実を言えば、いままでで一番ドキドキしている。
 初めて日本がW杯に出場した98年の時は、あの舞台にたどり着いただけで感無量になってしまっている自分がいた。なので、もちろん頑張ってほしかったし、勝ってもほしかったけれど、勝てるはずがないと思っていた部分があった。
 原稿の上では、相手を尊敬しすぎているだのあまりにも消極的すぎるだのと批判めいたことも書いたが、それはすべて、自分にも当てはまることだった。

 あの時のわたしにとって、W杯はまだ戦いの舞台ではなかった。晴れ舞台。祭りの日。ボーナスステージ。ゆえに、勝って得られるプラスのことは夢想しても、負けて生じるマイナスのことは何一つ考えていなかった。

 4年前は正反対だった。準備期間があまりにお粗末だっただけに、勝てるとは到底思えなかった。いかにして惨敗によって生じるマイナスを減らすかということばかり考えていた。

 今回は、違う。わたしは生まれて初めて、W杯のプラスとマイナスの両方を想像している。勝って得られるものは途方もなく大きく、負けて失われるものも悪魔的に大きい。そして、プラスとマイナスの間にあるギャップの大きさが、味わったことのない緊張感をもたらしてくる。

 3戦全敗もありうる。
 ザンビア戦での日本を見たコートジボワールが油断をしてくれることは絶対にない。日本は史上初めて、自分たちを警戒してくるランキング上位の相手と戦い、ゴールをこじあけていかなければならない。これは、自分たちが得点をあげることしか考えていない相手からゴールをかすめとるより、かなり難易度の高いミッションである。

 3戦全勝もありうる。
 2戦目のギリシャが初戦でコロンビアに苦杯を喫していれば、彼らは日本戦での勝ち点3が必須となる。引き分けもにらんだカウンター狙いをされると厄介なチームだが、前に出てきてくれれば怖さは半減する。ここで連勝となると、最終戦のコロンビア戦はともに決勝トーナメント進出を決めたあとの消化試合となる可能性も出てくる。

 公言している通りの高みに到達すれば、日本サッカーの人気は爆発するだろう。3戦全敗、あるいは1次リーグ敗退などということになれば、選手たちには凄まじいバッシングが降り注ぎ、わたしたちにも無責任に期待を煽った、と非難の矢が向けられるかもしれない。

 しびれるではないか。
 ブラジルでは、天国への階段も、地獄への穴も用意されている。間違いなく言えるのは、爆発的な歓喜も絶望的な痛みも、日本を強くしていく上で絶対に必要、ということである。

<この原稿は14年6月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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