今季の日本ゴルフツアーはルーキーが規格外の強さをみせつけた。4月にプロ転向したばかりの松山英樹が1年目で初の賞金王に輝いた。新人では史上最多タイとなる4勝。わずか16試合で年間賞金は2億円を突破した。これは史上最速である。国内のみならず、海外でも全米オープンで10位タイ、全英オープンでは6位タイと、日本人で初めてメジャー2大会連続のトップ10入りを果たした。

「結果は100点以上をつけるけど、ここで満足したらメジャーでは優勝できない。アメリカ、そしてメジャーで勝てるように練習したい」
 夢は日本人初の海外メジャー制覇。その可能性を示したシーズンだった。

 ただ、1年間、国内外を飛びまわってプレーしてきた松山の体は決して万全だったわけではない。シーズン終盤には左手親指付け根の関節を痛め、賞金王を確定させたカシオワールドオープン後は、ツアー最終戦(日本シリーズJTカップ)、女子、シニアツアーとの対抗戦(日立3ツアーズ選手権)を欠場。20日からアジア選抜チームの一員として出場予定だった「ザ・ロイヤルトロフィ」(中国・広州ドラゴンレイクGC)も不参加が決まった。

「左手はショットの際、ボールの行方の舵をとる役割を果たします。ケガを治すなら、しっかり時間をかけたほうがいい。右利きだから、どうしても右のパワーが強くなるので、それを支えるだけの左手の強化も今後は必要になるでしょう」
 大ベテランの青木功は、そう若き賞金王にアドバイスを送る。今回、ロイヤルトロフィで欧州勢との対決が見られないのは残念だが、万全な状態で新年のさらなる飛躍を望みたい。

 ロイヤルトロフィは今年で7回目を迎える欧州勢とアジア勢の対抗戦である。ここまでの対戦成績はアジアの2勝4敗。ただ、昨年は尾崎直道がキャプテンを務めたアジア選抜が、史上初のプレーオフにもつれこむ激戦を制した。今回はアジア勢初の連覇に挑む。

 欧州勢は欧州ツアー8勝のポール・ローリー(スコットランド)をはじめ、実力者が揃う。迎えうつアジア勢は石川遼、藤田寛之の日本人2選手に加え、金亨成、金庚泰(韓国)、呉阿順(中国)と日本ツアーで賞金ランキング上位の選手たちがメンバー入りした。

 石川、ライバルの出現を成長に

 松山の欠場で、チームを牽引する存在として期待がかかるのが、同学年の石川遼だ。石川はロイヤルトロフィは5大会連続の出場。昨年の大会では2日目に藤本佳則と組み、15番でイーグル、16番、17番と連続バーディーを奪う圧巻の内容。リードを許していた欧州チームを終盤でひっくり返し、アジア選抜の優勝へ流れを呼び込んだ。09年の大会でもソレン・ハンセン(デンマーク)に対してシングルマッチで引き分けるなど、欧州の強敵と互角に渡り合い、アジア選抜の初優勝に貢献している。

 今季の石川は米ツアーに拠点を移し、海外でレベルアップを図った。慣れない環境もあり、13年シーズンはバイロン・ネルソン選手権の10位タイが最高順位だったが、10月に開幕した13-14年シーズンでは2戦目のシュライナーズホスピタルオープンで通算18アンダーの2位タイでフィニッシュした。米ツアー初勝利も視野に入りつつある。

 プロゴルファーで解説でもおなじみのタケ小山は、石川について「技術的には素晴らしいものを持っている。若い時期に米国でしっかり腕を磨いてほしい。そうすればメジャーで勝つチャンスが必ず出てくる」と語る。松山がメジャーで好成績を収めたことで、口に出さずともライバル意識はより高まっているはずだ。

 尾崎将司、中嶋常幸と“AON”時代を築いた青木は「今まで遼には同年代のライバルがいなかった。でも松山が出てきて、今や世間的には“抜かれた”とみられている。闘争心に火がついているのではないか」と分析する。AONは互いに敵対心をむき出しにすることで高め合ってきた。それはシニアになった今でも変わらない。

 昨年の日本オープン、AONが同組でラウンドした際には、当時70歳の青木に1打負けた65歳の尾崎が「あんたに負けたのが一番、腹立つんだよ!」と言い放ったのは記憶に新しい。青木もかつて、尾崎には「負けたのが悔しくて、顔を見るのもイヤだった」時期があったという。アスリートである以上、何が何でも勝ちたいという闘争心がなければ、この世界では生き残れない。AONはゴルフの技術もさることながら、勝負への執着心でも他を圧倒していた。

 その意味で松山の今年のブレイクは、石川を脱皮させるきっかけとなるかもしれない。今回のロイヤルトロフィは松山が不在なだけに、石川にとっては存在感を示し、2014年につなげる大会にしたいところだろう。

 藤田がベテランでも強い理由

 もうひとりの日本人選手、藤田は“アラフォーの星”である。昨年は43歳のシーズンで悲願の賞金王を獲得した。20代の頃は決して目立つ存在ではなかったが、齢を重ねるごとに成績を向上させていった。ツアー通算15勝のうち、40歳を過ぎてからの勝ち星が9勝を占める。

 多くの選手が下降線に入る年代で、進化を続けられた背景には何があったのか。私は、自分の居場所、強みをしっかりと持っているからではないかと感じている。

 藤田は身長168センチと小柄で、飛距離を稼げるタイプではない。しかし、ショートショット、リカバリーアプローチ、パッティングといった小技を徹底的に磨きあげた。リカバリー率では過去4度、トップの数字を残している。誰にも負けないストロングポイントを持っていることがベテランになっても輝きを放っている要因なのだ。

 調子が悪く、勝てない時でも、自分の戻れる場所、頼みの綱がある選手は大崩れしない。武器があるからこそ、長く第一線でプレーできる。今季の藤田は開幕前に脇腹を痛めた影響でショットの調子が上がらず、未勝利に終わった。だが、培った技術が錆ついているわけではない。体さえ戻れば、またベテランの持ち味を存分に出してくれるはずだ。

 今回のロイヤルトロフィにはアジア選抜のキャプテン、Y.E.ヤン(韓国)の指名で初参戦する。パワーで勝る欧州勢に、テクニックで対抗し、復調へののろしをあげてほしい。

 ロイヤルトロフィは各8選手による対抗戦のため、通常の個人戦とは違ったおもしろさがある。1つのボールを2人で交互にプレーするフォーサム形式や、2人のうちスコアが良い方を採用するフォーボール形式のラウンドがあり、選手の特徴や対戦相手を踏まえて、どのようにペアを組むかが勝敗を左右する。

 組分けは両選抜のキャプテンが考える。アジア選抜はヤン、欧州選抜はマスターズで2度の優勝を誇るホセ・マリア・オラサバル(スペイン)が今回のキャプテンだ。飛ばし屋とテクニシャン、勢いのある若手と経験豊富なベテランなど、それぞれのペアがどんな意図を持って組み合わされたのかを考えてみると、中継がより楽しくなるはずである。 


 ゴルフ中継もスカパー!はもりだくさん
 関連番組も多数放送!


【ザ・ロイヤルトロフィ放送予定】

(すべてゴルフネットワークで生中継、各ラウンド最大延長19:00まで、再放送あり)

1日目:12月20日(金) 12:00〜18:00 フォーサム(1つのボールを2人で交互にプレー)4ゲーム

2日目:12月21日(土) 12:00〜18:00 フォーボール(2人のうちスコアが良い方を採用)4ゲーム

最終日:12月22日(日) 12:00〜18:00 シングルスマッチ8ゲーム

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
◎バックナンバーはこちらから