2013年のプロ野球もいよいよ最終章が幕を開ける。12日からはセ・リーグ、パ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)が同時にスタート。26日開幕の日本シリーズまで手に汗握る試合が続きそうだ。今季はセ・リーグでは広島が16年ぶりのAクラス入りを果たし、初のCS進出を決めた。またパ・リーグでは東北楽天が創設9年目で初優勝を飾り、1勝のアドバンテージを得て4年ぶりのCSに臨む。大きな注目を集めそうなセ・パの2チームを中心に短期決戦の行方を展望してみたい。

 マエケン、リリーフで奇襲を

 3位・広島の強みは投手力だ。先発には前田健太、ブライアン・バリントン、野村祐輔、大竹寛と2ケタ勝利をあげたピッチャーが揃う。短期決戦ではレギュラーシーズン以上に投手力がモノを言う。力のあるピッチャーをどんどん繰り出せば、そう得点は見込めない。

 甲子園での第1ステージで対戦する阪神もランディ・メッセンジャー、能見篤史、藤浪晋太郎と10勝以上をマークした先発が3人いる。特にルーキーの藤浪は対広島は2勝0敗、防御率1.29と分が良い。とはいえ、負けの許されない戦いで新人頼みは心もとない。9月以降は広島が16勝9敗、阪神は10勝18敗と両チームの勢いは対照的だ。初戦の先発が予想されるマエケンで広島が勝てば、そのまま第1ステージを突破する可能性が高いのではないか。

 となると、問題は巨人との第2ステージだ。戦力的にはペナントレースを独走した巨人が投打に上回る。今季も広島は8勝14敗と直接対決で大きく負け越した。ただ、1試合1試合をみると、決して完敗とも言い切れない。敗れた14試合中、9試合は2点差以内の接戦だったのだ。

 巨人が接戦をモノにできた要因は強力なリリーフ陣にある。終盤になれば、右のスコット・マシソン、左の山口鉄也から抑えの西村健太朗へとつなぐ必勝リレーを打ち崩すのは難しい。3投手とも対広島の防御率は0点台。先発陣なら広島も巨人に対抗できるが、ブルペン勝負では苦しくなる。

 では、広島が勝つにはどうすればいいか。私はマエケンのリリーフ起用もひとつの方法だと考える。マエケンが第1ステージの第1戦に先発し、広島が第2ステージ進出を果たした際、先発で行くには中4日でも第2戦まで待たなくてはならない。格上相手に初戦を落としては番狂わせは起こせないだろう。ならば第1戦から、終盤の競った場面でマエケンを投入し、流れを巨人に渡さないことが大切だ。

 79年、広島が初の日本一に輝いた日本シリーズでは、3勝3敗で迎えた第7戦、クローザーの江夏豊が1点リードの7回途中から登板し、最後まで投げ切った。最終回、無死満塁の大ピンチをしのいだシーンは“江夏の21球”として伝説になっている。レギュラーシーズン通りの戦い方では奇跡は起きない。マエケンのリリーフという奇策で、巨人ベンチはもちろん、日本中をあっと驚かせてほしい。

 キーマンは捕手・石原

「名捕手あるところに覇権あり」との言葉に象徴されるように、短期決戦ではキャッチャーの重要性はより増す。1球のサインミスが命取りになることは言うまでもない。巨人のレギュラーキャッチャーは言わずと知れた阿部慎之助。名捕手の野村克也さんは「日本シリーズを経験するとキャッチャーは伸びる」と語っていたが、阿部は日本シリーズのみならず、五輪、WBCでもマスクを被った実績を持つ。年々、リードに対する評価も高まっており、扇の要としては申し分ない。

 対する広島の石原慶幸はプロ12年目で初体験の短期決戦である。09年にはWBC日本代表の一員だったとはいえ、ほとんど出場機会はなかった。WBCで日本代表の総合コーチだった伊東勤(現千葉ロッテ監督)は「キャッチング、スローイング、ワンバウンドを止める技術、ブロッキングもすべて含めて日本でナンバーワン」と高く能力を買っていたが、リードに関しては“ワンパターン”との声も聞く。

 ある球団のスコアラーは「困ったらアウトコースに構えるから分かりやすい」と指摘していた。巨人には野村ID野球の薫陶を受けた橋上秀樹戦略コーチがいる。おそらくCSに向けて、石原のリードを丸裸にしてくるはずだ。普段通りの配球では、巨人打線の餌食になってしまうだろう。

 広島がCSを勝ち抜くには、石原のリードは大きなカギを握る。たとえば95年の日本シリーズ、ヤクルトのキャッチャー古田敦也は、オリックスのイチローを封じるべく、インハイの速球を徹底して要求した。インコースを意識させることで、アウトコースのボールを有効活用したのだ。
「遠めを意識させて懐をつく。あるいは懐を意識させて遠めを使う。彼くらいのバッターを抑えるには、目をあっちこっちにやらせないといけない」
 シリーズを振り返って古田はそう語ったものだ。イチロー攻略に成功したヤクルトは4勝1敗でシリーズを制した。

 石原にも、こういった思いきった組み立てが求められる。無難なリードでは、無難な結果しか生まれない。肉を斬って骨を断つような配球で、巨人のスカウティングを混乱させる展開に持ち込めばシリーズの行方は分からなくなる。

 ちなみに石原はシーズンの打率が.248ながら、巨人戦に限っては.333と相性が良い。先発が予想される内海哲也には9打数4安打、菅野智之には10打数3安打だ。守りのみならず、攻撃面でもキーマンになるかもしれない。

 下剋上にはストップ・ザ・マー君

 パ・リーグは楽天が2位以下に7.5ゲーム差をつけ、終わってみれば独走Vだった。その最大の功労者はマー君こと、エースの田中将大である。今季は開幕から連勝を重ね、24勝0敗1セーブ。昨季からの連勝も28に伸ばし、それまでのプロ野球記録(20連勝)を大幅に更新した。20勝以上をあげてのシーズン無敗は初の快挙である。楽天のトータルの勝ち越しは23だから、田中ひとりですべての貯金を稼いだことになる。

 今季の田中は、どこがすごいのか。ロッテのベテラン井口資仁は次のように証言する。
「(ランナーが)得点圏にいると、なかなか打たせてくれませんね。突然、ギアが入るんです。たとえコントロールミスをしても、絶対に長打にならないコースに投げてくる。それにスプリット(高速で落ちる変化球)がいい。去年くらいから完全にマスターしましたね。そしてスライダー。以前はスラーブのような(大きな)曲がりだったんですが、今はカットボール気味にギュッと滑る」

 優勝を決めた9月26日の埼玉西武戦では4対3と1点のリードの9回、リリーフでマウンドに上がり、見事、胴上げ投手になった。1死二、三塁と一打逆転サヨナラのピンチを招きながら、井口の言葉にあるようにランナーを背負ってから本領を発揮するのが田中だ。西武が誇る3、4番の栗山巧と浅村栄斗を真っ向勝負のストレートで連続三振に切ってとった。まさに“マー君劇場”だった。

 楽天は優勝により、CS第2ステージで1勝のアドバンテージを得ている。田中は満を持して初戦に先発し、中4日で最終第6戦の登板も可能だ。ここで確実に2勝すれば、アドバンテージを加えて、楽天はあとひとつ勝てば突破できる計算になる。絶対的エースの存在は、短期決戦では極めて大きい。

 裏を返せば田中に黒星をつけない限り、2位・西武、3位・ロッテの下剋上はあり得ない。両チームには田中を得意にするバッターがいる。西武は浅村、ロッテは井口。いずれも中軸の選手だ。浅村は7打数3安打で打率.429、井口は11打数4安打で.364という成績を残している。井口は7月に日米通算2000本安打を達成した際、田中からホームランを放った。第1ステージでどちらが勝ち上がるかは予想が難しいが、いずれにしても中軸の前にチャンスをつくり、最も期待できるバッターに回すことが攻略の近道だ。

 バッテリーごと揺さぶりを

 とはいえ、威力十分のストレート、曲がりの鋭いスライダーにスプリットと、田中の持つボールはどれも一級品である。すべての球種に対応して打てるような相手ではない。打席に入るにあたっては、球種、コースを絞っての割りきりが重要になる。

 その点でストップ・ザ・マー君の作戦として、「嶋の配球を徹底分析する」と明かすのが、田中の恩師でもある野村克也さんだ。
「彼は非常に怖がりなんです。内角を突けない。きっと、ぶつけ返されるのが嫌なんでしょう。そういった性格を踏まえれば配球のパターンは読めてくる」

 本人にこの点を質すと、「インコースに投げられるピッチャーもいれば、投げ切れないピッチャーもいる。インコースに投げさせたからといって、打たれて負けたら意味がない」と語っていた。もちろん、実際の嶋のリードは単純に外角一辺倒というわけではない。ただ、傾向がつかめれば、思い切った作戦は取りやすくなる。
 
 簡単に連打は見込めないのだから、足を絡めるのもひとつの戦術だ。田中のシーズン最終登板となった10月8日のオリックス戦、2回に2死一、三塁から森脇浩司監督はダブルスチールを仕掛けた。これが見事に決まり、三塁ランナーが生還。田中から1点をもぎとった。西武には今季40盗塁を決めたエステバン・ヘルマンをはじめ、秋山翔吾など機動力を使える選手がいる。ロッテも岡田幸文ら俊足の選手が多い。あらゆる手を駆使してバッテリーを揺さぶらなくては難攻不落の城は落とせないだろう。

 楽天にとっての不安材料をあげれば、短期決戦の経験が少ないことか。西武、ロッテにはいずれもCSを勝ち抜き、日本シリーズも制した実績がある。しかし、楽天のCS出場は09年の1度だけ。その時は第2ステージ敗退だった。レギュラーシーズンの優勝争いでも2位以下と大差がついたことにより、“明日なき戦い”を繰り広げる必要はなかった。

 翻って西武とロッテは最終戦まで順位が確定せず、最後の最後まで負けられない試合が続いた。修羅場をくぐり抜けて生まれた勢いは侮れない。しかも、なぜか星野仙一監督は短期決戦に弱いのだ。日本シリーズは3度戦って全敗。日本代表の指揮を執った08年の北京五輪も、決勝トーナメントでは韓国、米国に続けて敗れ、メダルを逃している。こうした呪縛も楽天は振り払わなくてはならない。

 仙台で日本シリーズを――東北の悲願を達成するには、大きな山が待ち受けている。


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【クライマックスシリーズ日程】 ( )内は中継局、時間は試合開始時刻

◇セ・リーグ第1ステージ(第1、3戦はGAORA 第2戦はスカイ・A sports+
 阪神 × 広島 甲子園 
第1戦 10月12日(土) 14時
第2戦 10月13日(日) 14時 
第3戦 10月14日(月) 14時

◇セ・リーグ第2ステージ(日テレG+
 巨人 × 第1ステージ勝者 東京ドーム
第1戦 10月16日(水) 18時 
第2戦 10月17日(木) 18時
第3戦 10月18日(金) 18時
第4戦 10月19日(土) 18時
第5戦 10月20日(日) 18時 
第6戦 10月21日(月) 18時

◇パ・リーグ第1ステージ(テレ朝チャンネル2
 埼玉西武 × 千葉ロッテ 西武ドーム
第1戦 10月12日(土) 13時
第2戦 10月13日(日) 13時
第3戦 10月14日(月) 13時

◇パ・リーグ第2ステージ(日テレプラス
 東北楽天 × 第1ステージ勝者 Kスタ宮城
第1戦 10月17日(木) 18時5分
第2戦 10月18日(金) 18時5分
第3戦 10月19日(土) 14時5分
第4戦 10月20日(日) 13時5分
第5戦 10月21日(月) 18時5分
第6戦 10月22日(火) 18時5分

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