も金メダルに近いとみられている日本人選手は、女子ジャンプの高梨沙羅(クラレ)だ。女子ジャンプはソチ五輪から採用される新種目。身長152センチの小柄なジャンパーに大きな期待が寄せられている。

 元ジャンパーの父の影響で、高梨は小学2年で競技を始めた。兄とともに地元のジャンプ少年団に入団すると、そこからメキメキ力をつけていった。2011年1月にはHBC杯で141メートルという男子顔負けの飛距離をマーク。その圧倒的な飛距離を武器に、世界を席巻した。

12年3月のW杯蔵王大会でW杯初優勝。12-13シーズンではW杯全16戦中8勝、表彰台には計13度上がる抜群の安定感を誇った。そして、日本人初のW杯総合優勝を成し遂げたのだ。2月にイタリアで行なわれた世界選手権ではノーマルヒルで2位に入り、銀メダルを獲得。混合団体では日本代表の金メダル獲得に貢献した。

 全日本スキー連盟(SAJ)の小川孝博チーフコーチは、彼女の強みをこう分析する。
<(踏み切りの)タイミングやテイクオフの方向だったりのミスが少ない。ミスは本人も感じている部分もあるし、僕らも見ていて感じるが、そのミスを最小限に収めている。あと優れているのはスピードですね。踏み切り時もだが、空中スピードを映像などで比較しても(他選手よりも)秀でている>(デイリースポーツ13年7月3日付)

 高梨本人は自身のジャンプについて、次のように語っていた。
「こう飛んだら、こうなると、だいたいイメージできる」
“遠くへ飛びたい”という飽くなき探求心。彼女は練習の積み重ねの中で、低い姿勢を保ち、空気抵抗を極力減らす助走路でのアプローチに磨きをかけた。同時に踏み切りのコツもつかんだ。これにより、助走スピードを殺すことなく、踏み切り時の高い反発力を飛距離へとつなげることに成功したのだ。

 ジャンパーは2つのタイプに分けられる。かつての日の丸飛行隊を支えた名選手でたとえるならば、美しい飛型姿勢の船木和喜タイプと、高く飛び、飛距離を伸ばす原田雅彦タイプ。高梨は後者にあたるだろう。魅力は飛距離だ。しかし、飛び過ぎるがゆえの課題もある。その飛距離はK点(基準点)を超え、斜面の緩やかなヒルサイズ(極限点)までに及ぶため、テレマークが決まらず、飛型点で減点されることもしばしばだ。

 とはいえ、彼女が金メダル候補の最右翼であることは間違いない。最大のライバルとされるもうひとりの“サラ”の調子が思わしくないのだ。高梨が「憧れ」と公言するサラ・ヘンドリクソン(米国)は11−12シーズンのW杯総合女王で、2月の世界選手権では高梨を抑えて優勝している。しかし8月、練習中に転倒して右ヒザを大ケガし、現在はリハビリ中。本人は五輪出場に意欲を見せているが、本番までに万全な調子に戻せるかは微妙な情勢だ。

 高梨は現在17歳。最も伸び盛りの時期に女子ジャンプが五輪種目に採用されたことはシャンツェの女神に愛されている証拠か。彼女はこの幸運を「(競技に取り組んできた)先輩たちのおかげ」と口にする。高梨と同じく日本代表入りが有力視される伊藤有希(土屋ホーム)も「女子の先輩たちのおかげで今の道があることにとても感謝しています。小さい時、五輪は夢の舞台だったんですけども、2011年の春に女子ジャンプが五輪種目に決まってからは、夢の舞台が目標の舞台へ変わりました」と語る。ソチへの助走となるW杯は12月6日にスタートする。

 ブレないエース・伊東

 一方、男子ジャンプは金2個(個人ラージヒル、団体)、銀1個(個人ノーマルヒル)、銅1個(個人ノーマルヒル)のメダルラッシュに沸いた98年の長野五輪以降、3大会連続でメダルなしに終わっている。

“日の丸飛行隊”復活のカギを握るのは、やはりエースの伊東大貴(雪印メグミルク)だろう。トリノ、バンクーバーと五輪2大会連続で出場し、団体戦では6位、5位と入賞を果たした。だが、個人戦においてはノーマルヒルでのトリノ18位、バンクーバー15位が最高とふるわなかった。

 3度目の五輪へ向け、エースに気負いは見られない。伊東は「五輪シーズンだからといって特別な気持ちは全くなくて、W杯であろうが、五輪であろうが、国内試合であろうが同じ気持ちで臨んでいます。五輪が大事と言えば、大事ですけど、シーズンの最初から最後まで安定して“本当に今年は強かったな”と、思われるような成績を残したい。体の準備はもちろんですけど、心の準備もしっかしりしてシーズンに入りたいなと毎年思っています」と心境を明かす。

 伊東がブレークしたのは、11-12シーズンだ。W杯初優勝を含む4勝をあげ、9回も表彰台に上がる好成績を収めた。総合順位でも4位に入り、不振が続く男子ジャンプ界に明るいニュースをもたらした。転機となったのはメンタル面の安定だ。

「いい意味での開き直りというか、そういう気持ちづくりができるようになったんです。何でもそうですけど、いい時は何も考えなくてもいい結果が出たり、失敗しても距離が出たりする。だけど調子が悪い時は何をやってもダメ。だから自分の調子良し悪しに関係なく、その時にできることを出し切るしかない」

 日本代表のジャンプチームの横川朝治ヘッドコーチは「バランス感覚に長けている」と伊東を評価する。ジャンプでは助走しかり、空中姿勢しかり、着地しかりと体がブレないことが肝要だ。精神面のみならず、技術的な安定が今の伊東のジャンプを支えている。

 伊東は昨シーズン、世界選手権で高梨とともに混合団体の金メダルに貢献したが、個人としては右ヒザの故障の影響もあり、総合26位と不本意な成績に終わった。復活、そして3度目の大舞台に向け、男子のエースはブレることなく、23日開幕のW杯に臨む。

 男子では、41歳のベテラン・葛西紀明(土屋ホーム)の存在を忘れてはならない。W杯通算勝利数は、船木に並ぶ日本人最多タイの15勝。今シーズンは新記録更新が懸かっており、それが7度目の五輪出場にもつながる。

 男子は団体戦もあるため、五輪には最大5名が派遣される。今シーズンのW杯は、その代表争いも兼ねている。長野以来、16年ぶりのメダル獲得へ――。メンバー入りをめぐる熾烈な競争の先にメダルはある。


 ウインタースポーツもスカパー!はもりだくさん
 フィギュアスケート、スキージャンプ、アルペンスキーなどを連日放送!


【今後の主な放送予定】
 

 ノルディックスキーFISワールドカップ13/14(ドイツ/クリンゲンタール)
11月23日(土) 23:45〜(生中継) 男子ラージヒル団体戦
11月24日(日) 21:15〜(生中継) 男子ラージヒル (J SPORTS3

 アルペンスキーFISワールドカップ13/14(フィンランド/レヴィ)
11月24日(日) 06:00〜 男子回転(J SPORTS1

 フィギュアスケートグランプリシリーズ世界一決定戦2013ロシア大会(ロシア/モスクワ)
11月24日(日) 19:50〜(生中継) エキシビション (テレ朝チャンネル2

 スキーFISワールドカップ13/14(フィンランド/クーサモ)
11月30日(土) 20:30〜(生中継) ノルディック複合団体(FOX bs238

 ノルディックスキーFISワールドカップ13/14(フィンランド/クーサモ)
11月30日(土) 24:50〜(生中継) 男子ラージヒル(J SPORTS1

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。


◎バックナンバーはこちらから