世界中のサッカーファンが興奮するブラジルW杯の開幕に呼応するかのように、世界中のモータースポーツファンが熱狂するビッグレースが開かれる。ル・マン24時間耐久レースだ。1923年の初開催から数えて、今年で82回目。F1のモナコグランプリ、インディ500と並ぶ世界三大レースのひとつに数えられる。今回は6月14日から15日にかけて、フランス西部の都市ル・マンを舞台に24時間にわたって実施される。

 ル・マンのレースは現在、世界を転戦するFIA世界耐久選手権シリーズ(全8戦)の第3戦という位置づけだ。しかし、その伝統と24時間というレース時間の長さから、注目度は他のシリーズ戦とは段違いである。スタンドもピットレーンもコース沿いもファンがひしめき合い、一種のお祭りのような雰囲気を醸し出す。参戦するメーカー、ドライバーもル・マンに照準を合わせてシーズンを戦っていると言っても過言ではない。

 今回で3回目の出場となる中嶋一貴は「1年通じてチャンピオンシップで勝つことと同じくらいか、それ以上の価値がある」と語り、続ける。
「他の競技の選手がW杯やオリンピックに臨むのと同じくらいの気持ちです」

 “人車一体”で目指す栄冠

 中嶋にとって、ル・マンは“3度目の正直”を目指す舞台だ。トヨタ・レーシングチームのレギュラードライバーに起用され、初参戦となった2012年は、本山哲の乗る日産・デルタウイングと接触。その後、エンジントラブルが発生し、リタイアを余儀なくされた。昨年のレースは同じマシンを運転した他のドライバーがクラッシュに遭い、惜しくも表彰台に届かず、4位だった。

 所属するトヨタにとっても今年のル・マンは悲願達成を狙っている。87年の参戦以来、ここまで2位が4回。昨年も2台を送りこみながら、2位と4位で頂点には立てなかった。今季はニューマシンの「TS040 HYBRID」を投入。最大1000馬力を出すことが可能になった。コーナーなどで減速した後の立ち上がりに威力を発揮し、今季の世界耐久選手権シリーズでは第1戦、第2戦と連勝を収めている。

 モータースポーツはチーム競技の側面が強い。ドライバー、マシン、メカニックがひとつになってゴールを目指さなければ栄冠は手にできない。以前、中嶋の父である中嶋悟にインタビューした際、最も印象に残った言葉がある。
「自動車は、すべて自分の気持ちで動いている」
 悟もF1の舞台で活躍し、日本レーシング界のパイオニアとも言えるドライバーだった。

「僕がアクセルを踏もうとしているのは何のためか。先に行こうと思っているからなんですよ。だからアクセルを踏むと、それが車に伝わってガソリンがたくさん流れて、タイヤが後ろにクルッと回るのが想像できる。“ガスを吸えば、こっちへグッと来て、あのへんでハンドルを切るよな”というのは車にも伝わっている。僕はそう思っています。だから、こちらも車の気持ちをわかってやることが大切。でこぼこ道を走る時には、“車が痛がるかな、悪いな”という気持ちを昔から持っていました」
 車は単なる機械ではない。人が心を通わせなければ思い通りには走らないというわけだ。競馬で理想とされるのは“人馬一体”だが、それに倣えば、“人車一体”ということか。

「自動車に問題があっても、ドライバーがカバーする場合もあるし、ドライバーと自動車に何か問題があっても、その他でカバーすることもある。すべてがリンクしていますから、要するに、いい機械といい人間がかたまって100%になるんです」
 悟がそう語っていたように、ル・マンのような長時間レースにおいては、よりマシンと人間の連携が問われる。いくら最先端のマシンであっても、それを24時間もの間、より速く走らせるのはドライバーやピットクルーの腕にかかっているのだ。

 日本のメーカーがル・マンを制すれば、91年のマツダ787B以来となる。中嶋一貴の運転するマシンがトップでチェッカーフラッグを受ければ、日本メーカーで日本人ドライバーが優勝する初の快挙だ。文字どおりチーム一丸となって、表彰台の一番高いところに立てるか。

 王者アウディ、古豪のポルシェ

 トヨタの行く手に立ちふさがりそうなのが、同じく世界的メーカーのアウディとポルシェである。アウディは99年の参戦から15回のレースで13度の優勝と近年は圧倒的な強さを誇る。ドライバーも昨年の優勝メンバーであるロイック・デュバルと、ル・マンを史上最多の9度も制したトム・クリステンセンが1台の車を操る。もう1台には11年、12年とル・マンを連覇したアンドレ・ロッテラーらが乗る。

 そして、今回の注目は16年ぶりに復帰したポルシェだ。メーカー別では歴代1位の16度の優勝。かつては“耐久王”の異名をとったブランドがル・マンの地に戻ってくる。久々の大舞台に合わせて製造された「ポルシェ919ハイブリッド」を擁し、世界耐久選手権シリーズの開幕戦では早速、表彰台(3位)に立った。王者アウディに、古豪ポルシェとトヨタが挑む三つ巴のレース展開となりそうだ。

 全長13.6キロの周回コースは競技専用のサーキットは一部分で大半は公道だ。公道部分は当然、普段はトラックなどの往来があり、両端がへこんでいて平らではない。特に視界が悪くなる夜間は路面状態を見極めるドライバーの判断力がカギを握る。また、直線が長くスピードが出やすいのも、このコースの特徴だ。勝敗を分けるのは減速のために設けられたシケインやコーナー。ここでの混戦をいかに速く抜け出せるかで順位は変わってくる。昼夜を徹したレースで疲労も溜まるなか、ドライバーの集中力がより試されるコースと言えるだろう。

 車体の3つのランプを要チェック

 レースは大きく分けて4つのカテゴリで競う。先にあげたアウディ、ポルシェ、トヨタら各メーカーが叡智を結集するのはプロトタイプ部門のLMP1。ハイブリッドカーと非ハイブリッドカーに分かれて順位を争う。プライベートチームで競うLMP2では、日産自動車のエンジン供給の下、井原慶子が出場する。昨年の世界耐久選手権シリーズのドライバーズランキングは22位で、これは女性では最高位。3年連続の参戦となるル・マンは、昨年はマシントラブルでリタイアするなど実力を出し切れていない。世界最高の女性ドライバーとして好成績を期待したいところだ。

 日産といえば今回、環境に配慮するなど最新鋭の技術を駆使したマシンによる特別枠で「NISSAN ZEOD RC」を送りこむ。飛行機を思わせる細長のボディデザインもさることながら、リチウムイオンバッテリーを搭載し、電力で300キロ以上のスピードを出せる。近未来を先取りしたようなレーシングカーに乗るのは、ル・マンは4度目となる本山だ。日産は来年からLMP1でのル・マン復帰を表明しており、今回のレースはその足掛かりを築く場でもある。

 残り2つのカテゴリは、いずれも市販車両をベースにしたマシンを用いる。プロドライバーが乗るLM-GTE Proと、アマチュアドライバーによるLM-GTE Amだ。こちらは、いわば世界のスーパーカーが勢ぞろいした見本市。車好きには見ているだけでたまらない時間を過ごせるだろう。

 それぞれのカテゴリは、LMP1は赤、LMP2は青、LM-GTE Proは緑、LM-GTE Amはオレンジで色分けされたナンバーカードが車体につけられ、観戦者も判別できるようになっている。とはいえ、各カテゴリが混在して周回で走るため、観戦していて、どのマシンがトップなのかは分かりにくい。

 そこでチェックしたいのが、マシンの両サイドにつけられた縦に並んだ3つのランプである。1位のマシンには1つ、2位は2つ、3位は3つ全てのランプが点灯する。これを見れば、上位を走る車が一目瞭然だ。

 スカパー!ではJ SPORTSでスタートとゴールの時間帯に2部構成でレースの模様を生中継する。またスカパー!オンデマンドでは24時間ライブ配信されており、PCやスマホ、タブレットでいつでも、どこでも視聴可能だ。レースは一発勝負。24時間は短いようで長く、長いようで短い。今年も繰り広げられるであろう数々のドラマを、可能な限りリアルタイムで目に焼き付けたい。

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【ル・マン24時間耐久レース 放送予定】
スタート 6月14日(土) 21:30〜翌06:00
ゴール  6月15日(日) 16:00〜23:30
 いずれもJ SPORTS3で生中継
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